成人患者のサポート?

成人患者のサポート?

2012.1.26 update.

三浦絵莉子 イメージ

三浦絵莉子

2003年の12月米国ノースカロライナ州にあるEast Carolina大学Child Development and Family Relations学部Child Life専攻卒業。2004年にCLSの認定を受け、2006年2月?2010年3月まで浜松医科大学付属病院に勤務。2010年4月からは東京の聖路加国際病院にうつり現在に至る。「O型でしょ?」としか言われた事がないぐらいの生粋のO型人間。工作している時はよく子どもたちに「仕事が雑!」と叱られます。そんな感じなので、信じてもらえない事が多いけどお菓子作りが好きで、新しい大きいオーブンが欲しいな?と思っている今日この頃です。

 

CLSになりたい方、留学等に関心がある方は以下のサイトをご参照下さい!

book 北米チャイルド・ライフ協会

book 日本チャイルド・ライフ学会

book チャイルド・ライフ・スペシャリスト協会

 

 

前回は→こちら

 

はじめまして!広島の藤原彩さんからバトンを受け継ぎました三浦絵莉子と申します。私は去年の4月にそれまで4年間勤めていた浜松医科大学附属病院を退職し、東京の聖路加国際病院に就職しました。

 

聖路加国際病院では成人患者さんのサポートを中心に活動しています。私自身以前の病院では小児科に所属し、子どもの患者さんとそのご家族との関わりが主な役割だったので、大人の患者さんに関わるという事はひとつのチャレンジでした。今回はそんな聖路加での活動についてお伝えしたいと思います。

 

子どものいる患者さんへのサポート

 

聖路加国際病院では研究の一環で、乳腺外科のスタッフと共に2007年から「チャイルド・サポート」というお子さんがいらっしゃる患者さんへのケアを始めました。当初は乳がん患者さんがサポートの対象でしたが、研究として事業が終わった今年の4月からは正規の職員となりました。現在は乳がん患者さんに限らず、お子さんがいらっしゃる患者さんにサポートの対象を広げています。

 

日本でのCLSというと、遊びやプリパレイションや処置への付き添いなどを通して心のケアを行う職種というイメージが強いかと思いますが、アメリカでは親が病気の子どもたちへのケアもCLSの仕事のひとつであったりします。

 

...とはいうものの、私も初めて踏み込むフィールドに最初はどのように動いていいのかもわからず。私の前任者のCLSやチャイルド・サポートのチーム内の小児科医についてまわり、どのようにこのサービスの紹介をすればよいか、ご自身が患者さんである親御さんが抱えている悩みに対してどのようにアドバイスしたりサポートしたりすればよいかなどを考える過程では、初めて直面する課題も多く、インターンをしていた時のような戸惑いと新鮮さを感じました。

 

2つのアプローチ

 

患者さんにお会いするまでの経緯としては、患者さんや病院スタッフから依頼を頂く場合と、私自身が直接患者さんにアプローチするという飛び込みの営業マンのような方法があります。

 

患者さんやスタッフから依頼がある場合、その場ですぐご挨拶にうかがったり、電話や連絡用のメールなどで面談をする場所と時間を調整してから患者さんにお会いしたりしています。直接私が患者さんにご挨拶に行く場合、まずは自分で対象となる患者さんを探すので、私の一日は乳腺外科病棟に入院している患者さんや外来に来ている患者さんのカルテチェックから始まります。カルテからその日の入院、または外来患者さんで未成年のお子さんがいる方がいるかどうかをチェックし、該当者がいた場合、直接その患者さんにご挨拶に向かいチャイルド・サポートのご案内をします。患者さんによってはそのままお子さんの事についてお話ししたり、相談されたりします。

 

ドアをノックする瞬間

 

