かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2012.7.29 update.
東京警察病院看護専門学校卒業後、臨床看護、フリーナース、看護系人材紹介所勤務を経て、フリーライターに。医療・看護系雑誌を中心に執筆活動を行う。現在の関心事は、介護職の専門性と看護と介護の連携について。「看護と介護の強い連携で、日本の医療も社会も、きっと、ずっと良くなる!」と思っている。
2012年初めから7月11日までの間に、全国で594人の風疹患者さんが発生したと国立感染症研究所によって発表されました。この数は、昨年1年間の患者数371人を大きく上回っています。また、その内訳は兵庫県が146人と最多で、続いて大阪府が128人、東京都が118人、そして神奈川県の40人が続き、関西と首都圏での流行が目立ちます。
また患者全体の80%にあたる460人が男性で、年齢では20~40代の人が目立っています。女性患者では75%の人が妊娠出産の可能性が高い10代後半~40代の人たちです。
○厚生労働省HPより
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/dl/h24-0719-01-2.pdf
患者数が多い10代から20代の人たちは、実は、ワクチンを1回しか受けていない年代なのです。そのため
①麻疹・風疹ワクチンを受けてないないで、罹患していない人たちが一定数いる、
②1回目のワクチン接種で免疫を獲得できなかった人がいる
③自然感染による免疫増強効果(ブースター効果)を受ける頻度が低くなっているため、十分な抗体を保有していない
という要因から、麻疹・風疹に罹りやすい体になっているのです。
現在は第1期(生後12カ月以上24カ月未満)、第2期(5歳以上7歳未満で、小学校入学前の1年間)の2回、ワクチンを接種しています。しかし、以前は1回のみでした。しかも、麻疹と風疹は別々に摂取していました。現在は、MRワクチン(麻疹・風疹ワクチン)を1回接種することで、約95%の人が麻疹と風疹の免疫力を付けることができるといわれています。
風疹では、全身に発疹、発熱、リンパ節腫脹が表れます。患者本人にとってもつらいことですが、予防接種を受ける前の0才児や予防接種を受けられない人などへも被害が及ぶこと、さらに妊娠中の女性が罹患することによってその子が先天性風疹症候群に罹ってしまう可能性が出てきます。先天性風疹症候群に罹ると、奇形・難聴・白内障・緑内障・心疾患などを起こすリスクがあります。風疹に罹患することが、本人だけでなく周囲の人たちや次世代を継ぐ新しい生命にも大きな影響を与えることになるのです。
2007年の麻疹流行の後、国は2008年4月1日から2013年3月31までの間に定期予防接種対象者に中学1年および高校3年相当の人たちを追加することを決めました。この人たちは、1回しかワクチン接種を受けていない年代の人たちです。風疹についても同じように実施することになっています。
ところが、その周知がうまくいっていないのか、1期(生後12月~24月)を除いた2期~4期の接種率はいずれも50%前後の率であり、この点も今回の風疹の流行に大きく関係していると思われます。
厚生労働省は自治体を通じて、風疹への定期予防接種対象者に対して積極的に接種を勧めるよう呼びかけています。特に
①妊婦の夫、子ども、およびその他の同居する人
②10代後半から40代の女性(特に妊娠希望者または妊娠する可能性の高い人)
③産褥早期の女性
のうち、風疹の罹患や予防接種を受けたかどうかが曖昧な人については、予防接種を検討するよう呼びかけています。
そういえば、アメリカの映画『アポロ13号』の中で、既にパイロットに決定して訓練してきたKen Mattingly が風疹と診断されて乗務できなくなったエピソードが描かれていました。その落胆ぶりと荒みようが印象に残っています。こうした残念な結果を作らないためにも、医療従事者として、正しくワクチン接種を勧め、相談に対応していきたいものです。
○国立感染症研究所感染症情報センターHPより