Cancer gift  がんって、不幸ですか? 〜maggie's tokyo リアルストーリー 特別編 

Cancer gift がんって、不幸ですか? 〜maggie's tokyo リアルストーリー 特別編 

2015.6.29 update.

マギーズキャンサーケアリングセンターを東京につくろう!ーーマギーズキャンサーケアリングセンターとは

がん患者と支える人々が自分の力を取り戻すための居場所”が英国のマギーズキャンサーケアリングセンターです。造園家であったマギー・ケズウィック・ジェンクス氏らが、がんと向き合い、対話ができて、医療の専門家もいる場所をつくろうと、入院していたエディンバラの病院敷地内につくった素敵な空間が始まりです。
建築とランドスケープが一体化したやすらげる空間が患者の不安を軽減するという考え方に基づき、フランク・ゲーリー氏や黒川紀章氏など著名な建築家がボランティアで設計した個性的かつ居心地のよいセンターが現在、英国内に15か所設立されています。
現在、このマギーズセンターを東京につくろう!という活動が進行中です。ものすごい勢いで進んでいるこの活動にまつわるリアルストーリーを、本シリーズではすこしゆっくりご紹介していきます。
今回は特別編。共同代表の鈴木美穂さんが一人称で語るがん体験者としてのリアルストーリーです。

Cancer gift がんって、不幸ですか?
【寄稿】鈴木美穂(maggie's tokyo共同代表/日本テレビ社会部記者)

 

			
「がんになったからこそ伝えられることが、きっとある」
私は乳がんを告知されてからずっと、どこかでそう信じてきました。右胸の全摘手術を受けるときも、抗がん剤の副作用で苦しんでいるときも、意識が朦朧としているときでさえも。そう信じて、同僚や家族に頼んで映像を記録し続けてもらっていました。「いつか乗り越えて、この経験を活かせるときがくるんだから」無理矢理でもそう思っていないと、今にも壊れてしまいそうだったのです。

そして、闘病から7年…ついに、封印していたその記録を全て紐解く時がきました。そして、それをドキュメンタリー番組として放送する日が、近づいています。

私ががん告知を受けたのは、日本テレビに入社して3年目の2008年、まだ24歳だったときのことです。夢だった報道記者になり、公私共に充実して忙しくも楽しい日々の中で、たまたまシャワーを浴びる際に右胸にしこりがあるのに気づきました。そして、念のため会社の診療所を訪ねて紹介された病院で検査を受け、あまりに簡単に、たった1人で、告知されたのでした。「残念ながら、悪いものがうつっていました」と。

「がんになっちゃった…」

両親や会社に連絡をし、母親が駆けつけてくれるまでの間、病院の外に体育座りをしてなりふり構わず泣きました。希望に満ちあふれ、当たり前に続くと思っていた未来…それが、一瞬にして閉ざされた気がしました。「死」という言葉が頭の中をこだまして、怖くて仕方がありませんでした。私は結婚も、出産も、世界一周もできないまま死んでしまうのか…記者としての仕事もまだこれから、というときなのに。絶望感でいっぱいになる中で、唯一、頭に浮かんだ希望…それが、「がんになったからこそ伝えられることが、きっとある。必ずこの経験を活かせる日が来る」という思いでした。

がんを告知されたことを会社の上司や同僚数人に打ち明けると、私の思いを見透かしていたかのように、ある先輩が言いました。
「何があっても美穂は絶対に戻ってくる。そして、伝えようと思う時が来る。そんな日のために、記録しておこう」
そしてその先輩は、がん告知から6日後の精密検査の日から、節目節目にわざわざ休みをとって撮影に通ってくれたのです。こうして、私の闘病記録は始まったのでした。

でも、気丈でいられたのは、手術を終え、抗がん剤を始める頃まで。副作用で脱毛が始まってから私はどんどん不安定になりました。死に怯え、一時は我を失い、眠れなくなりました。それでも、「記録」をしているときだけは、どこか「記者」の自分がいて、「いつか活かすんだ」という思いが、生きる原動力にもなっていたのでした。それを汲み取ってくれていた家族は、私が泣き叫んでいるときや、意識朦朧としているときでさえも、記録し続けてくれていました。

8か月間の休職を経て、職場復帰をした後も、私は「がん」にこだわり続けていました。「闘病中の自分と同じように苦しんでいる人のために、何かしたい」そう思って、仲間を探して若年性がん患者さん向けのフリーペーパー「STAND UP!!」を発行して全国のがん拠点病院においてもらうところから始まった社外活動。そのフリーペーパーがきっかけで仲間はどんどん集まり、若年性がん患者仲間が350人も集まる団体になりました。
そして、7年の月日が経った現在は、英国発祥のがん患者さんとご家族が自分の力を取り戻すための「マギーズセンター」をまずは東京につくる「マギーズ東京プロジェクト」に力を注いでいます。

