かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2019.11.27 update.
問題や欠点ではなく,組織やスタッフの「優れた特性,豊かさ,強み」にアプローチし,それを伸ばすことで成果を生み出すマネジメント手法―“ポジティブ・マネジメント”。この手法を導入する施設は広がってきています。このコーナーでは,書籍では語り切れなかった,さまざまな取り組みを紹介していきます。
今回は,本書のpp16-17で触れられている職場での “礼節”の実践に関連する,「HITO病院」の外国人実習生受け入れの取り組みをご紹介します。
当院は愛媛県四国中央市に位置し,今年で設立7年目の新しい病院です。
四国には「お遍路の文化」が根付いており,子どもの頃からお遍路さんの過酷さを身近で見聞きしているため,気持ちを込めて“お接待”〔お遍路さんに菓子や飲み物などを無償で施したり,励ましの言葉をかけたりすること。お接待を受けた人は,感謝の気持ちとして,納札(おさめふだ)を渡すというしきたりがある〕することを自然と学んでいきます。このような礼節の習慣は,長い時間をかけ日本の文化として醸成され,にわか勉強で身に付くものではありません。
経済連携協定(EPA)にもとづく外国人看護師・介護福祉士候補者の受け入れや外国人技能実習制度など,医療を取り巻く環境の変化は著しく,人の価値観も多様化しています。今後,日本の看護においては,外国出身の職員に対して,礼節を基盤とした支援を実践していくことがより求められるようになるでしょう。
現在,当院では,外国人技能実習制度(日本で開発され培われた技能,技術または知識などを開発途上国などへの移転をはかり,その国の経済発展を担う人を育てる「人づくり」を目的として創設された制度)の中で外国人実習生の受け入れを進めています。本年度は,当院の担当者がミャンマーに出向いて面接を行い,9月に初めてミャンマーの介護職員実習生を5名迎え入れました。
遠く離れた国から来日した実習生は,母国語が通じない環境下で日本語を用いて実習する不自由さや,気候,食事,文化などの違いの中で,人間関係を築きながら仕事を確実に覚える必要があります。
ここでは,実習生が直面する困難や不安をやわらげ,礼節を重んじた異文化の融合に向けて当院が行っている取り組みや工夫をご紹介したいと思います。
受け入れにおいては,病院(施設)側の姿勢が非常に重要で,同じ組織でともに学び合う職員を支援するという気持ちが大切となります。
そこで,日本語が不自由な実習生のために,使用するテキストや「看護補助者用マニュアル」に記載されている漢字にルビ打ちし,準備をしています。また,住む場所は病院の施設をリフォームし,生活用品などは全職員に提供を呼び掛け,揃えるようにしています。さらに,自転車で買い物に行く彼女らのためにスーパーでの買い物の際に必要な大きめのリュックも呼び掛けで集め,職員が協力し合っています。
実習の様子は,必ず病棟に出向き,声を掛けながら見守るようにしています。「大丈夫?」などと質問すると,その返答の声の大きさや表情から体調を確認することができます。また,必ず「今日はどのような仕事をしていますか?」と質問を重ねるようにしています。「掃除(環境整備)をしています」「お風呂の見学をしています」など,実習生の受け答えを通して,体調だけでなく,日本語の習得状況も把握することができます。このようなちょっとした声掛けが,今後の関係性に大きく影響すると考えています。
週末の金曜日は,当院自慢の無料バイキングで夕食をともにしています。その際,総務や人事課の職員,看護部長も参加し,より多くの人とコミュニケーションをはかれるようにしています。最近では,日本語で冗談が言えるようになり,笑いが絶えません。相手が心地よく思う時間は,私たちにとっても心地よい時間となっています。
お接待の文化に根差した人としての姿勢に加え,当院には「人のいきるを支える」というコンセプトがあります。「人」には,患者さんとご家族だけでなく,職員やその家族,さらには,今回来日されたミャンマーの実習生も含まれています。この病院コンセプトが強固な基盤となり,日々の業務の中に浸透しているからこそ,外国人実習生の受け入れを含め,さまざまな変化に柔軟に対応できているのだと思います。相互理解を深めながら,相手のことを考え,自立と協働に向け,よき伴奏者としての役割を果たすことが大切だと日々感じています。
実習生は3~5年間と期限付きの受け入れですが,彼らの成長を職員全員がこれからも温かく支援していきたいと思います。
筆者は当院に再就職して3年目となります。異文化の中で職場に適応し,自分らしく仕事ができているのは,理事長をはじめとした多くの職員が相手の立場に立った心地よい支援を実践し,異文化の融合が促進されているからだと実感しています。今後も,この組織の強みを活かし,異なる考え方をもった多職種と協働し,さまざまな課題に看護管理者としてポジティブに取り組み,成果を上げていきたいと思います。
(執筆:HITO病院 副院長 田渕典子)
1) Spence Laschinger HK, Leiter MP, et al:Building empowering work environments that foster civility and organizational trust:testing an intervention.Nurs Res 61(5):316-325,2012
2) Cameron K,Mora C,et al:Effects of positive practices on organizational effectiveness.J Appl Behav Sci 47(3):226-308,2011
3)大森ひとみ:あとがき.Forni PM・著,大森ひとみ・監修,上原裕美子・訳:礼節「再」入門―思いやりと品位を示す不変の原則25.pp216-222,ディスカバリー・トゥエンティワン,2012
HITO病院
2013年4月に開院。5疾病などの主要な疾患や,内科・外科などの主要な診療科,また救急,緩和ケアなどの診療機能ごとに多職種からなるチームを結成。看護師はその中でそれぞれの専門性を発揮し,患者中心の医療・看護を提供している。 病院名の"HITO"には「病を診るだけでなく,人を診る医療でありたい」との思いが込められており,またそれぞれのアルファベットは職員の行動規範の頭文字となっている(Humanity:患者さまを家族のように想い,温かく接します,Interaction:患者さまとの対話を尊重し,相互理解に努めます,Trust:技術と知識の研磨に努め,信頼される医療を目指します,Openness:心を開き,患者さまと公平に向き合います)。
病院ホームページ:http://hitomedical.co-site.jp/
問題や欠点ではなく,組織やスタッフの「優れた特性,豊かさ,強み」にアプローチし,それを伸ばすことで成果を生み出す“ポジティブ・マネジメント”。
いまある豊かさや強みを伸ばすことで,主体性やモチベーションを高めると同時に,スタッフ間の関係を向上させ,組織の一体化をめざす。
組織づくりを,前向きに,創造的に,そして協働的に行ううえで役立つ1冊。