3年で辞めないために(1)
人員不足、高度化する医療、モンスター化するクレーマー……。精神科医、名越康文先生が、過酷さを増す医療現場で生き残るための処方箋をお届けします。第1回は「3年で辞めないために」。どんな仕事でも職場になじむのは大変ですが、医療現場も例外ではありません。職場のカラーを見極めつつ、そこから首ひとつ出すのが生き残りの要諦です。
自分の所属する組織の「色」を見極める
学校を卒業して最初に現場に入るときというのは、言い古された表現ではありますが「期待と不安」でいっぱいですよね。現場でのリアリティショックでガツンとやられる人もいれば、最初から張り切りすぎてしまい、いわゆる5月病になってしまう人もいるでしょう。看護師さんの場合は、数か月で辞めてしまう人も多いと聞きます。そういう意味では、入職して最初の数か月をどう過ごすかというのは、その後、医療者としてやっていくための1つの大きなポイントだと思います。
現場で生き残っていくためにまず気に留めてほしいことは、「あなたの所属した集団は何色?」という問いを持つことです。
医療現場にかぎったことではありませんが、日本では、どんな集団も村社会化しやすい傾向にあります。色にたとえれば茶色とか緑とか、1つの色のなかでグラデーションを描くような集団が普通です。青の人、黄色の人、ピンクの人、白の人……と、カラフルな人たちが1つの職場に共存するなんていうことは非常に稀で、それこそ、『踊る大捜査線』みたいな映画の中だけだと思ったほうがいい。現実には職場全体が1つの空気感を共有して、1つの色に染まりやすい。
職場の中ではけっこう際立ったキャラクターに見える人も、外側からみると、実は、あるグラデーションのなかに埋没していて、さほど突出はしていないものです。そういうふうに、自分の所属している組織の色をできるだけ客観的に察知しておくこと。言葉で言うほど簡単なことではありませんが、実はすごく大切なことです。
頭ひとつ出す
病院の方針から飲み会の話題まで、その組織にまつわるあらゆる物事が、「色」を形作っています。その「色」に適応するということは、人間としても、職業人としても、すごく大切なことであるのは間違いありません。最低限、それができなければ長く仕事を続けることはできないでしょう。
ただ、そうやって職場のカラーに適応しつつも、そこから「頭一つ出しておく」という態度を、僕はお勧めしています。どれほどその職場がすばらしい雰囲気をもっていたとしても、完全にその中に浸るのはまずいんです。勉強する内容にしても、人間関係にしても、その職場内で完結するんじゃなくて、少しだけでも、外部にアンテナを伸ばしておいたほうがいいと思います。
趣味に時間をとるのもいいのですが、それが「仕事から逃避するための趣味」だと、効果が薄いように思います。それ自体が、長い時間のなかで、自分自身のコアに育っていくようなものを見つけて欲しい。そういう物を、仕事であれ、趣味であれ、人間関係であれ、職場の外側にもっている人は、長く仕事を続けられるように感じます。
一言でいえば、「所属」と「分離」です。こんなことを言うのは、やはり年功序列、終身雇用制が崩れつつあるなか、日本の組織では、同調性圧力がすごく高まっているように思うからです。「学校裏サイト」というものが社会的な問題になったこともありましたが、子ども社会から大人社会まで、どこにいっても強迫的な同調圧力が高まっています。どんなにすばらしい集団であっても、「そこだけ」に閉じこもっていると、息苦しくなります。自分が所属する集団の外側につながる回路を持っていない人にとって、これから先の時代を生き残るのは非常に苦しいのではないかと思います。
第2回につづく
<医療者のための心の技法 バックナンバー>
第1回 3年で辞めないために(1)
第2回 3年で辞めないために(2)
第3回 3年で辞めないために(3)
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執筆者プロフィール
名越康文。1960年生まれ。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院精神科主任を経て、99年、名越クリニックを開業。専門は思春期精神医学。精神科医というフィールドを越え、テレビ・雑誌・ラジオ等のメディアで活躍。著書に『心がフッと軽くなる「瞬間の心理学」』(角川SSC新書、2010)、『薄氷の踏み方』(甲野善紀氏と共著、PHP研究所、2008)などがある。
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