iPS細胞でノーベル賞!

iPS細胞でノーベル賞!

2012.10.26 update.

宇田川廣美 イメージ

宇田川廣美

東京警察病院看護専門学校卒業後、臨床看護、フリーナース、看護系人材紹介所勤務を経て、フリーライターに。医療・看護系雑誌を中心に執筆活動を行う。現在の関心事は、介護職の専門性と看護と介護の連携について。「看護と介護の強い連携で、日本の医療も社会も、きっと、ずっと良くなる!」と思っている。

 

決め手は細胞の初期化

ノーベル賞の授賞理由は、皮膚や毛髪などの細胞から、心臓や神経、肝臓など体のさまざまな細胞になれる能力をもたせたiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作り出すことに成功したことによります。その決め手は初期化!

 

もともと受精直後の細胞は、体のあらゆる部位の細胞になれる万能性をもっていて、細胞分裂を繰り返すうちに骨を作る細胞、心臓を作る細胞、というようにそれぞれに役割が決まっていきます。一度決まった役割は、その後、いくら細胞分裂を繰り返しても他の細胞の役割を果たすことはできないとされていました。

 

ところが、山中教授と共同受賞する英国・ケンブリッジ大学のジョン・ガードン博士が、カエルの未授精卵の核を取り出し、そこにオタマジャクシの体細胞の核を移植すると細胞が初期化されることを突き止めたのです。続いて山中教授が、核移植をしなくても細胞を初期化できることを発見し、iPS細胞を作り出すことに成功しました。たった1つの細胞をリセットできる技術が、いろいろな病気を負って生きる約60兆個の細胞の集合体である人間を病気から解放する可能性が高まったのです。

 

iPS細胞と似たもので、iPS細胞が作り出される前より早く発見されていたES細胞と呼ばれるものがあります。これもさまざまな細胞になることができるのですが、受精卵を壊して作るため拒絶反応と倫理的な課題が大きくのしかかっていました。しかし、自分の体から作るiPS細胞の出現で、臓器移植で見られる拒絶反応やドナーが見つからないといったことを克服でき、今後の再生医療の進歩に大きな期待が寄せられています。

 

あらためて考える再生医療の現状

再生医療とは文字通り、損傷を受けたり老化したりして機能不全を起こした生体機能を、幹細胞などを使って再生させようとするものです。熱傷部位に人工皮膚や自分の皮膚を培養したものを用いることや、白血病に対する骨髄移植なども再生医療です。

 

そして次のような治療・研究が行われ、医療へと導入・普及しつつあります。

 

【角膜損傷―角膜培養】

本人の口腔粘膜あるいは健康な側の角膜の縁を採取して培養し、人工的に角膜を作って混濁した角膜と入れ替える。

 

【足の血管障害―血管新生】

動脈硬化症やバージャー病によって足の血管が詰まったことによる歩行障害や足指の壊疽等に対し、幹細胞を注入して新しい血管を新生する。

 

【脊髄損傷―自発運動の回復】

マーモセットという霊長類に対して神経幹細胞を移植して、自発運動の回復が見られている。

 

【心筋梗塞―心筋組織培養】

心筋細胞を層状に重ねて培養。動物実験の体内で1つ塊として同調しながらの動くことが確認された。

 以上のほか、アルツハイマー病やパーキンソン病などさまざまな病気の患者の細胞からiPS細胞を作り、神経や肝臓などの細胞に分化させ、新薬の候補となる薬をかけてその効果や毒性などを調べることもできるのです。こうして、新薬の開発にもiPS細胞の応用が期待されています。

 

是非ともQIの導入を!

今回のニュースは多くの人に希望をもたらしています。その一方で、虚偽のiPS細胞の臨床応用を発表する学者が出てきたり、仲介業者によって海外で病気治療や若返りを目的としたES細胞移植を受けたものの治療効果が得られなかったり、残念なことが再生医療の周辺で起こっています。

 

今、QI(Quality Indicator:医療の質)の測定・公表を行う病院が増加しています。平均在院日数や手術件数、合併症の発生率、死亡退院患者率など客観的なデータを公表して、医療の質を明示するのです。患者にとっては医療機関や治療の選択肢の一つとなり、医療機関にとっては次の改善目標や対策へとつながり、質の向上へのステップとなります。そして、こうした病院が増えていくことで、医療全体の質が高まっていきます。

 

インターネットの検索サイトで“再生医療”と入力すると、多くの医療機関の名が挙がり、そのほとんどがアンチエイジングや美容を目的としています。それだけ身近になっている再生医療だからこそ、今からQIを取り入れることが、確実なエビデンスを構築していくことになるのではないでしょうか。

 

※参考HP

●「再生医療の現状と未来」(内閣府 科学技術政策)

http://www8.cao.go.jp/cstp/5minutes/001/index.html

 

●「再生医療ルネサンス」(読売新聞の医療サイトyomiDr.ヨミドクター)

http://www8.cao.go.jp/cstp/5minutes/001/index.html

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