第4回 ストレスケア病棟で、家族も話を聞いてもらえるの?

第4回 ストレスケア病棟で、家族も話を聞いてもらえるの?

2013.3.07 update.

佐口賢作 イメージ

佐口賢作

さぐちけんさく◎1973年10月10日生まれ。93年よりフリーライターに。以来、オカンのうつに右往左往しながら雑誌、Web、書籍と原稿を書きまくり、生計を立てる。2010年5月、うつ病の家族を向き合う人に向けたコミックエッセイ『ぼくのオカンがうつになった。』(PHP研究所)を出版。オカンの病状は良かったり、悪かったり。ブログ「狛江ライター雑記」はこちらhttp://saguchi.jugem.cc/。

DSC_0032.jpg ストレスケア病棟へのオカンの入院を通じて感じた疑問を、神奈川県立精神医療センター芹香病院に勤務する看護師・安藤馨さんに聞くインタビュー第2回。今回は、患者家族から見た看護師の仕事について、根掘り葉掘り聞いてみた。

 

 

認定看護師って何!?

――先程、安藤さんからいただいた名刺には、「うつ病看護認定看護師」と書いてありました。初めて目にする肩書きなんですが、うつ病看護認定看護師はどういった存在ですか? また、各病院に在籍しているのでしょうか?

安藤 日精看(日本精神科看護技術協会)が、1995(平成7)年に立ち上げた認定看護師事業によって生まれた認定制度で、当初は4分野(急性期、思春期・青年期、リハビリ期、老年期)に分かれていました。僕は2000(平成12)年に試験を受け、運よく「思春期・青年期」分野で合格しました。その後、2007(平成19)年に制度変更があり、4分野が10の領域に分け直されました。そのため、自分もどこかの領域に移行しなければならなくなりました。パーソナリティ障害がベースにあるアルコール、薬物、摂食障害に似た心理を持つ、いまどきの新型うつと呼ばれる人たちに対してならこれまでの経験が活かせられるのではないかと考え。規定の研修を受け直してレポート等を提出し、2009(平成21)年に、うつ病看護認定看護師となりました 

 

――試験は難しいものなんですか?

安藤 日精看で決められた基本の研修を受け、実習を経た後に試験です。自分は4期生になるのですが、当時の筆記試験はもちろん難しいと思いました。今現在の試験内容はわかりませんが、簡単ではないと思います。過去の問題集が出てるので興味のある人は一度目を通してみたらどうでしょうか。それプラス論文、口頭試問、面接があります。

 

――ストレスケア病棟のある各病院に必ず認定看護師がいるのでしょうか?

安藤 2012年時点で、精神科認定看護師は461名、うつ病看護の領域に限れば92名しかいないので、各病院にはいないです

 

――かなり少ないですね。たしかに、オカンの通院に付き合っていろいろな病院に行きましたが、うつ病看護認定看護師の方にお会いしたことはないです……。

安藤 これでも急激に増えてきてはいるんですよ。最初に僕が資格を取得したときはそんなにいませんでしたが、認知されるにつれ目指す人が多くなってきた印象です。現場で専門性が求められるようになってきたのもあるので、対応できるようになりたいと思う人が増えてきたのではないでしょうか。

 

――なるほど。この段階で個人的には目から鱗が落ちる印象です。僕らからすると、看護師さんは看護師さんという括りで見てしまいがち。去年、オカンは肺がんの手術をして外科にも入院したんですが、そこで出会う看護師さんとストレスケア病棟で出会った看護師さんのスキルにどんな違いがあるのか考えてもいませんでした。

安藤 そんなもんなんですね。“一般科”と“精神科”という分け方をよくします。一般科は処置中心だと思いますがメンタルな関わりもしてますよね。逆に精神科はメンタルへの関わりが中心ですがもちろん処置もあります。各科で必要な知識がありますから、そこはおのずと勉強していくことになります。今は様々な領域の専門看護師とか認定看護師の方々が活躍しています。

 

話を聞いてもらいたいけど……

――オカンの入院中、いつも感じるのは見舞いに行った時、通りかかった看護師さんに話しかけてもいいのかな? ということ。でも、どこの病院でも皆さん見るからに忙しそうですよね。話しかけづらいから、またにしようかとも思いがちなんですが、どのくらい時間をもらってしまっていいものなんでしょうか?

安藤 そこは声をかけていただいて問題ないと思います。僕の場合は立ち話程度のレベルでももちろん伺いますし、改めて場を設定することもあります。たぶん看護師は皆さんそのように対応すると思いますが……。逆にこちらからの用事がある場合は、ご家族がお見舞いに来たときに患者さんとご家族が話しているところへ「ちょっとおじゃましてもいいですか?」と言って、話をすることもあります。主治医、受け持ち看護師、患者、家族との面談だと1時間くらいになることもありますよ。

 

――その辺りの対応は、看護師さん個人個人の仕事への向き合い方で左右されるものですか? それとも病棟全体での取り決めがあるのでしょうか?

安藤 一応、カンファレンスを通じて主治医の方針も合わせ、対応方法を決めているケースが多いと思います。ただ、最終的な現場での会話の持っていき方、アドバイスの仕方などは、個人の考えに左右され、人間性が出ちゃうかもしれませんね。お母さんが入院していたN病院では家族面接の時間があまりなかったのでしょうか?