私にとって、このお部屋のドアをノックする瞬間が一番勇気のいる瞬間です。小児病棟では子どもの病室に初めて訪問し挨拶をするとき、いつもおもちゃや絵本などを手にしてベッドサイドに向かいます。初めて会うCLSに警戒する子どもも、私が自己紹介を終え、持ってきたおもちゃなどで「遊ぼう」と誘うとたいていの子どもはちょっとそこでガードを下げてくれる事が多いからです。私にとってそんな盾のような魔法の杖のようなアイテムも大人の患者さんには通じません。むしろ余計警戒心を高めてしまいかねません。なので、何も持たずにお部屋に入る時は自分がとても無防備に感じてしまいます。

 

深呼吸をひとつして、勇気をふりしぼって入室し、まずは自己紹介。続いてお子さんがいる事と、そのお子さんの年齢などを確認し、チャイルド・サポートというサービスがある事のご案内をします。ひととおり紹介が終わった後でお子さんのことで気になっている事や心配なこと、お子さんの様子などをお聞きします。「今自分のことで精一杯です」という反応から「子どもに病気のことをどうやって話せばいいかわかりません」という具体的な質問まで、さまざまな反応が返ってきます。それまでは笑顔でお話されていた方もお子さんの話しになるとポロポロと涙を流してお話される方も少なくありません。病室にお子さんの写真やお子さんからのお手紙や絵などを飾って治療に励んでいる方もたくさんいらっしゃいます。これまで小児科で出会った子どもが病気の親御さんと、自分自身が患者さんである親御さん、立場や心配事などはまったく違いますが、子どもを思う気持ち、親にとっての子どもの存在の大きさなどは同じだなぁ~という当たり前のことではあるのですが、そのことを改めて肌で感じる毎日です。

 

成人患者さんへのいろいろなサポート

 

静岡がんセンターの大曲さんも4回目の回で成人患者さんへのCLSの役割に関して書いてくださっていますが、当院でも同じく以下のようにサポートを行っています。

 

■お子さんに関する事での相談相手

面談では私が自己紹介を終えると、「子どもの事を誰に話せばいいのかちょうど悩んでいたんです!」「そんな(子どもの事を相談できる)人がいるんですね!」というような声が驚きの表情とともに返ってきます。相談内容も「(乳癌の)手術の傷を子どもに見せていいものなんでしょうか?」という具体的なものから漠然とした不安を訴えられる人までさまざまです。CLSはこちらから解決策を出すというよりも、患者さんのお話を傾聴し「一緒に最善の方法を考えましょう」というスタンスで子どもの発達や対応について話し合ったり、時には一緒に悩んだりします。また、チャイルド・サポートのチームには心理士や小児科医も所属しているので、多職種間でも情報提供をし連携を取って患者さんへの支援をしています。

 

■患者さんへのエンパワメント

幼い子どもにとって大きな存在である親が病気であることは、患者さんご自身の「父親」または「母親」というアイデンティティーにも大きく影響します。それまでできていた事がしばらくできなくなったり、治療の影響などで精神状態が不安定になりいつもとは違う態度を子どもにとってしまったり、家族に迷惑をかけているとご自身を責め、「自分は母親(父親)としてどうなんだろう」と不安を漏らす患者さんも少なくありません。また、「子どもには病気の事を伝えたけど、それで良かったのだろうか?」とほとんどの方が悩まれています。そんな親御さんの自信や安心感を少しでも取り戻せるよう、患者さんご自身も頑張っている事を認め、時にはその時ご本人の言動は「間違っていなかった」、「とても適切だった」と声をかけることも大切な役割だと思っています。自分も含めて、大人になると褒められることが少なくなるので、時にはポンポンと肩をたたかれながら「上手にできたね」と褒められたり、「そのままでいいんだよ」と言ってもらえると少しホッとできるのではないでしょうか。

 

■子どもと親のかけ橋づくり

お子さんとの面談では、遊びを通したストレス発散をはじめ、お子さんがお父さんやお母さんのためにできる事を一緒に考えたり提案したりすることで、子どもの自己効力感が高まるように支援しています。また(親への)プレゼント作りといった遊びを通して感情表現を促したり、親が同席する面談では親子共同での製作過程を見守ることで、親子が共に楽しむ機会を提供し、親子の信頼関係構築をはかったりしています。また普段親子間では直接表現できない双方の気持ちや思いを面談時に代弁したり、面談後のお子さんの様子を患者さんへ伝える事で親子のつながりを再確認できるような援助を心がけています。

