かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2019.3.17 update.
問題や欠点ではなく,組織やスタッフの「優れた特性,豊かさ,強み」にアプローチし,それを伸ばすことで成果を生み出すマネジメント手法―“ポジティブ・マネジメント”。この手法を導入する施設は広がってきています。このコーナーでは,書籍では語り切れなかった,さまざまな取り組みを紹介していきます。
今回は,本書に掲載されている“ワールドカフェ”という対話手法を活用した,「旭川医科大学看護学科と病院看護部による合同FD(ファカルティ・ディベロップメント)」の取り組みを紹介します。
看護学教育FDは,平成12年度に本学看護学科と病院看護部の共催により,共に看護学生の教育にあたることを目的に,看護学教育ワークショップとして始まりました。その後,このワークショップは本学教育センターFD事業に位置付けられ,大学全体としての取り組みとなり,今日に至っています。
本FDの目的は,次世代を担う人材育成に取り組む看護学科教員と看護部看護師の教育力を高めることです。人材育成は私たちの重要な役目であると捉えているため,看護学科教員と看護部看護師が合同でFDを年に1回行い,平成12年度以降,一度も途切れることなく,毎年実施されています。対象は学生の実習教育に携わる教員と実習指導看護師で,FDワークショップは勤務時間内に行っています。また,実習を受け入れて頂いている他施設や近隣の看護基礎教育機関にも案内しています。
FDのテーマは主に臨床実習教育に関すること,内容はワークショップと講演会です。ここ数年は「看護・教育実践の意味や価値を問い直し,自己分析しながら自己の強みを発見する」「実習における指導者・教員としての倫理的感受性を高める」などをテーマに開催しています。
平成30年度は,「看護学生に示す先輩看護師としての姿」をテーマとしました。現代社会の医療の高度・複雑化,人々の多様性などに伴い,看護が担う役割・責務はますます大きくなっています。教員と実習指導看護師は良質な看護学教育を実践し,近い将来,看護師となる看護学生の学びを保証する必要があます。学生にとって先輩看護師である私たちの姿,つまり,看護観や倫理観,対象者や看護に向かう姿勢,心構えは,よくも悪くも学生に影響を及ぼす可能性が大きいです。実習指導看護師と教員という立場からテーマについて分析的に検討し,それを共有することによって教育力の向上に繋げたいと考えています。本年度は教員24名,実習指導看護師24名,学外施設の看護師1名が参加しました。
看護学科からの代表3名と看護部からの代表2名により,1~2か月に1回のペースでFD企画会議を行い,参加者にとって学びの多いFDとなるように内容を検討しています。実践にあたっては,以下の工夫をしています。
看護学教員と病院看護師は看護学生の「不十分なこと」「達成できていないこと」「問題点」に焦点を当てるのではなく,強みを発見し,なりたい自分を叶えるためのお手伝いをすることが役割と考えます。それにはまず,私たち教員と看護師が自己の強みを発見し,どういう自分でありたいかを考える必要があり,常に前向きで建設的なFDとなるようにしています。
看護学生は看護師と教員が良好な関係にあるからこそ,安心して実習に臨み,多くの学びを得ることが可能になると考えます。本学では同じ看護学教育を担う者同士として,教員と看護師が合同でFDを行うことに大きな意義があるととらえています。そして,FDで意見を交換したり,気持ちを共有したりしながら,お互いを知る機会にし,気心知れた仲間として教育に当たれるようにと考え,ワークショップは主にグループワークを中心に展開します。平成30年度はワールドカフェ方式(下記図)とし,看護師だけ,教員だけのグループでディスカッションしたり,両者を混合したグループでディスカッションしたりしました。
ワールドカフェの内容
参加者にとって「楽しいFD」となることも意識しています。そのほうが参加者にとって学習効果が上がると考えるからです。FDにユーモアを交え,参加者がリラックスして,笑ったり,盛り上がったりしながら,「次回も参加したくなるFD」を心掛けて企画・運営しています。
ワールドカフェ・ラウンド1~3における問は,「望ましい実習指導者・看護学教員とはどのような人でしょうか」です。参加者が個々に「望ましい姿」「なりたい姿」を付箋に書きました。その内容は全部で351個となり,さまざまな姿がありました。それらをまとめると,下記の図として表現することができました。
参加者は,まずは「1人の人として」「1人の看護師として」のあり様を重要視していました。そして,それらを基盤にして,人材育成に取り組む先輩看護師としての姿を捉えていました。加えて,参加者は看護学生の成長や可能性,将来を信じ,大事にすることを自身の「なりたい姿」として描きました。
参加者は他のメンバーとの対話を通じて段階的に考える過程で,学び合い,振り返りを深め,「先輩看護師としての姿」についてポジティブなビジョンを形成することができたと考えます。
ラウンド4では,他のメンバーとの対話などをとおして得られたさまざま気づきから,各グループは「先輩看護師としての姿」を粘土で作製します。そこにはさまざまな思いが込められ,ユニークな粘土像がつくられています。例えば,あるグループは「理想の実習指導者像」「理想の看護教員像」を以下のように表現しています。
理想の実習指導者像
理想の看護教員像
今回のFDは参加者が看護学生を次世代の看護を担っていく仲間として受け入れることや,学生の優れた特性,強みにアプローチすることの重要性を再確認し,成果を生み出す取り組みになったと思います。また,本FDは学外の病院や教育機関にも告知し,参加を募っています。その中で,「学外施設の看護師や教員ともっと話し合いたい」という要望もありました。本学の教育力を高めるためにも,他施設との交流について今後の検討課題にしたいと考えます。
加えて,「臨床からの意見と看護学科からの意見と,両方の立場からの見方の違いや考えなどを知るよい機会になった」「自らの実習指導者としての考えの振り返りにもなった」という感想が,FD終了後のアンケートに書かれていました。今後も教員と看護師の絆をより強固なものとし,よい教育を目指すお互いを応援し,熱意を絶やさないように,看護学科と看護部が合同で行うFDを継続していきます。
(執筆:旭川医科大学医学部看護学科 森 浩美/旭川医科大学病院 副看護部長 黒崎明子)
旭川医科大学
1973年(昭和48年)に開学。以来,「地域医療に根ざした医療,福祉の向上」を建学の理念に掲げ,広い北海道における医学研究の拠点として,積極的に活動を展開している。また,医学部医学科に加え,1996年(平成8年)に看護学科も設置され,医学・看護学研究の最先端拠点となっている。
問題や欠点ではなく,組織やスタッフの「優れた特性,豊かさ,強み」にアプローチし,それを伸ばすことで成果を生み出す“ポジティブ・マネジメント”。
いまある豊かさや強みを伸ばすことで,主体性やモチベーションを高めると同時に,スタッフ間の関係を向上させ,組織の一体化をめざす。
組織づくりを,前向きに,創造的に,そして協働的に行ううえで役立つ1冊。