保育園でのチャイルド・ライフ実習

保育園でのチャイルド・ライフ実習

2012.4.12 update.

三浦絵莉子 イメージ

三浦絵莉子

2003年の12月米国ノースカロライナ州にあるEast Carolina大学Child Development and Family Relations学部Child Life専攻卒業。2004年にCLSの認定を受け、2006年2月?2010年3月まで浜松医科大学付属病院に勤務。2010年4月からは東京の聖路加国際病院にうつり現在に至る。「O型でしょ?」としか言われた事がないぐらいの生粋のO型人間。工作している時はよく子どもたちに「仕事が雑!」と叱られます。そんな感じなので、信じてもらえない事が多いけどお菓子作りが好きで、新しい大きいオーブンが欲しいな?と思っている今日この頃です。

 

CLSになりたい方、留学等に関心がある方は以下のサイトをご参照下さい!

book 北米チャイルド・ライフ協会

book 日本チャイルド・ライフ学会

book チャイルド・ライフ・スペシャリスト協会

 

 

 

前回は→こちら

 

CLSとの出会い

 

カナダの大学に留学していた大学2年生の頃、私は心理学を専攻していました。昔から子どもに関わる仕事がしたいとは思っていましたが、大学卒業後にどのような職業に就きたいかなど具体的に考えることができず、また大学院への進学などもまったく考えていませんでした。そんなときにCLSの事を雑誌か新聞の記事で知り、それまで私自身があまり大きな病気をしたことがなく病院とはあまり縁のない人生を送っていたため、病院に長期間入院している子どもや入退院を繰りかえす子ども達がいる事実に改めて「はっ」とさせれられました。


日本にはまだCLSがいないと聞き、さらに興味が高まりすぐにチャイルド・ライフが学べる大学プログラムを探し、編入を考えました。なるべくそれまで通っていた大学と同じぐらいの学費で、これまで取得してきた単位が認められるところ、そしてプログラム内容をみて候補を絞り込んだのですが、最終的に一つの大学を選ぶ決め手となったのが、学内に生徒の実習現場として利用されている保育施設があったからでした。
 

前置きが長くなりましたが、今回は私がCLSの勉強をしていた時に一番自分のためになった!と思えた保育園実習について紹介したいと思います。

 

チャイルド・ライフと保育園

 

チャイルド・ライフが学べる学校は様々で、コース内容も場所によって変わりますが、私がチャイルド・ライフを学んでいた大学では保育園での実習が必須科目としてあり、Child Lifeを専攻する生徒は大学内の「Child Development Lab」という学校関係者や地域の住民が利用できる保育施設で実習を行っていました。そこの保育園は、8時から5時半の保育園であると同時に、チャイルド・ライフ専攻者以外にも、幼稚園教諭や子どもの発達を学んでいる学生のための実習・研究用施設でもありました。
 

園内のクラスはそれぞれ乳児(生後3ヶ月~24ヶ月)、幼児前期(24ヶ月~36ヶ月)、3歳児(3~4歳)、4歳児(4~5歳)クラスと、4つのクラスに分かれており、それぞれ担任とアシスタントでクラスを受け持っていました。子どもたちの行動を観察する研究のためなどに使われるマジックミラーやクラス内にカメラがあること以外は普通の保育園と変わらない施設でした。私も実習で一週間に2~3日、数時間ほど過ごし、保育や子どもの発達を肌で感じることができました。

 

子どもにとっての「遊び」とは

 

ある日、担任の先生から「今日は絵具遊びをするから、準備をしておいてね」と言われ、大きな紙と絵具を数色、筆などを準備しました。すぐさま4歳の男の子がかけて来て、大きな紙に赤い絵の具で絵や、覚えたばかりのアルファベットで先生の名前を描き「みてみて!」と言いながら担任のN先生に作品を見せてくれました。「上手にかけたね~」と私とN先生で褒めた直後、青い色の絵具でせっかく上手に描いた絵や文字の上からダァ~っと塗りつぶしてしまいました。

 

おもわず「あ~あ!せっかく上手にかけたのに!」と言ってしまった私を遮るように先生は「まぁ!きれいに色が混ざったわね~!」とその子に声をかけました。N先生の言葉を聞きながら、その子はその後もケタケタ笑いながらその後もいろんな色を使いってダイナミックに紙を塗りつぶしていました。「あらら・・・」とその子を見ていた私にN先生は「子どもにとっての遊びはproduct(結果)ではなくてprocess(過程)が大事なのよ。出来上がった絵よりも筆の感触や絵具が混ざったりすることも楽しいのよね。遊びがそのつど変わるから子どもって面白いわよね!」と説明してくれました。続けて「大人はついつい出来上がった作品を『上手にかけたね』とか『もっとこうしたほうがいいんじゃないの?』と評価しがちだけど、子どもにとって本当に『楽しい!』と思うのは絵を描いているその瞬間だから、結果として出来上がった物を評価されたり、出来上がった物だけを見られたりすると、次からは『楽しく描く、作る』ことに集中できなくなってしまう。子どもの遊びを見守る大人もそのことに気をつけなくてはね」、とN先生は教えてくれました。この言葉を聞き、つい思わず「あ~あ」と声を出してしまうほど、自分が無意識に結果だけを評価していた事に気づく事ができたのと、「結果ではなくて過程が大事」という言葉が心に焼きついた、という私にとって忘れられないエピソードでした。

 

「評価をしない」関わり方

 

