かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2012.7.23 update.
2003年の12月米国ノースカロライナ州にあるEast Carolina大学Child Development and Family Relations学部Child Life専攻卒業。2004年にCLSの認定を受け、2006年2月?2010年3月まで浜松医科大学付属病院に勤務。2010年4月からは東京の聖路加国際病院にうつり現在に至る。「O型でしょ?」としか言われた事がないぐらいの生粋のO型人間。工作している時はよく子どもたちに「仕事が雑!」と叱られます。そんな感じなので、信じてもらえない事が多いけどお菓子作りが好きで、新しい大きいオーブンが欲しいな?と思っている今日この頃です。
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前々回、保育園での実習で子どもの遊びは「結果よりも過程が大切」だという事を学んだ、というエピソードをご紹介しました。この考えは遊び以外でもCLSの子どもへの関わり方でも大切な考えだと思っています。病院でも、プリパレイションを行って、「泣かずに注射ができた!」「薬が飲めた!」など、大人はどうしても結果にこだわってしまう場面が多々あります。確かに子どもにとって大変だったり辛かったりすることをクリアするのは誇らしいことですし、そういった場面に居合わせた大人も私もそのような場面の時は子どもの努力を認め、褒めますし、子どもにとっても一つの達成感につながります。
しかし本当に大事なのはできた事ではなくて、そこに行きつくまでのステップであったり努力であったりだと思います。私もついついその場では忘れがちになってしまうので、時々初心に戻るように意識しています。
生まれて初めて一人で行ったプリパレイションは未だに忘れられません。それはインターンシップを受けるために必須科目だったPracticumという実習でした。
地域の小児科外来で実習を始めて間もない頃でしたが、スーパーバイザー(現場主任)から採血をする5歳の男の子へのサポートを頼まれました。まずはその子とお母さんに自己紹介をし、ちょっと仲良くなるためにゲームなどで遊んだあと、スーパーバイザーが見ている中でいよいよプリパレイション開始。人形にシリンジやアルコール綿などの本物の医療用品を使いながら手順を確認し、その子にも「お医者さん」の役になって人形に採血をしてもらったり、チクッとする時に頑張れる方法として選んだシャボン玉を使うタイミングを練習したり……。プリパレイション中はその子もとても反応が良く不安そうな顔をしながらも一つ一つ納得したように練習していました。自分の中でも「ばっちりだ!」と自信過剰になるぐらいスムーズでした。
いよいよ本番となり、処置室に呼ばれ、その子も私も緊張しながら処置室に入りました。その子は母の膝の上に座り、私は医師の邪魔にならないように彼の近くでシャボン玉やその他の気をそらすための道具を準備しスタンバイ。医師と看護師が物品の準備をする中、私たちはたわいもない話をして緊張をほぐしていました。ところが、「じゃあ、はじめようか!」と医師のさわやかな声とともに、針を見たその子は大泣きです。それまで笑顔でいただけに驚いてしまった私も思考回路がしばらく停止し、どうすればいいのかわからないままオロオロしている間に彼の腕には駆血帯がまかれ、血管を探され、消毒まで済みました。そこでやっとシャボン玉のことを思い出し、準備をしながら精一杯の思いで声かけたのが「君ならできるよ!勇気だして!がんばって!」の言葉でした。そんな私の声掛けを聞いた彼のお母さんは大声で泣き叫ぶ彼に対し、「勇気なんて無くていいから、泣いててもいいからこのまま動かないでいるのよ」と優しく声かけ、彼の代わりにシャボン玉をふいたりしている間になんとか採血は(一回で!)終わりました。私にとても非常に長く感じた辛い時間がやっと終わり、ホッと処置室を出た後で上手にできたことを褒め、再度お医者さんごっこやゲームなどをして締めくくりました。
その後スーパーバイザーとの振り返りで、「練習はとてもうまくいっていたのに、本番になって泣きだしてしまい、そこから泣き止ますこともできなかった」、と反省点をのべた私に対し彼女は、「彼は泣いている間、暴れたりしていた?」と質問を投げかけました。そう言われてみれば、大泣きはしていたが、暴れずに動かずに出来ていたことを伝えると、「そうね、描いていたようにはうまくいかなかったけど、ちゃんと動かないでいることの大切さは練習の過程で理解したのよ。『泣いてしまったからダメだった』という結果自体も間違っていて、プリパレイションを通じて処置のやり方を覚えて、頑張る方法を自分で選んで、練習をして、自分がコントロールをしている感覚を得たうえで、『大変だったけど、自分は努力した』という意識を感じられたことが重要なんじゃないかな」と答えてくれました。また、子どもによっては「泣く」事で発散していること、子どもに泣かれるとどうしても大人はなんとかしなくちゃ!と思うけど、泣かせてあげる事も大切だということも改めて教わりました。そして最後に、「今回の一番の失敗は彼が泣いてしまったときにあなたが『ダメだった』と思ってしまったことよ」と言われ、その言葉は今でも胸に刻まれています。
先日も6歳の男の子に寝ずにMRIを撮ってみよう、と看護師と協力してプリパレイションを行いました。練習では「できそう」と言っていたもののいざ部屋に入ると怖くなってしまい、じっとしていることができず結局鎮静薬で寝かせての検査となりました。そんな体験が彼の中でどのように心に残っているのか心配していたある日、プレイルームで別の子(彼より小さい子)がMRIを撮る、という話をしていた時に彼が「俺ね~ちょっと怖くなって泣いちゃったんだよね~。でもね~、ちゃんと撮れたんだよ~」とMRIがどんなものなのかを他の子に一生懸命説明し始めました。しかも私もびっくりするほど自慢気に。ここでもきっと大人からしたら「失敗体験だったのでは?」と思っていたものがプリパレイションという過程があったことによって、何か力を得ることができたのかもしれません。
「結果よりも過程が大事」、まだ時々このことを忘れてしまうことも多いのですが、初プリパレイションの苦い思い出を薬に、これからも子どもたちが少しでも怖くないように、前向きに処置や検査に臨めるように適切なサポートし続けていきたいと思います。
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そして、今回で私の担当はおしまいです。途中回と回の間が空いたりしてしまいましたが、最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。次は大阪大学医学部附属病院の馬戸史子さんが担当します。私も次回からは視聴者として記事の更新を楽しみにしています!
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