医療者のための心の技法 第15回(最終回)

医療者のための心の技法 第15回(最終回)

2011.5.26 update.

名越康文 イメージ

名越康文

1960年生まれ。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院精神科主任を経て、99年、名越クリニックを開業。専門は思春期精神医学。精神科医というフィールドを越え、テレビ・雑誌・ラジオ等のメディアで活躍。著書に『心がフッと軽くなる「瞬間の心理学」』(角川SSC新書、2010)、『薄氷の踏み方』(甲野善紀氏と共著、PHP研究所、2008)などがある。2011年4月より「夜間飛行」(http://yakan-hiko.com/)にて公式メルマガスタート。


インターネットと身体

 

霊界としてのインターネット

 

身体論は、いまの現実を生きる武器としても、ニーズが高まっていると僕は考えています。というのも、「霊界としてのインターネット」に飲み込まれないためには、身体がどうしても必要となってくると思うからです。

 

2000年代以降の文化の大きな部分を、インターネットが引っ張ってきたということに異論のある人は少ないでしょう。インターネットって、ある種の霊界みたいなところがある。「あちらにも、こちらにも、同時に存在することができる」というのは、ある種、この現世に霊界を生み出したといってもいいくらい、大きな変化を僕らの感覚世界にもたらしました。

 

地球の裏側の人とリアルタイムにコミュニケーションできる。そのことは便利なことであると同時に、すごく恐ろしいことでもあります。それは、一言でいうと「インターネットには身体がないため、限界もない」ということです。限界がない、ということは、ひとたびネガティヴなものに巻き込まれだすと、ブレーキがかからず、どこまでも引きずりこまれる危険性がある。

 

実際の生活だと、たとえば「あの町のあのへんは行ったらあかんよ」というエリアがあるし、そのことを肌身で感じることができる。逆に、たとえば思春期で、自分の中に闇を抱えている人は、人と接しない生活を好むようになる。そういうふうに、身体レベルでの境界線を築くことができるんです。

 

しかし、インターネットは空間的、時間的に自由だから、歯止めなく引きずりこまれてしまいます。僕も、見なくていいのに、見たら腹が立つだけのサイト、あるいはコメントを見てしまうことがあります。見てしまうと反応するし、もしかしたらついついカッとしてコメントを返してしまうかもしれません。するとその結果、炎上したりもしますよね。

 

つまり、インターネットには、本質的に人を引きずり込んで呪縛するだけの、ブラックホールのような巨大な力がある。また別の言い方をするならば、僕らはまだ、精神だけで生きていけるほど、成熟していないといってもいい。重力に支配され、不自由な身体に縛られていることによってようやく、ブラックホールにひきずりこまれずにすんでいる。そのことはよく認識しておいたほうがよいでしょう。

 

テクノロジーの進化は、人類の精神的な成熟を待ってはくれません。僕たちの人間レベルではまだまだ生きていけないような過酷な世界が、そこかしこで大きな口をぱっくりあけて待っている。そういう意味では、インターネットは「霊界の口」といっても過言ではないし、それなりの心構えで臨んでしかるべき世界だと僕は考えています。

 

心の制御を知る

 

なんだかインターネットの悪口を言っているように聞こえるかもしれませんが、これからの世の中、インターネットを使わずに生きていくことは現実的ではないでしょう。僕が言いたいことは、そういう過酷な世界で生きていくにあたっては、自分の心の傾向を知り、それに見合った生き方をしておく必要がある、ということです。

 

自分の心の性格、あるいは傾向を知らず、ふとした拍子に暗い穴に引きずり込まれ、呪縛されてしまうと、もしかすると、人生を5年も10年も無駄に過ごしてしまうことになりかねません。

 

僕らはもうすでに、現実とバーチャルリアリティの間に境界線なんて引いていません。物質世界と精神世界、フィクションとノンフィクションの間が実は地続きであることを実感として知っている。というよりも、前回も論じてきたように、そうやって身体から自由に出入りできる心のありようを求めてもいる。

 

でも、だからこそ、身体を介在しないインターネットでのコミュニケーションには注意したほうがいいと思うんです。

 

身体的な限界のない「電能霊界」であるインターネットの世界では、僕らの心は自由自在に動き回ることができます。そのとき、自分の心の傾向をちゃんと知っておかないと、彷徨ってしまって戻れなくなってしまう人が続出してしまう。

 

心のしくみ、ありようからひもといて、さらには個々人が、自分の心の傾向、癖を学ぶ。いま、僕がもっとも力を入れたいと思っているのは、そういうことなんです。

 

<連載「医療者のための心の技法」はひとまずこれで終了します。6月からは、医学書院ナーシングカフェで開催中の「名越康文連続講義」より、講義録の一部掲載をスタートします。ご期待ください>

 

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「名越康文連続講義」受講生募集中!!

第1回 6月29日 心の起源と怒りの構造

第2回 7月27日 怒りと性格(1)

第3回 2011年9月以降、日程調整中

 

 

<医療者のための心の技法 バックナンバー>

第1回 3年で辞めないために(1)

第2回 3年で辞めないために(2)

第3回 3年で辞めないために(3)

第4回 愛情欲求から自由になる(1)

第5回 愛情欲求から自由になる(2)

第6回 共感は可能か(1)

第7回 共感は可能か(2)

第8回 共感は可能か(3)

第9回 夜勤というアンチクライマックス(1)

第10回 夜勤というアンチクライマックス(2)

第11回 解離的な怒り(1)

第12回 解離的な怒り(2)

第13回 解離的な怒り(3)

第14回 閉塞感と身体論

第15回 インターネットと身体

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