【緊急報告】 国内で鳥インフルエンザ発生

【緊急報告】 国内で鳥インフルエンザ発生

2011.1.31 update.

今村顕史 イメージ

今村顕史

都立駒込病院感染症科医長・感染対策室長
著書に『JJNスペシャル82 感染症に強くなる 17日間菌トレブック』がある。


イラストレーション:櫻井輪子 http://www.wakonosu.net/

 新型インフルエンザが再流行している中、鳥インフルエンザの国内発生もニュースになってます。
「○○県の養鶏場も高病原性、防疫措置で○万羽を殺処分」
・・・これまで養鶏場で一生懸命育ててきた方々のことを思うと心が痛みます。

 

決められていることとはいえ、どうしてここまでの厳しい対応が必要なのでしょうか。
多くの人の努力を無駄にしないよう、みなさんもこの機会に鳥インフルエンザについて学びましょう。

 

鳥インフルエンザは危険?


実は、鳥インフルエンザのすべてが問題となっているわけではありません。
人と同じように、鳥もいろいろなインフルエンザにかかります。
この鳥インフルエンザの中には、弱いウイルスも強いウイルスもあります。
そして、その中でも病原性が特に強いものを“高病原性鳥インフルエンザ”と呼んでいます。
 

このタイプの鳥インフルエンザは死亡率が極めて高く、感染した多くのニワトリは死んでしまいます。
感染力も強く、あっという間に広がっていきます。
このため早急な対応をしないと、日本全体の養鶏業に大きな打撃を与えることになってしまうのです。

 

どうやって発見されるのか
 

新聞を読み返してみましょう。
まず、次々と大量のニワトリが死んでいくのが発見されます。
そこでまず最初の検査で、インフルエンザであることが報告されます。
そして、さらに詳細な検査がおこなわれ「高病原性」であったということがわかれば診断が確定します。
その後は、感染の可能性があるニワトリがすべて殺処分されることになるのです。

 imamura kin_type3.jpg

 

 鶏肉や卵は大丈夫?
 

高病原性インフルエンザが発生した地域では、念のために鶏肉や卵の出荷制限も行われます。
しかし、鶏肉や卵で感染することは基本的になく、感染したという報告もありません。
過剰な心配はパニックをひきおこすだけなので、みなさんも冷静に対応しましょう。

 

ヒトへの感染はしないのか


通常ヒトには感染しませんが、極めて密接な接触をしている場合に感染することがあります。
ヒトからヒトへの感染も非常にまれで、感染者の看病などで濃厚に接触した家族内での感染が疑われた例がわずかにあるだけです。

 

今のところは、鳥からヒトへの感染、ヒトからヒトへの感染は起こりにくいようです。しかし、ヒトに感染してしまった場合には、重症になりやすいこともわかっています。
高病原性鳥インフルエンザはすでに世界各国に広がっています。WHOから2011年1月20日にだされた報告によると、これまでに518例のヒトへの感染があり、そのうち306例(59.1%)が死亡しているのです。

 imamura_kkin.jpg

新たな新型インフルエンザが発生する危険性
 

メキシコで発生し世界に広がった新型インフルエンザは、本来ブタのインフルエンザであったものでした。そして、そのブタインフルエンザが、人にも感染できるようなタイプに変化(変異といいいます)したものだといわれています。
これと同じように、鳥インフルエンザもブタへの感染を介して、人へも感染しやすくなる可能性があります。また、濃厚接触した人への感染を繰り返していく中で、より感染しやすいようなタイプに変化する危険性もあります。

 

前回の新型インフルエンザも、ある日突然やってきました。
今、世界の養鶏場で大問題となっている鳥インフルエンザも、いつ人に感染する新型インフルエンザになるかわからないのです。
実際に、新たな新型インフルエンザとなった場合、その感染率は不明です。死亡率も、どの程度になるかわかりません。
ひょっとすると、ヒトからヒトへ感染しやすくなった時点で、死亡率は低下するのかもしれません。
それでも人類が過去に経験していない未知の感染症であることから、かなり高い死亡率となってしまう可能性もあるのです。

 

前回の新型インフルエンザで学んだこと
 

今回の新型インフルエンザでは、初期の社会的なパニックはありましたが、その後は冷静な行動をとっていたのではないでしょうか。

全国の一般診療所の協力もあり、医療の混乱も最小限に抑えられたのだと思います。
一方この経験の中で、インフルエンザが全国に広がっていく速さ、そして制圧することの難しさなどを、改めて実感しました。

交通の発達、国際化による国内外へのヒトの行き来など、今の日本で徹底的な隔離というのはできません。
さらに新たな病原性の高い新型インフルエンザが発生した時、わたしたちは今度はどのように対応していけるのか。
それが試される時は、すぐそこまで来ているのかもしれません。
 

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