8-3 おじいちゃんと同居する−家で看取るということ〈その1〉

8-3 おじいちゃんと同居する−家で看取るということ〈その1〉

2013.10.16 update.

なんと! 雑誌での連載をウェブでも読める!

『訪問看護と介護』2013年2月号から、作家の田口ランディさんの連載「地域のなかの看取り図」が始まりました。父母・義父母の死に、それぞれ「病院」「ホスピス」「在宅」で立ち合い看取ってきた田口さんは今、「老い」について、「死」について、そして「看取り」について何を感じているのか? 本誌掲載に1か月遅れて、かんかん!にも特別分載します。毎月第1-3水曜日にUP予定。いちはやく全部読みたい方はゼヒに本誌で!

→田口ランディさんについてはコチラ
→イラストレーターは安藤みちこさんブログも

→『訪問看護と看護』関連記事
【対談】「病院の世紀」から「地域包括ケア」の時代へ(猪飼周平さん×太田秀樹さん)を無料で特別公開中!

前回まで

 

「失語症」と「入れ歯」の因果関係

 おばあちゃんが脳梗塞の発作で倒れたのは、2011年の震災の少し前でした。
 「おばあちゃんの様子がおかしいんじゃ」
という、おじいちゃんの声で部屋に行ってみると、おばあちゃんは痙攣していて意識も朦朧としていました。すぐ救急車を呼んで病院に運びましたが、半身不随になり「失語症」という後遺症が残りました。言語をつかさどる左脳が、脳梗塞によってダメージを受けたのです。
 失語症という事態は、私にとっても初めての経験でした。いったい失語症って、どういう障害なのか。専門書を取り寄せて勉強しました。もちろん、医師からの説明はあったのですが、本を読んでみるとその説明がとても不十分であったと感じました。
 病院の医師の高齢者への説明は、たいがい不親切でした。
 忙しい、時間がないのはわかります。でも、ていねいに説明してほしい。そう感じました。自分が高齢者になったとき、パッパッパと見下された扱いをされたら悔しいだろうなあと……。おじいちゃんたちの世代はとくに、医師に対して大変敬意をもっているので、よけいに緊張しほとんど質問もしません。
 ですが、今起こっていることと、これから起こるだろうことを知りたいのは誰しも同じだと思います。
 失語症にもいろいろなパターンがあります。おばあちゃんは、相手の言葉はわかるが、言葉をしゃべれない、という状況のようでした。
 私は、夫や娘にも失語症の本を読むように勧め、おばあちゃんとなるべくコミュニケーションがとれるように、おばあちゃんの状況を理解するようにと話し合いました。でも、おじいちゃんだけは、この事態を受け入れてくれないのです。
 「おばあちゃんは、入れ歯がないからしゃべれないんじゃ」
と、おじいちゃんは言います。
 何度説明しても、話が入れ歯に戻ってしまいます。
 おじいちゃんの言動が何か変だな……と思いました。
 「おじいちゃん、おばあちゃんが倒れた日のこと覚えてる? 救急車が来た日だよ、救急車で病院に行ったよね?」
 おじいちゃんは困ったような顔をして、なかなか答えませんでした。
 「どうだったかなあ。なんか、ようわからんのじゃ。わしはそのとき、いたんか?」
 発見したのは、おじいちゃんです。
 ショックで認知障害が出たのだと思いました。もの忘れをしたとき、人はなんとも言えない不安な表情をします。悪夢を見ていた人のような表情です。
 「どうだったかな……。あわててたので、私もよく覚えていない。おばあちゃんは脳梗塞で倒れて、病院に運ばれたんだよ」
 「そうかあ、かわいそうになあ……」
 おじいちゃんは、おばあちゃんが倒れた朝のことを忘れていました。
 私の父はがん告知されたことを忘れていましたから、人間は、案外と記憶を自分の都合に合わせて忘れているんだろうと思います。何を忘れたかなんて、忘れてしまえばわからないのだから、もしかしたら、私もつらいことの多くを忘却しているのかもしれないです。
 おばあちゃんの失語症に関して、私はおじいちゃんと何度も話し合いましたが、おじいちゃんは「失語症」という事態をどうしても理解してくれませんでした。理解できなかった……というよりも、興味がないように見えました。
 おじいちゃんは「元のおばあちゃんに戻ってほしい」という思いしかないのです。
 だから、ややこしいことを拒否したのです。
 入れ歯がなくてしゃべれないほうが都合がいい。入れ歯を戻せばしゃべれるようになるからです。そういう合理化をしないと、事態を受け入れられないのだと思いました。
 毎日、毎日、出勤するように病院に通って、じっとおばあちゃんのベッドに付き添うのがおじいちゃんの日課になりました。

 

第8回了

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訪問看護と介護

いよいよ高まる在宅医療・地域ケアのニーズに応える、訪問看護・介護の質・量ともの向上を目指す月刊誌です。「特集」は現場のニーズが高いテーマを、日々の実践に役立つモノから経営的な視点まで。「巻頭インタビュー」「特別記事」では、広い視野・新たな視点を提供。「研究・調査/実践・事例報告」の他、現場発の声を多く掲載。職種の壁を越えた執筆陣で、“他職種連携”を育みます。楽しく役立つ「連載」も充実。
9月号の特集は「懸賞論文大賞発表! 「胃ろう」をつけた“あの人”のこと」。100通近くもご応募いただいた懸賞論文の「大賞」ほか、秋山正子賞・川口有美子賞を発表! このほか、計12作品をご紹介。「胃ろう」へのそれぞれの思いや考え、個別のケアの方法、そして1人ひとりの生き様は真に迫ったもの。「高齢者殺人」をテーマにした日本ミステリー文学新人賞作品をめぐる対談も興味深い。

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