鳥取大学医学部附属病院看護部の取り組み

鳥取大学医学部附属病院看護部の取り組み

2018.10.28 update.

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 問題や欠点ではなく,組織やスタッフの「優れた特性,豊かさ,強み」にアプローチし,それを伸ばすことで成果を生み出すマネジメント手法―“ポジティブ・マネジメント”。この手法を導入する施設は広がってきています。このコーナーでは,書籍では語り切れなかった,さまざまな取り組みを紹介していきます。
(文責 医学書院 看護出版部 大石橋)

以前の目標管理

 

 以前は,看護部の運営方針において,組織の上層部が戦略目標を設定し,各病棟はそれに合わせて目標・計画を立案し,スタッフはその達成に向けて行動するという,いわば一般的なトップダウン方式を採用していたそうです。この方式では,提示された目標の達成をめざして,組織全体が同じ方向を向いて行動するため,統制しやすいという面があるものの,“やらされ感”を抱くスタッフも多かったそうです。

 

主体性に重きをおくことで,数々のユニークな目標や取り組みが誕生!

 

 「スタッフは自分の興味のあることではないと能動的に取り組めない。目標は上から発信するのではなく,師長・スタッフ自らが主体的に考え,それに向かって行動する必要があるのではないか」―この考えのもと,看護部長の中村真由美氏は,平成28年度を機に,スタッフの意見を吸い上げて目標を設定するという,従来とは対照的なスタイルに切り替えました。 

 スタッフの声を丁寧に拾い上げるために,師長がアンケートや聞き取りを行ったり,『看護部長と語る会』を設けているそうです。

 

  話し合いの風景
管理者を除くスタッフと看護部長の話し合いの場。毎回,参加者がテーマを決め,そのテーマに関する思いを自由に和気あいあいと話し合っている。
 

 この“自由で闊達に話し合える組織風土”という強みを生かし,現場のスタッフの意見を聞くことで,これまでにさまざまな個別性のあるユニークな目標や取り組みが生まれてきています。

 以下では,鳥取大学医学部附属病院看護部ならではの面白い試みをご紹介します!

 

◎本家に負けていない,“神ナース総選挙”

 救急救命センターでは,「すべての人に神対応」をキャッチフレーズに,接遇向上に取り組んでいます。神対応実践チェックリスト(例:身だしなみを整える,丁寧な言葉遣いを心がける,目線を合わせて話す,など)を作成し,それに沿って自己評価を行い,また他部門・他職種による他者評価と患者・家族満足度調査も併せて実施します。そして,最も看護のおもてなしができていたと考えるスタッフに票を入れ,上位に輝いた人を表彰するという試みがなされています。「人から評価されることが,喜びやモチベーションにつがる」などの声があがっているそうです。

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ほめる・承認することの大切さやその効果については,本書の第Ⅰ章(pp15-16)で触れられています。ほめる側もほめることで救われるという知見1)もあるのです! また,よかった点に目を向けることで,チームのスタッフは前向きな気持ちになるだけでなく,そのチームに所属する誇りを感じることもでき,組織の一体感が増したり,関係が強化されたりするなどの成果が生まれると考えられています2)

◎バッチをつけた働き方改革

 

 呼吸器内科・膠原病内科の病棟では,超勤削減への意識を高めることを目的に,「かえるんバッチ」を作成。このバッチをつけたスタッフは,その日は超過勤務をせず,定時の業務終了時間に帰宅します(前もって希望日を申請)。スタッフが残務のことを気にしないで帰宅できるように補完・遅出業務を取り入れるなど,チーム全体でサポートしているそうです。

 

スタッフが定時で勤務を終えてカエルという意味が込められています。

かえるんバッチ

 

 この病棟の取り組みが,ほかの病棟にも広がっていき,こんなバッチも生まれています。

いぬる"とは,"帰る"という意味をもつ方言。

いぬるバッチ

バッチを目にすることで,超過削減への意識が高まります。

5時にサルバッチ

脳神経外科・耳鼻咽喉科ではゾウがモーチーフに!

ノー残業dayバッチ

 

 さらに,「いぬるバッチ」を作成した病棟では,この取り組みがより進化! 師長の顔をいぬ風にアレンジしたシール(かも犬シール)を作成し,基準に沿って,ノー残業に貢献したスタッフに対してシールを1枚配布。このシールが5枚たまると,「いぬるバッジ」が進呈され,さらにこのバッチを3個ためると,1日年休(戌年休)と交換できるという試みが行われています。

 通常の希望の休みとは別に年休が取得でき,スタッフのモチベーション向上にもつながっているそうです。また,「シールをもらうためには,どのような業務改善をすればよいか」と主体的に考えるスタッフが増え,楽しみながら超過勤務削減に取り組んでいるそうです。

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 バッチの取り組みのほか,業務前超勤廃止や申し送り時間短縮,タスク・シフティングなどの業務改善により,平均超過勤務時間は減少してきています。

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欠けていることではなく,組織の最高の状態やなりたい姿(この取り組みの場合,「超勤を減らし,就業後のプライベートの時間を有意義に過ごせるようにしたい!」)に目を向けるポジティブ・アプローチ法。この手法は,組織や人の理想の状態,最高な経験,大切な価値観を明らかにし,最適な成果をあげるための可能性を引き出し,めざす状態に向かって組織を持続的に発展させると考えられています3)

◎退院前・退院後訪問の推進

 患者さんに安心して退院後の生活を送ってもらえるようにするために,退院前後に看護師が自宅へ訪問し,問題点や改善点をみつけ,その情報を他職種と共有し,解決に向けたかかわりをしています。

