第5回 ストレスケア病棟で、うつは治る? 治らない?

第5回 ストレスケア病棟で、うつは治る? 治らない?

2013.3.27 update.

佐口賢作 イメージ

佐口賢作

さぐちけんさく◎1973年10月10日生まれ。93年よりフリーライターに。以来、オカンのうつに右往左往しながら雑誌、Web、書籍と原稿を書きまくり、生計を立てる。2010年5月、うつ病の家族を向き合う人に向けたコミックエッセイ『ぼくのオカンがうつになった。』(PHP研究所)を出版。オカンの病状は良かったり、悪かったり。ブログ「狛江ライター雑記」はこちらhttp://saguchi.jugem.cc/。

DSC_0032.jpg

ストレスケア病棟へのオカンの入院を通じて感じた疑問を、神奈川県立精神医療センター芹香病院に勤務する看護師・安藤馨さんに聞くインタビュー第3回。最終回の今回は、退院後に直面した行き場のなさ、芹香病院が取り組むうつ病の最新治療について聞くうち、気づくと、インタビューと言うよりも個人カウンセリングのような雰囲気に。励ましまで頂戴し、本当にありがとうございました。

 

 

退院後の不自由

――オカンの今回の入院期間は約2ヶ月でした。退院の際、「ご自宅でも服薬のリズムに気をつけて暮らしてください」とアドバイスをもらいましたが、しばらくするとまたリズムが崩れていきました。病院では看護師さんが薬を管理するなど、手厚くケアしてくれましたが、家ではなかなか実行できるものではありません。これもまた、家族が支えるべき部分なのかと思うと、もどかしいところがあります。

安藤 薬に関して言うと、全部のメンタルクリニックがそうというわけではありませんが、通っているうちにどんどん薬が増え、多剤乱用で何が効いているのかよくわからないような感じになってしまうというパターンが多いように思います。それを入院中にひとつひとつ整理し、可能な限り、減らしていくような方向に持っていきます。芹香病院に、メンタルクリニックからの紹介で入院した場合、退院後は紹介元のメンタルクリニックに戻っていただきます。

 

――たしかに、N病院の先生もオカンが通院しているメンタルクリニックの先生と連携して、薬の調整を進めてくれました。しかし、退院後は本人が薬を管理する中で、やっぱりズレが生じてしまう。これはしょうがないとして、もうひとつ、退院後に残念なことがありました。

安藤 というと?

 

――息子としては、入院中にオカンが絵を描いたり、編み物をしたり、そういう作業で作ったモノを褒められて自信を取り戻す姿が印象的だったので、ストレスケア病棟は今までに入院していた病棟とはずいぶん違うな、と。できれば、継続させてあげたかったんですが……。家に戻ると自分だけではやる気が出ないようで、かといって、公共にそういった場を探しても見つからず……。

安藤 お母さんの場合は、復職を目指すというようなケースではないので、難しいかもしれませんね。探してみても、一般的な統合失調症の患者さんが通う作業所などを紹介されるかも。でも、そういったところは気分障害の方が行っても、『ちょっと雰囲気違うな~』という感じになってしまうかもしれません。かといって、気分障害の方だけが集まる場も少ないというか、ほぼないに近いのかな。ちょっと居場所がないのが問題ですね。うちの病棟に入院されている患者さんで作業所に行く方もいますが、お母様のようなタイプだと、なかなか……。

 

――N病院のケースワーカーさんも探してくれたんですが、近所には通院していることを前提に作業療法も受けられる総合病院ないしは、作業所しかありませんでした。

安藤 病院を変えるという選択は?

 

――オカンは今のメンタルクリニックがいいそうで、説得できず、でした。

安藤 ストレスケア病棟から退院される大部分の方は、日常生活の能力を保たれている人がほとんど。統合失調症や認知症の方と違って、介護の手があまりかからない。すると、病院のケースワーカー、地区のケースワーカーが連携しても、なかなかフィットする受け入れ先がみつからない現状はあります。うつ病の患者さんに向けた中間の場がないこと。これは考えて行かなければいけない問題ですね。

 

うつは治る? 治らない?

――また、退院時に改めて思ったのが、「うつが治る、治らない」に関してなんです。僕は、オカンのここ20年くらいを見てきて、「これは治る、治らないという病気ではなく、本人の性格みたいなもので、一生このままアップダウンがあり、何があっても仕方あるまい」と思うようになりました。それは良くなったり、悪くなったりの波に自分まで引っ張られないための自衛策でもあるんですが、安藤さんは「うつが治るもの」だと思っていますか?

