高知医療センター看護局の取り組み

高知医療センター看護局の取り組み

2019.2.07 update.

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 問題や欠点ではなく,組織やスタッフの「優れた特性,豊かさ,強み」にアプローチし,それを伸ばすことで成果を生み出すマネジメント手法―“ポジティブ・マネジメント”。この手法を導入する施設は広がってきています。このコーナーでは,書籍では語り切れなかった,さまざまな取り組みを紹介していきます。
 今回は,「高知医療センター看護局」のバケツにお湯を汲んで行う全身清拭の取り組みを紹介します。

取り組みの背景

 

 高知医療センターは高度急性期・急性期病院の役割を担う県の基幹病院です。

 開院当初から,一部の部署では,バケツにお湯を汲み,そのお湯でしぼったフェイスタオルで全身清拭を行っていましたが,ほとんどの部署では,ホットキーパーにセットされたおしぼりタオルで清拭をしていました。しかし,おしぼりタオルはすぐに冷めてしまうことや,高温多湿状態で保管することによる臭いの問題もあり,患者さんから「冷たい」「臭う」との指摘を受けることもありました。

 清拭は,清潔保持だけではなく,患者さんに心地よさを提供するという面も大切にする必要があるのではないか―この考えのもと,「患者さんに清拭で心地よさと安心感を届けよう」を目標に,2015年度に全部署がバケツにお湯を汲んで行う全身清拭に切り替えました。

 以下では,取り組むうえでの工夫をご紹介します。

 

実践での工夫

 

アプローチの方法

 本書では,組織開発のアプローチ方法として,“欠乏・問題”に目を向ける手法と,“豊かさ”に焦点を当てる手法が掲載されています。

 

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“欠乏・問題”に目を向ける手法
苦情や事故などが発生した際に,問題の原因を明きらかにし,その解決策を考え,対処する手法。“足りない,欠けている”といった望ましくない状態を“なくす”ことに重きがおかれる。
“豊かさ”に焦点を当てる手法
自分たちの組織がめざす方向や大切な価値観を明らかにし,それを組織全体に浸透させながら組織を強化していく手法。今ある資源や強み,組織・人の最高な状態や目標などに目を向け,それを活用しながら,組織を発展させるという考え方にもとづく。
 

(本書pp18-20を参照)

 ポジティブ・マネジメントにおいては,この“豊かさ”に焦点を当てる手法が用いられます。

  当院も,この手法にもとづき,自分たちの組織がめざす方向や大切な価値観(「患者さんに清拭で心地よさと安心感を届けたい!」)を明らかにし,それを浸透させながら,目標に取り組むようにしました。

 

準備・片付け,感染管理

 バケツにお湯を汲んで行う全身清拭では,お湯の準備や片付けの面で手間が増えるほか,感染管理の問題もあります。そこで,試行錯誤を重ね,以下の工夫をするようにしました。

 

◎ビニール袋の活用

 感染予防の視点から,清拭用バケツにビニール袋をかけ,お湯はそこに入れています。また,清拭後に新しいビニール袋に張り替えることで,バケツを洗浄する手間を省くことができます。さらに,温度が下がって冷たくならないよう,お湯は高めで準備し,ビニール袋の口は清拭直前まで結んでおくようにしています。

 

 

◎効率性を高める

 清潔ケアの指示が一覧となっている「清潔ケアワークシート」を活用したり,朝の申し送り後のチームミーティングの際に看護補助者とケアの予定を確認し,看護師-看護補助者間の連携をはかり,より効率的に実施できるようにしています。また,適切なタイミングでシャワー浴への切り替えを行い,全身清拭が必要な患者さんのケアに看護師が入れるようにしています。

 

実践をとおして生まれたポジティブな変化・成果

 

患者さんの反応の変化

 初年度以降は,患者さんから「タオルが冷たかった」などの指摘を受けることもなくなり,「温かくて,気持ちいいね」「丁寧に拭いてもらってありがたい」「お風呂に入れないから,お湯で拭いてもらえるとさっぱりして気持ちいい」などの反応もありました。また,清拭後のお湯を使った足浴ケアの追加も,好評を得ています。

 これらは,看護師と看護補助者が,患者さんの立場から,お湯の準備や清拭を行えるようになったということでしょう。実践する側もひと手間かけてよかったと感じています。

 

看護師の変化

 看護師が今までより清潔ケアを担うようになり,「清拭時に全身状態を観察でき,アセスメントに活かせている」などの声も聞かれるようになりました。また,患者さんが希望する時間帯に実施できるようになり,ニーズに合わせた看護の提供にもつながっています。

 昨今,看護業務量の増大や経営上の課題,感染管理などの外的な要因の影響を受け,看護において伝統的に大切にしてきた「心地よさを届ける」という価値観がゆらいでいます。そのような中,清拭の取り組みをとおして,患者さんの状態をアセスメントし,調整しながら希望に沿ったケアを提供していくというあたり前のことが,普通のこととしてできるようになったと思います。

 

今後の目標

 

  救命救急センターや集中治療室も含め,全部署がバケツにお湯を汲んで行う全身清拭に切り替えてから,もうすぐ5年になります。急性期治療を受ける患者さんに,清拭による心地さから,安心感を得ていただきたいと思っています。

 私たちは「いのちに寄り添い こころをつなぐ パートナーシップ」という看護局の理念の実現をめざしています。急性期病院での限られた入院期間の中で,患者さんに安全と安心を届ける看護,こころに届く看護を提供していくことをこれからも続けていきます。

 

(執筆:高知医療センター看護局長 田鍋雅子)

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高知医療センター

 平成17年(2005)3月に,高知県立中央病院と高知市立市民病院の2つの公立病院が統合合併し,開院。5疾病(がん,脳卒中,急性心筋梗塞,糖尿病,精神疾患)・5事業(救急医療,災害時における医療,へき地の医療,周産期医療,小児医療)のすべての機能を有する病院として,県全体の高度医療,政策医療の中核を担っている。

センターホームページ:https://www2.khsc.or.jp/

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