maggie's tokyo リアルストーリー (4)

maggie's tokyo リアルストーリー (4)

2015.5.25 update.

マギーズキャンサーケアリングセンターを東京につくろう!ーーマギーズキャンサーケアリングセンターとは

“がん患者と支える人々が自分の力を取り戻すための居場所”が英国のマギーズキャンサーケアリングセンターです。造園家であったマギー・ケズウィック・ジェンクス氏らが、がんと向き合い、対話ができて、医療の専門家もいる場所をつくろうと、入院していたエディンバラの病院敷地内につくった素敵な空間が始まりです。
建築とランドスケープが一体化したやすらげる空間が患者の不安を軽減するという考え方に基づき、フランク・ゲーリー氏や黒川紀章氏など著名な建築家がボランティアで設計した個性的かつ居心地のよいセンターが現在、英国内に15か所設立されています。
現在、このマギーズセンターを東京につくろう!という活動が進行中です。ものすごい勢いで進んでいるこの活動にまつわるリアルストーリーを、本シリーズではすこしゆっくりご紹介していきます。
いくつもの出会いが重なって、マギーズ東京へと進んできた、その長かったとも思える準備期間。でも、これらがなかったら始まらなかったという大事なエピソードを、今回はお伝えします。

【文・写真】神保康子(医療ライター)

 

 

(前回はこちら)

 
「空き店舗を安く貸してもいいですよ」
どうにかして日本にも、マギーズセンターのような場所をつくりたいと考え続けていた秋山正子さんに、こんな声がかかったのは2010年11月のこと。
 
新宿区と共同の事業として継続してきた「在宅療養推進シンポジウム この街で健やかに生き、穏やかに逝く」で、在宅医療や訪問看護の活動についての秋山さんの話を聞いた、地域の人からの申し出でした。
もと民生委員だったその人は、今は空き店舗になっている場所を、あなたたちのしている活動に有効に使ってほしいというのです。それが、今の自分にできる社会貢献だからと。
 
いくつもの出会いが重なって、マギーズ東京へと進んできた、その長かったとも思える準備期間。でも、これらがなかったら始まらなかったという大事なエピソードを、今回はお伝えします。

 

■“マギーズジャパン準備室”構想

 

1)環境は違っても……

 

英国のマギーズセンターは、がん専門病院のすぐ隣にあります。一方、申し出のあった空き店舗は、高齢化率が50%に迫る(※1)巨大な団地、都営戸山ハイツの一角。環境はかなり違います。でも……。

 
秋山さんは考えました。
「近くには大きな病院がたくさんあるから、団地の方以外にも、近隣の病院を受診する方々にも立ち寄っていただけるのでは」
 
戸山ハイツの周辺には、国立国際医療研究センター病院や、東京女子医大病院、社会保険中央総合病院(現JCHO東京山手メディカルセンター)、東京厚生年金病院(現JCHO東京新宿メディカルセンター)といった急性期病院が数多くあるのです。
 
この地域への訪問看護の経験も長い秋山さんは、がんだけでなく、さまざまな病気や身体の不調を抱えながら生活する人々からも、気軽に立ち寄れる相談窓口があったらという声を聞いていました。
 
「健康に関することや、在宅医療・介護の相談を気軽にできる場所、学校の保健室みたいにちょこっと立ち寄れる場所をつくろう」
周囲の心配もなんのその、団地の一角の“保健室”兼「マギーズジャパン準備室(※2)」の構想をスタートさせます。
 
しかし問題は、“お金”。
英国にも同行してくれた建築家に頼んで改装の図面をひいてもらい、夢は膨らみますが、改修費用や継続するための運営費をどうしたらいいのか……。英国のマギーズセンターは、チャリティーによって運営されていますが、日本で急に寄付集めをしたところで、いきなりお金が集まるとも思えません。
経済面のサポートはどうしたらいいか、いろいろな人に相談したり、助成金を調べてあたってみる日々がはじまりました。
 

2)暮らしの保健室として

 

地域で診療をしている医師から、厚生労働省の「在宅医療連携拠点」のモデル事業に応募してみないかと持ちかけられたのは、そんな矢先、2013年2月のことでした。
戸山ハイツは、全部で35棟という大きな都営の団地です。約3000世帯6000人が暮らしています。新宿区内の他の地域と比べると、高齢化率はずば抜けて高く、そこには医療とも介護とも区別しがたい、暮らしに密接したさまざまな課題が見え隠れしていました。
新宿区には大学病院や大きな急性期病院が多い一方で、在宅ケアへの理解と連携が広まりにくいという状況もあったことから、秋山さんは応募を決断。ここを拠点にして在宅医療の連携にも取り組もうということになりました。
 
しかしその後、2011年3月11日、東日本大震災が起こります。日本全体が深く沈み込んだ時期に、秋山さんは「いまだからこそ、前に進まなくては」と、強く思ったと言います。
そんな思いに呼応するかのように、道が開けていきました。その丁寧な仕事に建築家も一目置いている建設会社が、幸運にも改装を引き受けてくれることになったのです。
 
