おしゃれとアートを楽しむ義足の新たな世界

おしゃれとアートを楽しむ義足の新たな世界

2012.5.28 update.

宇田川廣美 イメージ

宇田川廣美

東京警察病院看護専門学校卒業後、臨床看護、フリーナース、看護系人材紹介所勤務を経て、フリーライターに。医療・看護系雑誌を中心に執筆活動を行う。現在の関心事は、介護職の専門性と看護と介護の連携について。「看護と介護の強い連携で、日本の医療も社会も、きっと、ずっと良くなる!」と思っている。

義足をテーマにしたアートがグランプリ獲得!

若手アーティストの登竜門として知られる「アートアワードトーキョー丸の内」で、義足をテーマにした作品が2012年グランプリに輝きました( http://www.artawardtokyo.jp/2012/ja/awards/    )。片山真理さん(24歳東京芸術大学大学院卒)が制作した「ハイヒール」という名の作品は、小物にあふれた小部屋に理想の“足”を装着した女性とガーターストッキングにハイヒールを履いた“足”を装着した女性の二つのポートレートを中心に、その手前に義足や足をモチーフにした布製のオブジェが飾られていました。自らの肉体と真正面から向き合う姿勢は、フリーダ・カーロ(メキシコの女流画家)を彷彿します。二分脊椎や交通事故の後遺症で苦しんだフリーダは、鋼鉄製のコルセットを装着した姿を「ひび割れた背骨」という作品に描きました。

病気のために9歳の時に両足を切断して以来、義足を装着している片山さん。「自分の体をなぞり、思い出を残そうという気持ちが強くなった」、と制作にあたっての思いを語り、「作品は純粋に見てほしい。作品を見る人が自分に引き付けていろんな解釈をしてくれればいいと思う」とも。障害や疾病ではなく、他のアートと同じように“見て”、“感じて”ほしい…といった片山さんの思いが伝わってきます。そして「ナース目線」は義足へと向かいました。

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福祉制度の中の補装具

義足をはじめとしたコルセットや車いすなどの補装具は、身体障害者福祉法および児童福祉法、労働者災害補償保険法、健康保険各法、厚生年金保険法、生活保護法、戦傷病者特別援護法の各分野でその普及と支給支援が図られています。なかでも身体障害者福祉法および児童福祉法は、我が国における補装具制度の基本的骨格を形作っています。その概要は―障害者が日常生活を送る上で必要な移動等の確保や、就労場面における能率の向上を図ること、および障害児が将来、社会人として独立自活するための素地を育成助長することを目的として、身体の欠損または損なわれた身体機能を補完・代替する用具について購入・修理に要した費用(基準額)の100分の90に相当する額(補装具費)を支給する―というものです(厚生労働省HPより引用)。要するに日常的な歩行や通常の仕事ができればよい機能レベル範囲の支援であり、「ファッション性」や「好み」といった要素はほとんど考慮されていません。

 

機能重視から真のQOL追求へ

片山さんの作品で新鮮に感じることは、義足がアートとなって現れたこと、そして背景に漂う“おしゃれ”や“装い”といった要素です。

現在、義足の機能性はとても向上しています。最近では筋肉から出る微弱な電気を感じ取ることにより操作する義肢や、コンピューター制御で動く膝継手(膝関節に相当する部品)のある義足なども使われるようになっています。平地、坂道、階段といったさまざまな状況に応じて関節の動きを内部動力で制御して、左右の足を交互に動かして健常者と同じように階段昇降や登山なども可能になってきているということです。オリンピック出場さえ現実となる日も近いでしょう。今後は、高齢者や疾病をもった人が簡単かつ安全に使用するための高機能部品の開発が課題となっているそうです。

では、「ファッション性」や「好み」の反映といった点ではどうでしょうか。

片山さんは音楽活動もしていて、「ハイヒールを履いてステージに立ちたい」と思った時、足首から下をハイヒール用に取り換えられる義足をアメリカからわざわざ取り寄せたそうです。それだけ国内では「装い」のニーズに応える環境が十分に整っていなかったといえるのでしょう。それでも、「機能」も「おしゃれ」も、そして「アート」も楽しもうとしている当事者の人たちはたくさんいます。義肢に独自の装飾を施したり、アウターに合わせた靴を装着したりする様子がwebでも紹介されています。また切断障害者のためのスポーツクラブ「HEALTH ANGELS」ではスポーツ活動をサポートするほか、メンバーのアート・コラボレーションやファッションショーの参加などもサポートしています。こうして「ファッション」や「アート」として個人のセンスや好みを義肢に積極的に取り入れるようになりつつあり、補装具の分野が機能性と同時に真のQOLを追求する時代に突入していることを強く感じます。

 

*「医学と芸術展:生命と愛の未来を探る」(2009年11月28日~2010年2月28日、六本木森ビルで開催された)に、フォトグラファーの蜷川実花さんがデザインし、義肢装具士の臼井二美男さんが制作した義足を展示。また、それをGIMICOさんが装着してモデルデビューを飾る。

 

<参考HP>

●補装具費支給制度の概要 厚生労働省

http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/yogu/gaiyo.html

 

●中村隆:最先端の義足と切断者の現状、国リハニュース(国立身体障害者リハビリテーションセンター広報誌)293号 2008年3月

http://www.rehab.go.jp/rehanews/japanese/No293/11_story.html

 

●ヘルスエンジェルス

http://www.healthangels.jp/news.html

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