かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2015.1.30 update.
“がん患者と支える人々が自分の力を取り戻すための居場所”が英国のマギーズキャンサーケアリングセンターです。造園家であったマギー・ケズウィック・ジェンクス氏らが、がんと向き合い、対話ができて、医療の専門家もいる場所をつくろうと、入院していたエディンバラの病院敷地内につくった素敵な空間が始まりです。
建築とランドスケープが一体化したやすらげる空間が患者の不安を軽減するという考え方に基づき、フランク・ゲーリー氏や黒川紀章氏など著名な建築家がボランティアで設計した個性的かつ居心地のよいセンターが現在、英国内に15か所設立されています。
現在、このマギーズセンターを東京につくろう!という活動が進行中です。ものすごい勢いで進んでいるこの活動にまつわるリアルストーリーを、本シリーズではすこしゆっくりご紹介していきます。
今回はマギーズ東京共同代表、鈴木美穂さんのリアルストーリーです。
【文】神保康子(医療ライター)
前回ご紹介した,秋山正子さんがマギーズセンター(maggie’s cancer caring centres) と出会ったのと同じ年,2008年に,24歳で乳がんを経験した,ある女性がいました。子どもの頃からの夢だったテレビ局での仕事に就き,社会人3年目。忙しくも仕事が楽しくて仕方がなかったときのことでした。
maggie’s tokyoリアルストーリーの登場人物として欠かせない,この人について,今回はご紹介します。
■鈴木美穂さんのこれまで
1)突然の告知
「テレビで報道の仕事がしたい!」小学生のときに心に決めた思いを見事に実現させ,2006年に,東京の大手キー局に就職した鈴木美穂さん。最初に配属された,報道局でのAD(アシスタントディレクター)の仕事はとても忙しいものでしたが,自分が少しでも関わった内容が番組で使われるだけで楽しく,文字通りバリバリと働いていました。
入社2年目から記者になったこともあり,ますますやりがいを感じながら取材に飛び回っていた2008年5月,鈴木さんは,右胸のしこりに気づきます。24歳のときでした。「念のため」と,職場の診療所に行き,紹介された病院で検査を受けることに。
翌週,結果を聞きに病院へ行くと……,医師から「残念ながら,悪いものが写っていました」と,いきなり何の予告もなくがんを宣告されたのでした。「頭の中が真っ白になった」と,鈴木さんは振り返ります。
「なぜ私が」「どうして……」さまざまな思いと不安で押しつぶされそうになりながらも情報収集をし,セカンドオピニオンも取り,結果としてその月のうちに手術を受けることになった鈴木さん。手術を受けたあとも,抗がん剤,放射線,ホルモン療法と,“フルコースの”治療は続きました。
◉初めての抗がん剤(写真提供:鈴木美穂さん)
2)暗黒時代の出会い
なんとか前向きに治療をしていこうと考えていた鈴木さんでしたが,抗がん剤の副作用で髪の毛は抜け,手足のしびれやひどい吐き気に悩まされるうちに,だんだんと気持ちが弱くなっていったと言います。「周りからとり残される気がして,自分の前に広がっていた未来が,突然消えてしまったように感じたんです」(鈴木さん)。
「がん=死」のように考えていたのもこの頃。天国のようなところに歩いて行く夢ばかりを見続け,戻ってこられなくなるのではという恐怖から,眠ることができなくなったりもしました。
当時のことを,彼女は今でも「暗黒の時代」と呼んでいます。
そんな辛い日々のなか,1人の女性に出会いました。その人も,乳がん経験者。すでにがんを患ってから9年経っており,がん患者をサポートするサロンを運営していました。「その人と接していたら,もしかしたら自分ももっと,がんになった経験を活かして人のために何かできることがあるんじゃないかと気づいた」と言います。
徐々に,死ぬことよりも生きることを考えられるようになってくると,不思議なことに天国の夢も見なくなった鈴木さん。8ヵ月の休職期間を経て,職場に復帰を果たしました。
3)がんとともに“生きる”ための情報が欲しかった
鈴木さんは,治療を終えた頃から,SNSを通じ,がんを経験した若者たちとの交流を始めていました。彼女自身,家族や友人,たくさんの人に支えられてきましたが,それでも埋められない,もっとも辛かったことは,がんとともに生きていく情報にたどり着けなかったこと。そこで,仲間に声をかけ,若くしてがんになった人を応援する団体『STAND UP!!』を立ち上げ,フリーペーパーの発行を始めました。
これは,鈴木さんががんの告知を受けた翌年,2009年のことでした。持ち前の行動力と,人なつこい笑顔,そして「がんになった経験を,人のために活かしたい!」という熱い思いが,人の心を動かし,仲間を増やしていったのです。
仕事に対する向き合い方も変わってきたと,鈴木さんは言います。がんになる前も,子どもの頃から憧れていた業界で充実した毎日を送っていましたが,今ひとつ,生涯をかけるようなテーマを見つけられずにいました。
それが,がんの経験を経て,「がんに関係することで社会の役に立つことが,自分の使命なのではないか」と強く思うようになっていました。そして実際にそのように動き始めた鈴木さんに,さまざまな出会いが訪れます。
◉STAND UP!! フリーペーパー(写真提供:鈴木美穂さん)
(つづく)
*次回は秋山さんのその後,美穂さんの国際会議参加,そして2人の出会いへと続きます!
【maggie's tokyo関連情報】
◉ maggie's tokyo Facebookページ