Part.3 褥瘡患者の栄養管理(全5回①)

Part.3 褥瘡患者の栄養管理(全5回①)

2011.11.22 update.

石川 環(独立行政法人国立病院機構東京病院  皮膚・排泄ケア認定看護師) イメージ

石川 環(独立行政法人国立病院機構東京病院  皮膚・排泄ケア認定看護師)

近年,褥瘡治療には除圧や局所管理の他に栄養管理が重要であることが明らかになってきました。
また,NSTや褥瘡対策チームの普及により,多くの施設でチームによる取り組みが積極的に行わ
れるようになってきています。
しかし,多職種によるチーム医療を展開するうえで,褥瘡治療と栄養管理を効果的に行うために
は,それぞれの職種が専門的知識を共有しながら検討することが必要です。
この連載では,褥瘡患者の栄養管理について,専門的な知識,技術をコンパクトに解説し,実践
の現場に役立つ情報を提供させていただきます。病棟,在宅さまざまな現場で活動するナースの
          皆さんにとって,患者さんの状態に応じた適切な栄養管理を行う指針となれば幸いです。
          *本連載は毎週金曜日に更新する予定です。

(1) 褥瘡患者の栄養スクリーニング――アルブミン値から考える褥瘡患者の栄養状態

 

 今回から,褥瘡患者の栄養状態のスクリーニング,アセスメントの方法について解説していきます。

 褥瘡は,車に例えると車体の損傷であり()損傷の程度により修繕の工程を検討することが必要であるのと同様に,褥瘡の程度によって,どの栄養素をどれくらい補給すべきか,栄養アセスメントを実施して,栄養管理計画を立案することが必要です。

 

栄養素の役割2(2).JPG

 

 

 褥瘡患者の場合,創傷の存在そのものが侵襲因子(ストレスファクター)であるため,すべての患者に栄養管理計画が必要になりますが,重点的に栄養管理計画が必要な患者のスクリーニングには,厚生労働省から提示されている「褥瘡対策に関する診療計画書」(参照:褥瘡対策に関する診療計画書.pdf)の危険因子の評価から抽出するのが最も簡便です。

 

 「褥瘡対策に関する診療計画書」にある危険因子の「病的骨突出」「栄養状態低下」「浮腫」は低栄養を見つける項目であり,これらの危険因子に該当する患者は重点的に栄養管理計画が必要な患者と判断できます。

 

 このうち,「栄養状態低下」の評価について,日本褥瘡学会では,2002年に褥瘡予防の観点から,血清アルブミン値3.0~3.5g/dlを栄養状態の低下状態と提示しており,「栄養状態低下」の定義としては,血清アルブミン値3.5mg/dL以下が目安です。

 

 ここでは,褥瘡患者の栄養評価でなぜアルブミン値に注目する必要があるのか,その合成経路から褥瘡発生のメカニズムを考えてみたいと思います。

 

アルブミンの合成経路から考える褥瘡発生のメカニズム

 

 アルブミンは血漿たんぱく質の約6割を占め,血管内に40%,血管外(間質,細胞内)に60%分布する血中で最も重要なたんぱく質のひとつで,肝臓のみで合成されます。そのため,肝機能に障害がある患者は,アルブミン値の低下から低栄養状態を誘発するので,注意が必要です。エネルギーやたんぱく質の欠乏状態が続くと,内蔵されたたんぱく質が減少し,結果的にアルブミンの合成が障害されます。

 

 血液中の膠質浸透圧()はアルブミン濃度に依存するため,血中のアルブミンが低下すると,膠質浸透圧も低下し,結果的に血管内の水分保持が困難となり,全身の浮腫をも誘発します。次いで,リンパ球数が減少し,免疫能の低下が起こります。さらに,コラーゲンなどの合成能が抑制されるとともに,線維芽細胞増殖因子などの発現が減少し,創傷治癒が遅延します。

 

 生体のたんぱく質合成能が低下するため,組織耐久性は低下し,褥瘡発生を助長することにもなります。つまり,褥瘡ハイリスク患者ケア加算項目の「黄疸」は,肝機能障害による組織耐久性の低下,極度の皮膚脆弱状態を意味しているのです。

 

 低栄養,特にアルブミン値の低下が褥瘡発生のリスクファクターとなるメカニズムをご理解いただけたでしょうか。

 

 次回から,褥瘡患者の具体的な栄養アセスメント,管理計画について解説していきます。

 

:浸透圧の一種で、循環系において主としてアルブミンの濃度によって生じる血漿や間質液の浸透圧のこと。血漿と間質液の濃度差から生じる膠質浸透圧較差によって循環血液量が保たれている。

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