かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2012.2.13 update.
近年,褥瘡治療には除圧や局所管理の他に栄養管理が重要であることが明らかになってきました。
また,NSTや褥瘡対策チームの普及により,多くの施設でチームによる取り組みが積極的に行わ
れるようになってきています。
しかし,多職種によるチーム医療を展開するうえで,褥瘡治療と栄養管理を効果的に行うために
は,それぞれの職種が専門的知識を共有しながら検討することが必要です。
この連載では,褥瘡患者の栄養管理について,専門的な知識,技術をコンパクトに解説し,実践
の現場に役立つ情報を提供させていただきます。病棟,在宅さまざまな現場で活動するナースの
皆さんにとって,患者さんの状態に応じた適切な栄養管理を行う指針となれば幸いです。
*本連載は毎週金曜日に更新する予定です。
褥瘡患者の栄養アセスメント④客観的栄養評価
栄養アセスメントの結果から算出した各栄養素の投与量が決定したら,それで終了ではありません。
算出された必要量はあくまでも目安であり,個々の患者によって吸収・代謝は異なるからです。
もっとも重要なことは,投与された栄養量が適切で患者の栄養状態が改善されているのか,その効果を継続的にモニタリングし,定期的に評価・修正を行うことです。
何らかの栄養障害があると判断された患者への定期的な評価は,血液や尿などの生化学検査値や身体計測などのデータをもとにした客観的栄養評価(ODA)で行います。
評価指標には,長期的な栄養状態を評価する「静的栄養評価指標」と,代謝動態の変化をタイムリーに反映する指標を用いて直近の栄養状態を評価する「動的栄養評価指標」があります。
ODAで評価する主な項目を図1にまとめました。また,全体の詳細な評価項目は表1.pdfを参照してください。
実際のアセスメントにおいては,それぞれの指標にメリット・デメリットがあり,複数の評価指標を組み合わせて評価することになります。
褥瘡治癒と栄養との関係性を臨床で評価するときに,気をつけたい指標とポイントを以下にいくつか示していきます。
●アルブミン値のみで評価しない!
褥瘡患者の場合には,アルブミン値3.0g/dl以上,ヘモグロビン10g/dl以上に保てなければ十分な治療効果は望めないと言われています。ただ,この際,褥瘡発生と相関の強いアルブミン値のみで評価しないように注意が必要です。
なぜでしょうか。
アルブミン値は安定した指標ですが,血中濃度の半減期が約3週間とゆるやかだからです。ですから,長期的な栄養状態を反映する「静的栄養評価」の指標として有用なのです。
●アルブミン値を評価するとき,脱水や炎症反応との関係性にも注意する!
アルブミン値は脱水によって高値となるため,同時に脱水の評価も必要です。
そのほか,炎症反応との関係性にも注意します。炎症が生じている場合,サイトカインのシグナルにより急性相たんぱくであるCRPの合成がさかんになりCRP値は上昇します。このとき,内蔵たんぱくであるアルブミンの合成は抑制されています。
これは,創傷治癒に必要なたんぱく合成を優先させるため,その原料となるアミノ酸の節約のためにアルブミンの合成が抑制されるメカニズムによるものです(図2)。
つまり,炎症が治まらない限り,十分なたんぱく質量を投与したとしてもアルブミン値は上昇しないため,たんぱく質投与量の不足と判断しないよう注意します。
●褥瘡の栄養管理では,たんぱく質の合成が優位か,消費が優位か,代謝動態に注意する!
褥瘡治癒を促進するためには,たんぱく異化亢進状態に傾いていないか評価を行うことも重要です。たんぱく異化亢進状態とは,たんぱく質がエネルギーに使用されている,つまり消費が優位な状態であるため,結果的に創傷治癒が遅延してしまうからです(Part2第2回参照)。
このアセスメント項目として,BUNと窒素バランスに注目します。
たんぱく質(アミノ酸)をエネルギーとして消費する際,窒素がはずれ尿中に排泄されるため,尿素窒素(BUN)が上昇しますので,注意が必要です。
また,適正な栄養投与の評価には窒素バランスも指標となります。窒素バランスはゼロ以上(正)が望ましいとされていますが,たんぱく異化亢進状態では投与される窒素の量より,排泄される窒素の量が多くなるため,窒素バランスは負に傾いてしまうのです。
たんぱく質量の管理においては,高齢者では腎機能が低下していることが多いため,たんぱく質の過剰投与とならないよう,腎機能にも注意してモニタリングを行うことが重要です。