かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2012.7.02 update.
2003年の12月米国ノースカロライナ州にあるEast Carolina大学Child Development and Family Relations学部Child Life専攻卒業。2004年にCLSの認定を受け、2006年2月?2010年3月まで浜松医科大学付属病院に勤務。2010年4月からは東京の聖路加国際病院にうつり現在に至る。「O型でしょ?」としか言われた事がないぐらいの生粋のO型人間。工作している時はよく子どもたちに「仕事が雑!」と叱られます。そんな感じなので、信じてもらえない事が多いけどお菓子作りが好きで、新しい大きいオーブンが欲しいな?と思っている今日この頃です。
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前回(ずいぶん前になってしまいましたが…)は私がCLSになるための勉強をしていた時に経験した保育園での実習の話をしました。でも実はアメリカには(私が知っている限りですが)日本でいう「保育士」という資格がありません。「Kindergarten」と呼ばれる幼稚園や「Day Care」や「Nursery」には子どもの発達を勉強してきた人たちが就職し、「先生」として働いていますが、日本のように国家資格にはなっていません(※)。病院でチャイルド・ライフ・スペシャリストという仕事が生まれたのもこのような背景があるからだと思います。
※アメリカでは教師(幼稚園や小学校以上も)の資格は、各州ごとの資格制度になっています。
私がインターンをしていたアメリカの病院にもプレイルームでの遊びや物品を管理したり、CLSが計画したアクティビティを遂行するために手伝ってくれるチャイルド・ライフ・アシスタントという人はいましたが、「保育士」と呼ばれるような人はいませんでした。一方日本にはCLSが日本で活動し始めるずっと前から病院の中に保育士がいます。病院の中で子どもの遊びを大事にしたり、子どもが子どもらしく生活できるようにするための援助がかなり昔から行われてきていました。また病院によっては子どもの心理や発達を専門的にみる心理士もいます。そんな日本で、昔からある保育士と北米で生まれたCLS、さらには心理士が同じ病棟にいる場合、どのように連携をとっていけばいいのでしょうか?
聖路加国際病院(以下、聖路加)に来る前に働いていた病院では当時、保育士や心理士はおらず、子どもの遊びや発達、ストレス軽減などを主にサポートするスタッフはCLSだけでした。1人職種という意味では病棟内を比較的自由に動き回れたメリットもありましたが、Aくんと遊びたいときにBくんがこれから処置や検査などでのサポートが必要となった時に両方のニーズを満たすことができなかったり、子どもに行ったサポートについて「これでよかったのか」と相談する相手がいなかったりと、もやもやとした日々を過ごすこともありました。それでも日々どの子どもに関わるか、優先順位をつけながら、看護師や医師と相談し、協力し合ってその時できる事をやるために努力をしていました。
聖路加への転職が決まった時、これまでに保育士や心理士と一緒に働いた事がなかったので役割が重なる部分がある職種と働く、という事がまったくイメージできず、自分がどのように動いていけばよいのだろう?と不安がとても強かったです。しかし、実際に働いてみると改めてその良さを実感することができました。病院によって、他職種との連携の在り方は違うかもしれませんが、今回は聖路加で子どものサポーターとして一緒に働いている保育士や心理士との連携について少しご紹介したいと思います。
Aちゃんとの関わりの中で
3歳のAちゃんは、急性リンパ性白血病で当院に緊急入院してきました。入院時は具合がとても悪かったため、小児病棟ではなく、ICUでの入院となりました。病状が落ち着いたところで小児病棟に移り、その後はプレイルームで元気に遊べるまで回復しました。プレイルームでの遊びの場面や普段の様子から、保育士と私はAちゃんの言葉の発達が少し遅れ気味であること、遊びにも偏りがあることなどに気づきました。当院では、心理士は長期入院が予想される子どもに対して発達検査や親子の面談を行っています。そこでの結果もやはりAちゃんは「全体的に発達がややゆっくりめで偏りがある」との評価でした。またAちゃんには生まれたばかりの妹がいたため、お母さんはあまり面会に来ることができず、日中のほとんどの時間を保育士、看護師、看護助手、ボランティアさんなど病院のスタッフと過ごしていました。お母さんとあまり過ごせない事、発達の偏りなどの心配があったため、入院中に少しでも刺激を受け、発達を促せるようにしたいという意識を保育士、CLS、心理士だけではなく、看護師や医師含め、共通理解を持ち、それぞれが情報をスタッフや家族と共有し、日々の関わり方から外泊のタイミング、退院後のサポートなども多方面から考える姿勢をもちました。
CLSの関わり
このAちゃんとの関わりの中で私がやっぱりそれぞれの専門家がいてよかったと思えたことがたくさんありました。まず、私がAちゃんと関わるにあたって重視していたのは、Aちゃんが入院した時にいたICUでは寂しい思いをしないように、少しでも怖い時間がないように、ということでした。早い段階からベッドサイドに訪問し、短い時間でも絵本を読んだり、おもちゃで遊んだりしました。その後小児科病棟に移る事も予想されていたので、一人でも知っている顔が新しい環境でも認識できるようという思いを含めた関わりを継続しました。小児病棟に移った後も、Aちゃんにとってストレスとなっていた検査時や内服の際にプリパレイションやディストラクションを行うことで少しでもそれらがスムーズに終われるよう、Aちゃんが少しでも主体的に取り組めるように援助することに重点をおいて関わりました。それ以外の時には保育士や心理士をはじめとしたスタッフとともに遊びを通してストレスの軽減や発達の促進を目標に関わりました。