安藤 そこは、治っていく人を一応、見てきているので、治る人もいるなと思っています。もちろん、何回も入院を繰り返す人、周期的に病院を利用する人、タイプはさまざまですが。

 

――その場合の「治る」は、どこに戻っていくんでしょう? 骨なら折れていた部位がくっつくみたいなわかりやすさがありますが……。

安藤 う~ん、その人の捉え方と言ったらいいのかな。依存症の病棟でアルコール依存、薬物依存の患者さんを見ていた時に感じていたのは、“いい状態が続く=そのことにとらわれなくなる”ということ。アルコール依存だったら、アルコールにとらわれない生活を送ることができる。それがいい状態、現在進行形で治っている状態。治ったという過去形のものではない。

 うつの患者さん(に限らずですが)は考えの偏り、認知の歪みが程度の差はあれあると思います。気分障害の患者さんは、気分を優先するあまりに行動に結びつかないことが多いと思います。それでもまずは動いてみる。多少辛くても行動する。すると、意外とうまくいく体験ができて、気分にとらわれている行動の流れが変わっていく。そういった活動を続けられることが、よくなっていると言えるのかなと思っています。  

 先ほど、佐口さんは“お母さんの病気が完全によくなるというのはないと覚悟を決めた”というお話をされましたよね?

 

――はい。

安藤 その気持ちを聞いて思ったんですが、逆に病気が全部なくなったとして、そこから先、元に戻らず晴れ晴れとした生活ができるかというと、それもまた疑問かな、と。悩みのない人生なんてないし、考え方のパターンや対人関係の取り方というのは病気がなくなっても変わらないのではないでしょうか。たぶんお母さんは10数年間、うつを抱えながら生きてきたので、それが自分であるという意識もあるのではと思います。

 もちろん、「よくなりたい」「治りたい」と思っているでしょうが、ちょっと低めだったりちょっと感情の波が激しくてもそれを受け入れながら生きていくのがいいのかなと。不安も何もない人生なんて、誰も送っていないと思うので。

 

――たしかに、入院中も退院後も人生は続きますし、あとは本人も家族もどう折り合って、楽しく生きていくかって話になりますよね。

安藤 そういう意味では、『ぼくのオカンがうつになった』のように日々を本の形にまとめてしまうというのは、すごくいい仕事だと思いました。

 

――ありがとうございます。

 

うつ病に対する磁器治療

――最後に患者家族として気になっている治療法についてお聞かせください。芹香病院では、日本でいち早く脳に磁気で刺激を与える磁気治療に取り組んでいると聞きました。先日も磁気治療に関するアメリカでの取り組みをNHKが放映していて、うつ病の60代の男性が何回かの治療を経て、生活リズムを取り戻し、笑顔になり、劇的回復という例が流れました。患者家族としては、投薬治療で長期化している患者も、脳への刺激で光明が!? と、淡い期待を抱いたりするわけですが……。

安藤 NHKで、芹香病院の磁気治療が紹介されました。ほんの少ししか放送されていなかったのに、問い合わせが殺到してしまいました。多くの人が気にして見ているんだなと、改めて思いました。

 磁気治療に関してですが日本では、まだ研究段階です。

 とはいえ、うつ病に対して、これまで薬物療法や電気ショック療法などの治療法しかなかったのに、今は認知行動療法や磁気治療、光トポグラフィ治療、鍼灸治療など様々な治療法が注目されている。患者さんにとって治療の選択肢が広がることはよいことですよね。

 

――実際、磁気治療の効果をどう見ていますか?

安藤 そうですね、効く人には効くという感じでしょうか。患者さんの中で回を重ねるごとに「集中できるようになった」「考えがまとまるようになった」などの反応がある場合もあります。そういう患者さんばかりではなく、あまりよい実感が得られないという反応の患者さんもいます。実は、僕も研究のサンプルとして、一回受けたことがあります。受けててとても気持ちいい場所とちょっと痛かった場所がありましたね。一応うつ病ではないので特に変化は感じられませんでした。一回だけだったし、頭の回転が速くなったということは残念ながらなかったです(笑)。まあこれは冗談として、皆さんが藁をも掴む思いでいらっしゃっているのは伝わってきますし、従事しているスタッフも誠心誠意取り組んでいます。ただ、まとまった成果を話せるようになるには、時間が必要ですね。

 

――なるほど。画期的な治療法、夢の新薬の登場は近い将来の可能性の話として胸にしまっておきます。まずは、いまここでできることですね。本日は長時間ありがとうございました。

ぼくのオカンがうつになった。 イメージ

ぼくのオカンがうつになった。

2008年、気分障害での通院患者数が100万人を突破しました(厚生労働省調べ)。しかも、患者の半数以上である約57万人が50代~80代。つまり、うつ病に悩む人の多くが、30代、40代にとっての親世代なのです。
もし、自分の家族がうつ病を患ってしまったら……。頼れる存在だった親が、ふさぎ込んでしまうもどかしさ。もちろん、一番苦しいのは本人ですが、周囲の家族もまた、「うつ」という病に巻き込まれていきます。投げ出したくても投げ出せず、身近で接することの苦しさを吐露し合える仲間はなかなかみつかりません。
僕のオカンがうつ病と診断されたのは、16年前のこと。パニック障害を併発したこともあれば、ヒステリックな行動に出るオカンにがく然とし、涙したことも多々あります。それでもなんとか寄り添いながら、今日まで歩んできました。
うつ病によって、人が変わってしまったように思える親や家族とどう付き合えばいいのか? うつ病になってしまった母親とぼくの、激動の16年間を書いたコミックエッセイです。

詳細はこちら

トラックバック

http://igs-kankan.com/mt/mt-tb.cgi/737

コメント

このページのトップへ