 

以前、12歳の娘さんを持つ患者さんから「子どもが何を考えているかわからず不安。ついついきつい事を言ってしまう。一度娘にも会ってほしい」といった内容のご相談を受けました。

 

娘さんと一緒にお母さんにプレゼントする携帯ストラップを作りながら、普段の生活などあたりさわりのない話をしました。話題がお母さんの事になると、お母さんはいつもイライラしている事、でもそれは治療の影響であること毎日怒られもし、大変だけど自分なりにうまく聞き流しているようにしているからそんなに気にしていない事などをお話してくれました。娘さんには母が心配していた事、母が「申し訳ない」と思っている事などを伝えると「いつもは怒られてばっかりなのに・・・」と言いつつも、自分の事を想ってくれている事が伝わったのか、少し嬉しそうにしていたのが印象的でした。面談の最後には、今後もし何か話したいことがあったらCLSを訪ねてきてもいいし、お母さんにも直接話してもきっと受け止めてくれるはずと話したところ、少し涙目になりながらもうなずいてくれました。

 

その後、お母さんへ娘さんとの面談の様子をフィードバックし、お母さんがイライラしているのは治療の影響である事を分かっている事、お母さんの気持ちを伝えた時のお子さんの反応などをお伝えしました。また最後にできあがったストラップを見て、お母さんの好みにとても合っていたらしく「こういうところは似ているんですね」とお子さんとのつながりを少し感じたのか、笑顔でストラップを付ける様子がとても印象的でした。

 

■面会時の患者さん&ご家族への心理的準備や子どもへの遊びの援助

病院に面会に来ることが初めての場合や、入院している患者さんの外見上の変化が大きい場合、面会に来たお子さんたちが病室の様子や患者さんを見て驚いてしまうことがあります。また、遊び盛りの子ども達にとっては、病室はすることがなく退屈な場所であり、患者さんがターミナル期にいる場合、病気の親やその人を囲む悲しい表情の大人たちがいる空間は居心地の良いものではありません。そこでお子さんが面会に来る前に来た時の過ごし方をご家族に提案したり、時には病室や室外で遊べる環境を整えお子さんたちと遊んだりして、なるべくお子さんが安心できる環境づくりをしています。直接お子さんに関わることができない場合でも、患者さんやご家族に一般的な子どもの反応やお子さんから聞かれるであろう質問などをあらかじめ伝えることで、ご家族がお子さんの反応にびっくりしたり、戸惑ったりせず対応が出来るよう、ご家族の心の準備ができるように援助しています。

 

■その他の援助

お子さんの中には自分の母親や父親が病気であることを知っていても、なかなか病院に面会に来ることができなかったり、病院に来る事自体を嫌がったりする子もいます。そこでCLSは親が病気になったお子さんを対象に院内で理科実験教室や病院ツアーなど通じ、お子さんたちに自分たちの親がどんなところで治療をしているか、どんな場所に入院しているのかが安心して見られ、体験できるようなイベントなどの企画もしています。

 

また、聖路加国際病院では小児科医や小児心理士とともに親を亡くす子どもへのグリーフケアも行っており、親子の面会を奨励したり、面会の際に子どもが居心地良く過ごせるよう居場所を作ったり、家族全員の手形や形に残るプレゼントを作ることで家族のつながりを再確認できる機会を作っています。大切な人を亡くす体験をするお子さんたちが少しでも後悔のない別れができるよう、その子たちが今後成長していく中で、この経験がネガティブなものだけでなく、心に何かがプラスとして残るようなサポートをしていくように心がけています。

 

***

 

子どもにとって親の闘病は生活に大きく影響する出来事です。まだまだ私自身も勉強しながらではありますが、闘病している親御さん、そしてその子どもたちのストレスや不安を少しでも軽減できるように、今後もさまざまな職種との連携を図りながら引き続き支援を続けていきたいと考えています。

 

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