保育士の関わり
一方保育士はAちゃんの生活全般における発達支援を中心に関わっていました。こまめにトイレに行き、便座に座らせることでトイレトレーニングを促したり、食事の時に集中して食事がとれるように環境を整えたり、バランスよく食べられるように食事の介助に入ったり、楽しく遊べるようにお昼寝の時間配分なども考えたりしていました。日ごろ会えないお母さんのために1日のAちゃんの様子をお手紙にして書き、会えた時はAちゃんとの関わりの中でどのように接したらうまくいったなどのフィードバックも行っていました。保育士がAちゃんの遊びの幅を増やすためにピアノの弾き語りやお話会に最後まで参加させるような環境設定の工夫には私の視点にはなかったものもありましたし、トイレトレーニングに根気よく取り組んでいた姿勢についてもどうしても同じ時間に処置や検査がある子がいたらそちらのサポートを優先してしまうCLSとしてはできなかった援助だったと思います。
心理士の関わり
そして、心理士はAちゃんに発達検査や心理検査、さらには親子での面談などを行い、それらの結果に基づいたAちゃんへのベストな関わりの仕方などを私たちスタッフに教えてくれました。それは私が感覚として感じたAちゃんの成長発達の偏りが検査結果という科学的な根拠や面談から心理士が引き出した情報からの評価などによりAちゃんの全体像がクリアに見えた瞬間でした。Aちゃんにはどのように関われればベストか、またAちゃんだけではなく、お母さんにもどのようにアプローチしたらいいのか、困ったときにどういう対応をすればいいのか、など心理士からの専門的なお話からは多くを学ぶことができました。もちろん保育士や心理士の他にも、普段からAちゃんに関わっていた看護師ともカンファレンスなどのフォーマルな場や昼の休憩中に話すインフォーマルな場で情報を共有してきました。また、今回はあまり深くお話ししていませんが、当院にはイギリスで生まれたホスピタルプレイスペシャリスト(以下、HPS)の資格をもつ小児看護専門看護師や、ソーシャルワーカーなどもおり、AちゃんとAちゃんの家族の心理社会的サポートをそれぞれの視点でサポートしています。本当に色んな職種がAちゃんという1人の子どもに対して関わっていたのです。今ではAちゃんも無事に入院治療を終え、元気に外来に通っています。おしゃべりも随分上手になり、トイレトレーニングも習得し、毎日楽しく保育園に行き友達と遊んだりしているようです。入院中に提供できたサポートが影響しているかどうかはわかりませんが、笑顔でスタッフに会いに来るAちゃんを見ていると、少なくとも「病院は悪い事ばかりのところではないな」と思ってくれているのかな、と感じています。
最後にまとめとして私が伝えたいメッセージは、ざっくり言うと結局子どもを支えてくれる人たちはいればいるほどいい、ということです。子どもにしたら、似ている事をしているCLSも保育士も心理士も(もしかしたらボランティアさんも学生さんも)同じ「遊んでくれる人」かもしれません。この人は保育士さんだから…、CLSだから…、心理士さんだから…、とこちらの役割までを考えていないかもしれませんし、もしかしたら子どもからみたら本当の違いはわからないかもしれません。
これはあくまでも「私」の考えなのですが、一番重要なのは「子ども」を支えてくれる人が多方面からいることで、その子自身がどういう時に誰にサポートしてもらえばいいか選べることではなのではないか、と思います。子どももスタッフも人間なのでどうしても「合う」「合わない」がありますし、極端な話しをすると、CLSがサポートをしたくてもうまく関係を築けなかったBちゃんにはBちゃんが大好きな保育士さんや心理士さんをとおして行えばいいのではないかと思ったりもしています。もちろんCLSが発達検査をしたり、保育士さんが保育や発達援助そっちのけで検査のサポートだけに回ったりはできないでしょうし、重い心身症や虐待などより専門的な心理的介入が必要とされうようなケースでは当然CLSだけではカバーしきれないところがあります。そういったケースでは小児科医や心理士、ソーシャルワーカーなど、他職種と連携して、各分野の専門知識を持ち寄ることでより良いサポートしていきたいと感じています。このようにそれぞれの専門職が専門の範囲でできる事を提供し協力しあって一人の子どもと家族をサポートする姿勢が大切なのだと思っています。
また日本にはCLS、保育士、心理士の他にもイギリスで生まれたHPSなど、共通点のある職種が活躍されていたり、看護の中でも小児科領域での専門性をもった「小児専門看護師」たちも活躍されています。子どものことを思って働く職種がこれだけあるわけですから、仕事の重なりも当然出てきます。少しずつアプローチの仕方は違うかもしれませんが、子どもを大事と思うことに違いはないサポーターたちなので、境界線を引くこと自体難しいのかもしれません。日本の医療システムがこういった職種がそれぞれの立場、役割を理解しあって、専門性を発揮して協力しあいながら子どものケアに還元できるような社会になればいいなと願っています。
まだ試行錯誤に動いている部分もありますが、CLS以外の心理社会的支援を行う他職種と協力して仕事できる機会を得られて本当に良かったと感じています。おそらくこの連携の在り方はその施設で働いている心理社会的支援を行う職種の方の個人的な考え、組織としての考えや動き方によっても随分と変わってくると思います。当院での方法がベストだとは思っていませんし、今回の私のお話では、「こういう連携の仕方もあるんだ」と1つの参考として見ていただければ幸いに思います。
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