Part3 褥瘡患者の栄養管理(全5回③)

Part3 褥瘡患者の栄養管理(全5回③)

2012.1.20 update.

石川 環(独立行政法人国立病院機構東京病院  皮膚・排泄ケア認定看護師) イメージ

石川 環(独立行政法人国立病院機構東京病院  皮膚・排泄ケア認定看護師)

近年,褥瘡治療には除圧や局所管理の他に栄養管理が重要であることが明らかになってきました。
また,NSTや褥瘡対策チームの普及により,多くの施設でチームによる取り組みが積極的に行わ
れるようになってきています。
しかし,多職種によるチーム医療を展開するうえで,褥瘡治療と栄養管理を効果的に行うために
は,それぞれの職種が専門的知識を共有しながら検討することが必要です。
この連載では,褥瘡患者の栄養管理について,専門的な知識,技術をコンパクトに解説し,実践
の現場に役立つ情報を提供させていただきます。病棟,在宅さまざまな現場で活動するナースの
          皆さんにとって,患者さんの状態に応じた適切な栄養管理を行う指針となれば幸いです。

褥瘡患者の栄養アセスメント②各栄養素の必要量の算出

 

(前回記事「必要エネルギー量」から続く)

 

 必要エネルギー量が算出できたら,各栄養素(たんぱく質,脂質,糖質)の投与量を決定していきます。

 ここで重要となることは,投与エネルギー量に対するたんぱく質量の割合です。たんぱく質の必要量はストレスの程度によって異なり,ストレスが強いほどたんぱく質は消費されます。つまり,褥瘡の重症度が高いほどたんぱく質を優先的に補給する必要があるのです。

各栄養素の算出.JPG

 

なぜ,たんぱく質の必要量を最初に決定する必要があるのか。

 以前に学習したように,三大栄養素のすべてがエネルギー源になり得ます。その一方,体内で組織の合成に機能できるのはたんぱく質だけです。ですから,たんぱく質がエネルギー源として利用されてしまうと,肉芽の増殖が困難となり,創傷治癒は遅延してしまいます。そのため,褥瘡をもつ患者さんでは,まずはじめにたんぱく質の適正な必要量を決定することが重要なのです。

 たんぱく質の適正な投与量は,非たんぱく熱量(NPC:non-protein calorie)とたんぱく熱量(N:nitrogen)との比率であるNPC/N比(非たんぱくカロリー窒素比)で算出します(表1)。

 

?-3表1.jpg

NPC/N比とは?

 NPC/N比とは,たんぱく質量に対して,他のエネルギー素材である非たんぱく熱量(炭水化物・脂質)をどれだけ用いれば,効率よくたんぱく質をたんぱく質として利用できるのかを示す指標です。つまり,たんぱく質がエネルギーに利用されないための適正量を算出するものです。

 非侵襲下であればNPC/N=150~200となるよう設定します。例えば,投与エネルギー量が2000kcal/dayでたんぱく質量が60gの場合,NPC/N比は183になります。これは,体重50kgで1.2g/Kg/dayのたんぱく質量に相当します(表2)。

?-3表2.jpg

 たんぱく質量が多くなるとNPC/Nの数値は小さくなり,褥瘡がある場合は80~150程度を目安とします。ただし,腎不全がある場合には200以上を目安にします。

 

続いて,脂肪,糖質の投与量を決定

 次に,脂肪投与量を決定します。脂肪は,たんぱく質と糖質のエネルギー量が4kcal/gであるのに対し,脂質は9 kcal/gであり,燃焼効率の高いエネルギー源です。投与量は,総エネルギー量の20~25%を目安とします。

 最後に,糖質を決定します。糖質の投与量は,総エネルギー量からたんぱく質と脂肪のエネルギー量の総和を差し引いて算出します。

 

 

 ただし,これらの算出量はあくまでも目安です。算出した投与量が適正であるか適宜モニタリングを行うことが大切です。このモニタリングによる評価方法は,ODA(objective data assessment:客観的データ栄養評価)の項で解説します。

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