4歳児クラスにもようやく慣れてきたころ、スケジュールや定員の関係で私は一つ下の3歳児クラスに実習の場を変更させられました。2歳、3歳の子どもたちは、4歳、5歳の子どもたちとは数年しか変わらないのにこの頃の差はとても大きな差です。4歳児で通用していたことがまったく通用せず、初めはコミュニケーションをとるのもなかなか大変で、自由遊びが終わり手遊びや読み聞かせの時間に全員を同じ場所に集めるのすら、慣れない私は苦労をしたのを覚えています。


そんなある日、テーブルには小麦粉粘土が準備されていました。そこに3歳の女の子がとことこやってきて、一人でももくもくと粘土は遊びを始めました。私も近くに座って手を動かしながら同じ空間と時間を共有しました。女の子は黄色い粘土を一生懸命たたいて、円形に伸ばしていました。「何作っているのかな~」と話しかけると、テーブルを見回し、ピザカッターのような道具をみつけ、粘土にピザのように切れ目を入れはじめました。これは!と思い、「おいしそうなピザができたね!」と声をかけようと思った瞬間、先にその子は「これケサディーヤ(トルティーヤというトウモロコシの粉や小麦粉で作った薄く、丸い生地にチーズ・肉などの具を挟んで焼いたもの)なの!昨日食べたの!」と目をキラキラさせて教えてくれました。「ピザって言わなくて良かったぁ~」とドキドキしてた私を気にすることなく、その子は作ったケサディーヤをふるまってくれ、そのままおままごとを一緒にしました。
 

これまでも授業などでは子どもをサポートするには子どものペースに合わせる事、子どもが主体的に遊べるようにすること、子どもの遊びを大人が評価したり指示したりしないよう心がけるよう教わりました。例えば、赤い丸い形の絵を描いている子がいたら「それはリンゴかな?」や「上手な太陽だね~」とこちらが想像したものを言うのではなく、「赤い絵具きれいだね~」や「まるを描いたのね」など主観が入らないコメントをするといった事を練習しました。そうすることで大人から評価されることなく、子どもの表現が守られ、子どもの「安心して過ごせる」という安心感につながるとの事です。しかし実際に子ども達にかかわってみるとつい作品を評価したり、子どもに介入しすぎたりしてしまうことがあります。この時ももしあそこで私が「おいしそうなピザができたね」と声をかけていたら、その子はどう感じたでしょう。大人に言われたことで気を変えて「そう、ピザなの!」と言っていたかもしれないし、「違うもん、これはケサディーヤだもん!」と怒ったかもしれません。いずれにせよ、そこで私が私の目線でその子が作った物を評価してしまったことで子どもに「何か違う」や「この人ちゃんと自分のこと見てくれない」といった気持ちが生まれていたかもしれません。大げさに聞こえはしますが、結構子どもはこういう大人の評価や決めつけなどには敏感だったりします。結構無意識にやっていることでもあるので、この先入観のない、大人の視点をいれない姿勢はなかなか難しいんです。ぜひお子さんと関わることがある方は、この「評価をしない」関わりかたを実践してみてください。

 

「保育園」での経験から

 

子どもはずっと好きではいましたが、これまで知り合いの子どものベビーシッター以外で子どもを、まして大勢の子どもを一度に見る経験がなかった私にとってはこの保育園での実習は授業と実践を結ぶ、とても実になった経験でした。一学期というとても短い時間ではありましたが、病院という設定ではないところで、病気の影響がない子ども達の普段の発達を見られたことは後の病院での研修にも活かせたように思います。例えば、保育園ではケンカも日常茶飯事で、先生たちはそれを無理やり止めるのではなく、うまく介入しながら自分たちで問題解決できるように導いていました。病院では大人の目が多いためにケンカが起こることすら珍しいです。一緒に働いている保育士さんも、「病院では大人が間に入っちゃうから子ども同士がケンカをしたり、子ども同士のやり取りを促すのが難しい・・・」と子ども同士の交流を深める方法を常に模索しています。こういったことも保育園での実習をしてこなかったら気づいていなかったことかもしれません。
 

その他にも細かいスキル、例えば部屋の中で自分がどこにいてどのように座っていれば子ども達全員の様子が目に入るか、どこにどんな家具や物を置けば子どもの動線が変わるのか、適切な声かけ、子どもが好みそうな遊びやおもちゃの選別力など、本や授業だけでは絶対に身につかなかったことをたくさん教えてもらいました。失敗も多かったですが、マジックミラー越しからわが子を見ていた親御さんから「上手にみてくれているから安心できる」と言われたり、担任の先生に「あなたは子ども達の動きを常に意識して行動してくれているし、子どもがいる所にあなたはいてくれる。そしてあなたの周りには子どもが集まるから大丈夫。自信をもって、その調子で病院でのインターンも頑張って」と言われたことはその場で涙してしまったぐらい嬉しく、今でもあの時に褒めてもらった事は私の励みになっています。講義や教科書から学ぶことも多かったですが、授業で学んだことを実践し改めて病気の子どもを知るためにはまずは健康な子どもの発達を理解するという事の大切さを学べました。
 

ぜひCLSになりたいと思っている方や病院にいるお子さんに関わりたいと思っている方はまずは病院という特殊な環境ではなく、まずはそういった特殊な環境にいない、「病気」の影響がない子ども達にまずは触れ合ってもらって通常の発達や子どもの行動、言動を見てもらいたいと思います。

 

次回は→こちら

このページのトップへ