 

――決まった日時に別室でお話をする、という形の面談は十分ありました。ただ、お見舞いに行ったとき、ちょっとお話をしたいなというときには声をかけづらい雰囲気でしたね。

安藤 どうしても、ばたばたしている時間帯はありますからね。やはり、一番いいのは最初に時間を設定しておくこと。そうすれば、それに合わせて時間をつくってくれると思います

 

――突然、今ここで、これが聞きたいという欲求をぶつけるよりも、整理しておいて時間をもらうほうがいいですか?

安藤 N病院がどういうやり方をしているのかはわかりませんけど、その日その日で勤務している人も違いますから。ご家族のほうも受け持ちの看護師の方がいい場合もありますし別に受け持ちじゃなくてもいい場合がありますよね。僕個人は、受け持ちであるかどうか関係なく、“ちょっと”と声をかけられれば受けてしまいますけど。また、どうしても手が離せないときは、待っていただけるか確認して、改めて話を聞くこともしています

 

――いいですね。

安藤 いや、たぶんどこの病院もこんな感じだと思いますよ。ちなみに、患者家族から見て、違和感を感じた医療者の言動はありますか?

 

手厚いがゆえのプレッシャー

――そうですね。うちのオカンの場合、病院で暴れることはあまりないので、扱いやすいと言えば、扱いやすいんだとは思うんですが……。なにかおざなりな感じというか。通り一遍のケアだと感じることはありました。

 たとえば、作業療法に参加するかしないか。気分が良ければ作業に加わり、悪ければそのままベッドにいるわけです。オカンの好きなようにさせてくれるんだと思うんですが、もう少し動くように働きかけてくれていいのかなとも。

 僕としてはオカンに対して、「せっかく入院しているんだから、やれることには参加しなよ」と思うわけです。でも、医療者が好きにさせたほうがいいと判断しているなら、そちらが正解なのかな……でも、と。こういうもどかしさをどう看護師さんに伝えていいのかわからないですし、へんなことを言って、自分たちがいなくなってから看護師さんと母親の関係が悪くなったら……とも思ってしまう。

安藤 いや~、そんな患者さんが不利益になるようなことはないと思いますよ。「家族としてはこう考えている」という話をするだけですし。それを言うことで家族は患者さんをどう見ているのかもわかるし・・。普通に医療者だったら、家族とトラブったからと言って、それを患者さんにぶつけるということは考えられないですよ。安心して相談したほうがいいと思います。

 

――そうですね。でも、つい考え過ぎちゃうものなんですよ。あと、これは以前の入院での出来事だったんですが、ベッドの横に上に乗るとナースコールが鳴るシートを置かれたのはショックでした。

 夜、オカンがトイレに行こうとすると、看護師さんがくる。本人は「監視されているみたいで嫌だ」と。看護師さんに伝えると、「勝手に出ていって怪我をされても困るので」ということで。そう言われてしまえば、しぶしぶ納得なんですが、きちんと本人に説明して置いてくれたのか。そうじゃないのか。ちょっとしたことで、不信感が芽生えます。

安藤 たしかにそういったシートは使いますね。同じ説明になってしまいますけど、転倒防止として、踏むとナースコールが鳴って、どこか行こうとしている、何かしようとしている、とわかる。特に高齢者になってくると、ちょっとしたことが原因で事故につながってしまう恐れがあるから、お母さんの場合も、何かリスクがあって置いたんじゃないでしょうか

 

――今回のストレスケア病棟のときは、本当に医療者の皆さんの看護が手厚くて、それが逆にプレッシャーでしたね。退院した後にどうしたらいいんだろう? と。こんなにきちんと本人の言うことを聞いて、受け止めてくれる人がそばにいる状態だと、そりゃ良くなるだろうし、本人も満足するだろうなとは思うんですけど、退院後に同じ状況は用意できないなという。そんな不安はありました。

 むしろ、退院に向けてちょっとつれなくしてほしいなとすら、思ったり……()

安藤 それは……、新鮮な話ですね。ちょっと不満くらいがちょうどいいのかもしれない、と(笑)。ま、なんでもかんでも患者さんの意向に沿うわけでもないんですが・・その辺りは、退院後の受け皿の問題にもつながっていきますね

 

<次回に続く>

 

次回は安藤さんインタビューの最終回。病棟から退院後の悩みについての疑問をぶつけます!

ぼくのオカンがうつになった。 イメージ

ぼくのオカンがうつになった。

2008年、気分障害での通院患者数が100万人を突破しました(厚生労働省調べ)。しかも、患者の半数以上である約57万人が50代~80代。つまり、うつ病に悩む人の多くが、30代、40代にとっての親世代なのです。
もし、自分の家族がうつ病を患ってしまったら……。頼れる存在だった親が、ふさぎ込んでしまうもどかしさ。もちろん、一番苦しいのは本人ですが、周囲の家族もまた、「うつ」という病に巻き込まれていきます。投げ出したくても投げ出せず、身近で接することの苦しさを吐露し合える仲間はなかなかみつかりません。
僕のオカンがうつ病と診断されたのは、16年前のこと。パニック障害を併発したこともあれば、ヒステリックな行動に出るオカンにがく然とし、涙したことも多々あります。それでもなんとか寄り添いながら、今日まで歩んできました。
うつ病によって、人が変わってしまったように思える親や家族とどう付き合えばいいのか? うつ病になってしまった母親とぼくの、激動の16年間を書いたコミックエッセイです。

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