本業でも、記者として、震災や教育、政治などその時々の担当のニュースを追いかける傍ら、細く長く「がん」というテーマを取材してきました。そして、去年6月、念願叶って、医療や福祉、労働などをカバーするのが仕事の厚生労働省の担当になることができたのです。

「これで大手をふるって、堂々とがんの取材ができる!」喜んで厚生労働省担当になったその月に、友だちから「美穂ちゃんと合いそうな感じがした!」というメッセージと共に、あるURLが送られてきました。それは、19歳の時に19センチもの肝臓がんが見つかった山下弘子さんが母校で講演をされた時の原稿を載せたブログでした。

再発転移を繰り返しながら「幸せ」と言い切り、日々感謝して生きる…その生き方に深い感銘を受け、同時に、どうしてそんなに強くいられるのか、不思議でした。「もっと知りたい。伝えたい」私は、彼女と直接連絡がとれた翌日の予定を全てキャンセルし、新幹線の始発でデジカム片手に彼女の住む大阪へ向かったのでした。

それから1年、彼女の生き方をニュースで特集する度に、大きな反響がありました。そして、「撮り溜めた映像をまとめたい」という気持ちが芽生え、運良くひとつのドキュメンタリー番組にさせていただくチャンスをいただきました。その際に、「『がんを経験した記者』という視点で自身の闘病記録も含めて描いてほしい」とドキュメンタリー番組を企画、製作するオーダーをもらい、私は思いがけない形で初めて7年前の闘病記録を紐解くことになったのです。

「いつか活かしたい」そう思って記録していた闘病映像。でも、いざ闘病の時期を越えると、がんを受け止めきれずに取り乱し、周りに迷惑をかけていた弱くて器の狭い自分が嫌で、トラウマで、思い出したくもなく、あえて見ようとは思えませんでした。そして、番組制作をきっかけにいざ向き合おうとしても、それは決してたやすいことではありませんでした。
案の定、クローゼットの奥にしまい込んでいた映像を初めて見てみると、自分でも受け入れがたい映像がたくさん出てきて、向き合いきれずにその翌日は寝込んでしまったほどです。それでも、ありがたいことに、この番組のために素晴らしい制作チームを組んでいただいていたので、編集は進みました。私の闘病部分については、私が口を出してしまうと本当に触りの部分しか描けなくなるので、チームにお任せしたところ、もともと公にしてもいいと思っていたよりもはるかにディープなところまで描かれることになりました。
最初は「あり得ない」と思いましたが、それでも、伝えたいことが伝わることが一番大切。心を鬼にして客観的に見つめようと努力し、いつしか覚悟が決まりました。そして、その「覚悟」までの過程を通じて、私は、ずっとトラウマだった「がんを受け止めきれなかった自分」をようやく乗り越えられた気がしています。

「がんって、不幸ですか?」

こうして誕生する今回の番組。ニュース番組の特集では使うことはできなかった「がん経験者同士だからこそ」の会話や思いもふんだんに使い、「生きる意味」や「幸せ」を真剣に考えました。タイトル の「Cancer gift(キャンサーギフト)」は、「がんになったからこそ得られたもの」という意味。がんは悲しみや苦しみをもたらす一方で、人生にとってかけがえのない贈り物に気づかせてくれる存在…そんな思いを込めています。そして、サブタイトルでは、「がんって、不幸ですか?」と、ずっと変えたかった「がん=不幸」のイメージを皆さんに問いかけてみました。

「限りある命をどう生きるか」

がんを告知されると、人は少なからず「死」を想うものだと思います。命にはいつか必ず終わりがくる―。それを本気で実感しながら生きるとき、「今」という時はより輝きを放つものなのだと私は思います。この番組が、見てくださる方々にとって、「限りある命をどう生きるか」を考えるきっかけとなり、それぞれにとっての「幸せ」に気づくヒントになってくれるよう願っています。

【鈴木美穂さん企画ドキュメンタリー番組放送のお知らせ】
・7月4日(土)午前10時30分から日本テレビ(関東ローカル)で、鈴木さん自らが企画・製作した「Cancer gift  がんって、不幸ですか?」が放映されます。闘病から7年…乳がんの告知から撮りためてきた記録映像を全て紐解いた渾身のドキュメンタリーです。ご期待ください。
*予告動画はこちら

・7月3日(金)には事前特集が放送予定です。
news every. 18:15頃〜(日本テレビ=関東ローカル)「がんを越え、夢を跳ぶ 佐藤真海という生き方」
NEWS ZERO 23:30〜
(日本テレビ=全国ネット)「乳がんを乗り越え、叶えた夢」

https://www.youtube.com/watch?v=WPhpxQI1roY&feature=youtu.be&app=desktop

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