医療現場でアスベスト被害!

医療現場でアスベスト被害!

2012.9.03 update.

宇田川廣美 イメージ

宇田川廣美

東京警察病院看護専門学校卒業後、臨床看護、フリーナース、看護系人材紹介所勤務を経て、フリーライターに。医療・看護系雑誌を中心に執筆活動を行う。現在の関心事は、介護職の専門性と看護と介護の連携について。「看護と介護の強い連携で、日本の医療も社会も、きっと、ずっと良くなる!」と思っている。

使用済みゴム手袋の再利用作業が原因

 

被害に遭ったのは山口県在住の元准看護師・河村三枝さんで、手術用のゴム手袋をガス滅菌する作業過程でアスベストを吸い込んだことが原因として、山口労働基準監督署が2012年7月27日に労災認定をしました。

 

河村さんは1981年6月から1986年1月、勤務していた病院で月に2~3回、ゴム手袋を再利用するための作業を行っていました。それは、使用済みゴム手袋を洗浄・乾燥後、ゴム手袋同士の接触面が張り付かないように「タルク」と呼ばれる打ち粉をまぶす作業です。そのタルクにアスベストが含まれていたといいます。

 

ベビーパウダーにも使われていたタルクが原因…ということに動揺

 

タルクとは白色の鉱石です。子どもの頃、コンクリートやアスファルトの地面に図や絵を描いて遊んだものですが、その時に用いた白くてツルツルした蝋石と呼んでいた石がタルクです。これを細かく砕いたものは医療現場のほかに工業製品の製造やベビーパウダーにも使用されていました。

 

タルクもベビーパウダーも医療現場では、ゴム手袋やケリーパッドなどのゴム製品の管理や患者さんの保清後やマッサージの際にも使用している身近な品です。スタッフはもちろん患者さんも含めて、数えきれないほどの人が直接的・間接的にタルクに触れていたはずです。それだけに今回のニュースには、多くの人々が動揺と不安を覚えているのでないでしょうか。

 

 厚生労働省は、1987(昭和62)年、通達によって検査体制を強化し、2006(平成18)年にはよって、ベビーパウダーに使用されるタルクについてアスベストが検出されないものを用いることを義務付けました。

 

「たくさんの人に知ってもらいたい」

 

河村さんは「アスベストに対する認識が低く、知らない間に吸ってしまった人もいる。今回の事例をたくさんの人に知ってもらうことによって、問題を広めていきたい」と訴えます。

 

アスベストに対する安全基準が整備される以前に、河村さんと同じような作業を行っていた人は他にもたくさんいるはずです。そして、まだまだ私たちの暮らしの中にはアスベストが身近な所にたくさんあります。保温断熱目的で石綿(アスベスト)が吹き付けてあるビル、スレート材、防音材、断熱材、保温材、ブレーキライニング、ブレーキパッドなど。 現在、これらにアスベストを使用して製造することは禁止されているものの、稼働している機械や建築物にたくさん存在しています。



最近も、阪神淡路大震災後の解体現場でボランティアとして働いていた人が、アスベストによる健康被害で労災認定を受けたこと、東日本大震災の瓦礫処理でもその懸念と防塵対策の普及が進められていること、等が話題になりました。

 

アスベスト暴露の問題は、ある特定の作業に従事する人だけの問題ではなく、国民一人ひとりの問題です。そして長い潜伏期間(表)を経て発病するアスベストによる疾患は、まさに今から国を挙げて取り組むべき大きな医療課題の一つです。

 

表 アスベストが原因で発症する疾患

 

疾患名

潜伏期間

備考

石綿(アスベスト)肺

15~20年

肺線維症の一種。職業上アスベスト粉塵を10年以上吸入した労働者に起こるといわれている。

肺がん

15~40年

暴露量が多いほど肺がんの発生が多いことが知られている。

悪性中皮腫

20~50年

胸膜、腹膜、心膜等にできる悪性の腫瘍。

若い時期にアスベストを吸い込んだ人がかかりやすい。

 

 

参考website

●アスベスト(石綿)についてQ&A 厚生労働省

 http://www.mhlw.go.jp/topics/2005/07/tp0729-1.html

●「アスベスト(石綿)にさらされる作業に従事していたのでは?」と心配されている方へ  厚生労働省

http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/sekimen/roudousya2/index.html

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