かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2013.4.04 update.
東京警察病院看護専門学校卒業後、臨床看護、フリーナース、看護系人材紹介所勤務を経て、フリーライターに。医療・看護系雑誌を中心に執筆活動を行う。現在の関心事は、介護職の専門性と看護と介護の連携について。「看護と介護の強い連携で、日本の医療も社会も、きっと、ずっと良くなる!」と思っている。
ナースのなかにも腰痛を抱える人はたくさんいらっしゃることと思います。腰痛は“二足歩行の宿命”とも言われ、メソポタミアの遺跡から出土された人骨にも腰痛の形跡がみられています。人は腰痛と長い間付き合ってきているのです。
腰痛の人は全国に2800万人いることが、厚生労働省(以後、厚労省)の調査(全国8カ所の住民約1万2千人を問診)で分かりました。それによると、「腰に痛みがある」「1カ月以内に1日以上痛みがあった」と答えた人は40代、50代でそれぞれ4割前後、最も高かったのは60代で4割強の人が腰痛を訴えていたそうです。逆に70代以上の年代になると減少傾向を示しました。
また、別の調査では、職業性腰痛に悩む人も増加していることが明らかになっています。直近の10年で比較すると、全体では1割程度増加し、なかでも介護施設で働く人たちの腰痛は2.4倍に増加していたということです。
看護同様、介護現場の人材不足は深刻で、働く人たちの負担は大きなものです。腰痛を理由に仕事を休むケースが急増しているために人手不足に拍車がかかり、残っているスタッフの負担がさらに増大して腰痛を発症し、また休職・離職する、という悪循環が起こります。関係者は「早急な対策が必要」と危機感を高めています。
こうした状況に対して、厚労省では「職場における腰痛予防対策指針」の改定案を同省内の検討会に提示し、2015年5月に新たな指針を通知する予定です。現在検討中の指針案では、「ノーリフト」を中心にスタッフの労働環境改善を図って負担軽減を目指しています(表1)。
ノーリフトとは、押す、持ち上げる、運ぶ、等の人力のみによる介助を禁止する運動で、介護リフトやスタンディングマシーン、スライディングシートなどの介護機器を使用した移乗介護を義務付けるものです。それによって介助者の腰痛を防ぎ、無理な介助を受けることで被介護者に褥瘡や拘縮を生じさせたり、それらの悪化を招いたりすることを防いでケアの質の向上を目指します。この「ノーリフト」の考えは1996年頃から豪州看護連盟が、看護師の腰痛予防のために提言したものです。
米国では労働安全衛生庁(OSHA)が2003年に「介護施設向けガイドライン」を作成し、腰痛予防対策を記しています。全面的な介護機器の導入、作業ごとに必要なスタッフの人数の明記、介助者に対し介護機器を使用しなければならないという意識改革の必要性を訴えており、現状における日本の指針と大きく異なった内容になっています。
表 新たな腰痛予防対策指針案に組み入れる予定の項目(一部)
厚労省では介護機器の利用を促していますが、費用負担のために導入が進まなかったり、導入されていても使用されていない現状もあるようです(表2)。理由は機器の使用には準備などを含めて時間が多少かかること、機器の選定や使用方法が不適切だと効果が表れにくいこと等が考えられます。また、患者さんに直接触れて行う移乗介助や排泄介助などに器械を用いることの抵抗感も影響しているように感じます。
腰痛予防のためには負担軽減に向けた作業環境の整備と同時に、機器を使うことによって得られる介助者と被介助者双方のメリットを理解して、介助者の意識を切り替えることも大切です。国の指針とは別に独立行政法人労働安全衛生総合研究所によって『介護者のための腰痛予防マニュアル~安全な移乗のために~』という冊子が作成されており、web上からも見ることができます(http://www.jniosh.go.jp/results/2007/0621/index.html)。これには腰痛の原因、腰痛予防として介護機器を利用することのメリットや睡眠や体操など予防のための介助者のセルフケア等が紹介されています。ケアを行う看護・介護職の方々は参考にしてみてはいかがでしょうか。
表2 リフト、スライディングボード/シートの導入率と使用率
※2005年7月~10月に592事業所、4,754名を対象に実施したアンケート結果調査(安衛研、滋賀医大)
参考HP
●日本ノーリフト協会
●「介護者のための腰痛予防マニュアル―安全な移乗のために―」
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