かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2013.3.22 update.
1959年、兵庫県生まれ。
徳島大学卒後、神戸大学医学部麻酔学教室入局。神戸大学大学院博士課程修了。
兵庫県立こども病院、西神戸医療センター勤務を経て、
2012年より兵庫県立姫路循環器病センター麻酔科部長。
神戸大学の学生講義や看護師向けのレクチャーにおいて、
身近な例を用いた解説で人気を博す。
パルスオキシメータは非常によくできたツールであり、体内の酸素供給状況をリアルタイムに、かなり高い精度で教えてくれます。しかし、そこに示される数値はあくまで間接的に得たものであり、盲信していると思わぬ失敗をしてしまうことがあります。
ここで、パルスオキシメータの測定の原理を理解しておきましょう。測定の原理を知っていることで、パルスオキシメータでは見逃してしまう疾患や、測定ミスが生じやすい状況がわかります。
パルスオキシメータで表示されるSpO2は次の式で計算されます。
O2Hbとは、酸素と結合したヘモグロビン(酸素化ヘモグロビン)であり、RHbは酸素を手放したヘモグロビン(脱酸素化ヘモグロビン)のことです。上記の式は、「ヘモグロビン全体のなかで、酸素によって飽和されたヘモグロビンがどれくらいあるか」を表しているわけです。SpO2が95%であれば、動脈血液中のヘモグロビンの95%に酸素が結合している、ということを意味します。
では、パルスオキシメータは2種類のヘモグロビンをどのように区別しているのでしょうか。それは吸光度によってです。吸光度とは、物質が、ある波長の光を吸収する度合いのことです。物質によって、どの波長の光をより吸収するかが異なり、その結果、私たちの目も、物質の色の違いを識別することができるのです。具体的にいえば、「青い光の吸光度が高い物質は、青味に乏しい色に見える」ということです。
RHbは波長660nmの赤色光に対する吸光度が、O2Hbよりも高いため、赤みに乏しく見えます。一方、波長940nmの赤外光(こちらは目に見えません)については、両者の関係は逆転し、RHbよりもO2Hbのほうが、吸光度が高いのです。
パルスオキシメータのプローブには発光部と受光部があり、その間に組織(通常は指先)を挟んで使用します。発光部からは前述の2つの波長の光が出ており、それが生体組織を透過する際に吸光度に従って減衰し、受光部に到達します。これを信号化することによって、通過した組織におけるRHbとO2Hbを識別しているわけです。
このように吸光度を利用してRHbとO2Hbを識別するしくみは非常によくできたものですが、同時にパルスオキシメータによる測定の「落とし穴」にもなっています。ひとつの例として、一酸化炭素中毒の場面を考えてみましょう。
室内で木炭を使用したり、練炭による自殺などでよく耳にする一酸化炭素中毒では、ヘモグロビンと一酸化炭素が結びついた「一酸化炭素ヘモグロビン」(COHb)が患者の血中で増加しています。
一酸化炭素中毒における最大の問題は、一酸化炭素が酸素の240倍もヘモグロビンに結合しやすいことにあります。健常者のPaO2は90〜95mmHg程度ですが、その際のSpO2は97〜98%程度です。これに対して、一酸化炭素は、たった0.16mmHgの分圧で血液中の75%のヘモグロビンと結合し、飽和してしまうのです。ヘモグロビンの多くが一酸化炭素と結びついてしまうわけですから、酸素飽和度は著しく低下してしまうことになります。一酸化炭素中毒が生命の危険に直結するゆえんです。
しかし、この危険な一酸化炭素がヘモグロビンと結合したCOHbは、パルスオキシメータで用いられる660nmの波長光では、O2Hbと同程度の吸光度を示すため、識別することができません。
その結果、パルスオキシメータではCOHbもO2Hbとして認識されてしまい、SpO2が過大表示されるのです。例えばCOHbが10%、RHbが5%、O2Hbが85%であれば、動脈血酸素飽和度は実際には85%なのに、SpO2は「85+10=95%」と表示されてしまうのです。
一酸化炭素中毒では血液が鮮紅色を呈するといわれますが、その理由は、COHbがO2Hbよりも赤色光全般にわたって若干、吸光度が小さいためです。この違いはパルスオキシメータでは識別できないため、採血検体が通常より赤かったり、あまりにも顔色が良すぎる時は一酸化炭素中毒を疑い、早期に血液ガス分析を行いましょう。
パルスオキシメータの本当の使い方、教えます
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