かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2011.9.30 update.
近年,褥瘡治療には除圧や局所管理の他に栄養管理が重要であることが明らかになってきました。
また,NSTや褥瘡対策チームの普及により,多くの施設でチームによる取り組みが積極的に行わ
れるようになってきています。
しかし,多職種によるチーム医療を展開するうえで,褥瘡治療と栄養管理を効果的に行うために
は,それぞれの職種が専門的知識を共有しながら検討することが必要です。
この連載では,褥瘡患者の栄養管理について,専門的な知識,技術をコンパクトに解説し,実践
の現場に役立つ情報を提供させていただきます。病棟,在宅さまざまな現場で活動するナースの
皆さんにとって,患者さんの状態に応じた適切な栄養管理を行う指針となれば幸いです。
*本連載は毎週金曜日に更新する予定です。
Ⅱ-2 代謝された各栄養素が褥瘡の改善に果たす役割①
アミノ酸:BCAA・アルギニン
必要な材料が揃わないと車が走行できないのと同様に,必要な栄養素が不足していると褥瘡を治すことはできません。
褥瘡は車(前回記事参照)に例えると車体の損傷であり,安全な走行を行うためには修繕が必要です。
欠損があれば基となる材料が必要であるように,褥瘡の治療には肉芽を形成するための材料が必要です。
その材料に当たる主な栄養素がたんぱく質(アミノ酸)になります。
創傷治癒過程を図を使って解説すると,アミノ酸がペプチド結合し,たんぱく質が合成され肉芽組織を形成する,というプロセスを取ります。アミノ酸は20種類あり,体内で合成されない「必須アミノ酸」と,合成される「非必須アミノ酸」に分類されます。
創傷治癒に特に必要なアミノ酸には,必須アミノ酸である分岐鎖アミノ酸(BCAA)とアルギニンがあります。
分岐鎖アミノ酸は,骨格筋で優先的にエネルギー基質として利用されます。よって,タンパク質の合成を促し,異化作用軽減が図れます。
※異化作用とは?
「異化」とは、糖の代わりに筋タンパクが分解されてエネルギーに利用される状態のことを言います。そのため、創傷治癒に必要なタンパク質が不足してしまいます。この状態では、アミノ酸をエネルギーに利用する際、窒素がはずれ尿中に排泄されるため、尿素窒素(BUN)が上昇します。
アルギニンは必須アミノ酸ではありませんが,侵襲下において必要なアミノ酸で,「条件付き必須アミノ酸」と言われています。
アルギニンは一酸化窒素(NO)の前駆物質(目的の化合物になる前の、元となる物質)となり,血管拡張作用や細胞増殖の促進,免疫細胞の賦活化,インスリン抵抗性の改善などの作用があります。
侵襲後のアルギニン投与により,異化作用を軽減させ,窒素バランスを改善し,創傷治癒を促進します。
1985(昭和60)年の世界保健機関(WHO)の報告によると,アルギニンの一日必要量は体重50~60kgで6~7gです。
食事から摂取可能なアルギニン量は一日約4gであることから,褥瘡患者にはアルギニンを強化する必要があるのです。主な食品のアルギニン含有量を紹介します。
●主な食品のアルギニン含有量(㎎/100g)
・牛乳:210㎎
・納豆:940㎎
・牛肉 :1,200mg
・マグロ :1,500mg
・鶏卵:780mg
・大豆:2800mg
・高野豆腐:4200mg
次回は「代謝された各栄養素が褥瘡の改善に果たす役割」の2回目として,脂肪酸について解説します。