団地以外の人も立ち寄りやすいように、団地の保健室ではなく「暮らしの保健室」と名づけ、いつでもスタートできるよう、計画は進みます。
そして4月、震災のために通知が届くのが大幅に遅れましたが、無事に全国10か所のモデル事業の1つに選ばれ、改修費用は出ないにしても運営費用のめどが立ったことで、歯車は大きく回り始めたのです。
 
着工が5月の連休明けでした。そこからフルスピードで改修工事は進みます。
2011年7月1日、入って来た人誰もが癒される、明るく家庭的な空間が、戸山ハイツ33号棟の1階にオープンしました。木材をふんだんに使用し、自然光がたっぷり入る室内には、大きなセンターテーブルと、お茶を入れられる小さなキッチンカウンターが。そして、少人数で話したい時にはスペースを区切ることができる相談室、日本ならではの畳敷きの小上がり、ふと1人になりたくなった時にも使える、広々したトイレもあります。
 
月〜金の午後に看護師が常駐するほか、他の曜日には管理栄養士や薬剤師も、無料で相談にのります。基本的に予約も不要です。
心配ごとや困りごとを抱えて来室する人を、まずあたたかく迎えて入れてくれる人も必要でしたが、それは、これまで訪問看護を受けていた方などでつくる、「白十字在宅ボランティアの会」が手伝ってくれることになりました。

 

3)生活の中での困りごとを受け止める

 

がんとともに生きる人たちに対する相談支援だけでなく、現在の日本の大きな課題として捉えられている、高齢化を軸に据えたモデル事業の一環として、まずはスタートを切ることになった「暮らしの保健室」。
 
そこが一体なんなのかを地域の人たちに知ってもらうために、健康や在宅医療に関する講座などを開きつつ、発信もしていくことで、少しずつ来室者も増えてきました。
 
そこに寄せられる相談は、実にさまざま。
◎薬を処方してもらったけれど、何の薬か分からなくなってしまった。
◎病院やクリニックでもらった検査結果の読み方、意味を知りたい。
◎夫が退院してくるけれど、在宅医療はどうやって受けたらいいのか。
◎1人でいると不安で不安でいてもたってもいられない。
◎がんで余命○か月と言われたけれど、自分でできることをしたい。
◎ちょっと体調が悪いけれど、病院に行った方がいいだろうか。
などなど、これはほんの一部です。
もちろん、ただおしゃべりを楽しみに訪れる方もいます。
 
最初の1年間に相談をした人は、およそ800名。年々増えています(※3)。そのうち、がんに関する相談は4分の1〜3分の1。2012年度からは、月1回、新宿区のがん療養相談も受託するようになりました。
 
相談機能を持つ一方で、地域ケア会議や、地域の医療・介護関係の職種の人たちとともに勉強会を開いたりと、連携のための活動も行っています。
 

4)次の出会いを探して

 

在宅医療連携拠点事業を行う傍ら、秋山さんと仲間たちは、日本版マギーズセンターの必要性を、行政や病院などに、折に触れて説明していました。
日本では、2006年制定のがん対策基本法に基づき策定された「がん対策推進基本計画」において、全国のがん診療連携拠点病院への相談支援センターの設置が義務づけられています。でもやはり、病院や家では話せないことも、病院の外にある、リラックスできるような場だったら話せるし、相談もできるということを、秋山さんは暮らしの保健室の実践からも実感していました。だからこそ生活のことまで相談できる雰囲気の、別の建物が必要なのだと、可能性を探り続けました。
 
賛同してくれる人たちも現れます。英国のマギーズセンターの持つ雰囲気を紹介するための写真集並みのパンフレットをつくって印刷してくれたり、写真展を開いてくれたり、人を紹介してくれたり……。
 
マギーズジャパン準備室兼「暮らしの保健室」での、訪れる人の話をとにかくよく聞いて一緒に考え、その人自身の力を取り戻すような新しい相談支援の試みは、高齢化が進む社会においてその必要性が少しずつ認知されてきました。
ただ、もう一歩、「マギーズセンターを東京に!」という動きの、次の段階に進むには時間がかかりそうでした。
 

(※1)2011年7月時点で46.3%。2015年5月1日現在、51.3%となっています。
(※2)当時は「マギーズジャパン」構想と呼んでいました。その後、まずは東京につくろうと、「マギーズ東京」プロジェクトとなりました。

(※3)2014年度の相談者数は約900名。利用者数は約2700名となっています。

(※4)maggie's tokyo projectについてはこちら。7月13日にはチャリティイベントも開催されます。

http://maggiestokyo.org

https://www.facebook.com/maggiestokyo?fref=ts

 

 

(写真)
新宿区にある都営戸山ハイツは、高度経済成長期に作られた広大な団地。写真は、暮らしの保健室のある33号棟(著者撮影:以下同)

戸山ハイツ遠景(小).jpg

 

(写真)

暮らしの保健室の内部。もとは本屋さんだった空間を、木をふんだんにつかったあたたかみのある内装に改修しました。

保健室01.jpg

保健室メインテーブル.jpg

暮らしの保健室相談風景2.jpg

 

(写真)

2013年10月、暮らしの保健室にマギーズウエストロンドンセンター長のバーニーさんを迎えての茶話会。バーニーさんはこのとき「ここはマギーズセンターみたいね」との感想をのべました。
バーニーさん来室.jpg

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