この取り組みの必要性と重要性がスタッフ間で認識されていき,自宅・施設に訪問するスタッフは大きく増加しています。

 

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外来診察室や病棟内にポスターを掲示し,この取り組みの案内を行っている。

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 始めた当初は,「通常の業務が忙しく,時間的余裕がない」などの消極的な声も聞かれたそうです。しかし,実際に自宅への訪問を重ねていくことで,「患者さんの自宅を訪問することで,問題となっている部分がわかり,援助の道筋がみえるようになった。病棟の中で退院支援ナースをおくなど,もっと力を入れてやっていきたい」という意見も出るようになり,能動的に取り組むスタッフがどんどん増えていったそうです。

 

病院に訪問用の車を購入してもらい,看護部予算で訪問用ポロシャツを作成。

 
この取り組みは,“建設的思考に支えられながら行われていると考えられます。この思考に支えられた組織のスタッフは,事実をしっかりと把握したうえで行動し,常に自分自身を振り返りながら,心から望む行動をしたいと考えます。その結果,1人ひとりの主体性を尊重し,みんなで課題に取り組む過程で自分の成長を組織の成長に重ね合わせようとする雰囲気が生まれていきます。

◎そのほかにもさまざまな取り組みが行われています!

1 “水戸黄門体操”

 骨粗鬆症マネージャーと転倒予防指導士の専門的知識を活かし,あらゆる世代に馴染みのある「水戸黄門」の音楽に合わせた転倒予防体操を考案。「患者さんの力を引き出す」を目標に,体操教室を開催しています。車いすに乗っていても実施でき,多くの方が取り入れやすい内容となっています。

 

2 ものづくりプロジェクト

 医療現場にあったら役立つと思うものを開発・商品化。これまでに,①麻薬管理透明ファイル,②入浴用カラー,③たぐりん。,④とりりんワゴン,などのオリジナル商品が誕生!商品の詳細は,http://www2.hosp.med.tottori-u.ac.jp/departments/establishment/nursing/1801/21469.html

を参照。

 

3 精神科のおける身体抑制ゼロへの取り組み

 金沢大学附属病院の取り組みを参考にし,今年度,身体抑制ゼロを達成されたとのことです。身体抑制を迫られる状況になった際には,常時,ポケットに入れている「身体抑制の3要件を考えるカード」を見て,その必要性を冷静に考えるなどの工夫が行われています。

 

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4 多様な人事交流の推進

  6ヶ月〜1年の地域訪問看護ステーションへの出向,数日〜2ヶ月の院内人事交流を柔軟に実施することで, 新たな学びや他部署との連携が強まり,自発的な人事異動の希望も増えたとのこと。

 

5 ワールドカフェによる看護師のナラティブの共有

 

 

 看護部のさまざまな取り組みについては,鳥取大学医学部附属病院のホームページ(http://www2.hosp.med.tottori-u.ac.jp/departments/establishment/nursing)でご確認ください。

 

 ポジティブ・マネジメントを実践してみて―中村真由美看護部長の言葉

 3年前からポジティブ・マネジメントに取り組んだことで,看護師長がスタッフや他職種,患者さん・ご家族の強みに着目し,めざすべき看護に向かって,いきいきと看護管理を実践しています。
 今後も当院看護部は,1人ひとりのスタッフを大切にして,「1人ひとりが主体的に取り組み,強みを活かした組織づくり」をめざして活動していきます。

 

Key Word①―防衛的思考と建設的思考

感情が思考と行動がどのように結びつけ,それが組織全体にどのような影響を与えるかという視点から提起された,組織によくみられる2つの思考-行動パターン。それぞれの特徴は,以下のとおり。詳細については,本書の第Ⅱ章(pp57-59)を参照。

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Key Word②―ワールドカフェ

1995年にアニータ・ブラウンとデイビット・アイザックスによって定式化された対話手法。ワールドカフェの目的は,リラックスした雰囲気の中で,メンバーが自由に意見を言える場をつくり,活動や行動の可能性を広げたり,つなげたり,新たな形態を生み出したりすること。詳細については,本書の第Ⅲ章(pp100-107)を参照。

 

文献

1)Buresh B,Gordon S・著,早野真佐子・訳:沈黙から発言へ―ナースが知っていること,公衆に伝えるべきこと.日本看護協会出版会,2002,p.27

2)Vacharkulksemsuk T,Sekerka LE,Fredrikson BL:Establishing a Positive Emotional Climate to Create 21st-Century Organizational Change .Askansy NM,Wilderom CPM,Peterson MF(eds):The Handbook of Organizational Culture and Climate,2ed,SAGE Publications,2011,p.105

3)Linley AP,Harrington S,Garcea N:Finding the Positive in the World of Work.Linley AP,Harrington S(eds):The Oxford Handbook of Positive Psychology and Work,Oxford University Press,2013,pp.3-9

 

[主体性を高めチームを活性化する!]看護のためのポジティブ・マネジメント 第2版 イメージ

[主体性を高めチームを活性化する!]看護のためのポジティブ・マネジメント 第2版

問題や欠点ではなく,組織やスタッフの「優れた特性,豊かさ,強み」にアプローチし,それを伸ばすことで成果を生み出す“ポジティブ・マネジメント”。
いまある豊かさや強みを伸ばすことで,主体性やモチベーションを高めると同時に,スタッフ間の関係を向上させ,組織の一体化をめざす。
組織づくりを,前向きに,創造的に,そして協働的に行ううえで役立つ1冊。

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