かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2017.8.29 update.
2000年に発足し、安全安楽かつ効果的に患者がIVRを受けられるようにIVR看護のあり方を検討する場です。放射線科における看護の臨床実践能力を高めるため専門知識や技術の習得、研鑽をめざし、チーム医療における看護師の役割を追究し、また、IVR看護師の専門性を確立するため、継続して学習する場、人的交流の場を提供することを目的としています。
発足間もなくから開催している研究会(セミナー)は、3月16日に第19回を迎えました。記念すべき第20回は、2020年3月7日に開催予定です!
公式webサイト:http://www.ivr-nurse.jp/
Face book @ivrnurse2016
IVRは低侵襲の治療として発展してきた領域であり、従来では手術適応だった症例がカテーテルの手技を用いて行われるようになるなど、日々進化を続けています。
それに伴い、IVR看護師にも日々、新しい知識や情報、技術の習得が求められています。
あらためてIVR室を振り返ってみましょう
IVR室は特殊な環境、被曝、清潔操作をしている医師へのカテーテルや薬出し、造影剤準備と様々な特徴があります。そして、最大の特徴は「患者さんは意識下で治療を受けており、その時間を患者さんと共有している」ということです。
IVR室における患者さんの特徴として、IVRに対する知識不足、非日常的な空間が与える不安、検査・治療に伴う身体的苦痛、治療効果や診断結果に対する不安、見知らぬ医療者とのコミュニケーション不足、そして、狭い検査台の上で、ある一定時間同一体位を強いられます。IVR室という特殊な環境下に置かれる患者さんは普段一人で行っていることもできなくなり、全てを見知らぬ医療者に任せなくてはいけない状況です。
例えば、喉が渇いても自分で水を飲むことはできない。寒くても気軽に布団をかけられない。自分の思いを伝えられないため咳をしてもいいのかわからず、呼吸を止めている方もいたほどです。
このように意識下で治療を受けるということは、全身麻酔と違い患者さんの生理的欲求を満たしていきながら、同時に治療を成功へと導いていくことが大切になってきます。手技の進行状況を確認し、患者さんの症状を察知しながらコミュニケーションを図り、患者さんの肉体的精神的欲求を満たしていく必要があります。
そこで、IVRを受ける患者さんの欲求を察知して対応できるアセスメント能力を磨き、質の高いIVR看護を提供していくためにヘンダーソンの著書『看護の基本となるもの』を元に、IVR室における基本的欲求14項目をみていきましょう。
ヘンダーソンの基本的欲求14項目のおさらい
ヘンダーソンは看護において基本的欲求14項目(下記)の充足が重要であると述べています1)。
1. 患者の呼吸を助ける。
2. 患者の飲食を助ける。
3. 患者の排泄を助ける。
4. 歩行時および座位、臥位に際して患者が望ましい姿勢を保持するよう援助する。また患者がひとつの体位からほかの体位へと体を動かすのを助ける。
5. 患者の休息と睡眠を助ける。
6. 患者が衣類を選択し、着脱するのを助ける。
7. 患者が体温を正常範囲内に保つのを助ける。
8. 患者が体を清潔に保ち、身だしなみよく、また皮膚を保護するのを助ける。
9. 患者が環境の危険を避けるのを助ける。また感染や暴力など特定の患者がもたらすかもしれない危険からほかの者を助ける。
10. 患者が他者に意思を伝達し、自分の欲求や気持ちを表現するのを助ける。
11. 患者が自分の信仰を実践する。あるいは自分の善悪の考えに従って行動するのを助ける。
12. 患者の生産的な活動あるいは職業を助ける。
13. 患者のレクリエーション活動を助ける。
14. 患者が学習するのを助ける。
昨日の事例を思い起こしてみましょう。「IVR室に看護はあるのか」と悩んでいたA看護師。入室時に震えていた患者さんがいました。震えていた理由はわかりません。しかし、A看護師はその患者さんが震えていることに気づいていましたが、入退室の忙しさに声をかけられませんでした。検査は無事に終了しましたが、患者さんは安心して次回のPCIに臨むことができるのでしょうか?
今回、この患者さんはなぜ震えていたのでしょう? 何だかへんだーそん!?
うーん、ヘンダーソン14項目の2.4,7.10から、患者さんの震えの原因をアセスメントをしていきましょう。
2.患者の飲食を助ける
<IVRにおける飲食の援助>
IVRの開始時間や治療スケジュールにより、飲食の制限時間や程度が決定します。しかし、緊急のIVRやIVRの終了時間の延長などで前後のIVRの入室時間の変更が行われることが少なくありません。そのため、検査待機中である患者さんの飲食制限の影響により、血糖値に変動が起きていないか、脱水予防の補液は行われているのか。患者さんの現疾患および既往歴に注意が必要です。
……あれっ患者さん血糖は大丈夫かな?
4.歩行時および座位、臥位に際して患者が望ましい姿勢を保持するよう援助する。また患者がひとつの体位からほかの体位へと体を動かすのを助ける
<IVRにおける望ましい姿勢への援助>
IVR室の検査台は狭くて高く、移動するだけでも転倒・転落の危険があります。そして、マットは固く、自ら身動きがとれない環境であります。そのため、術前から全身状態や理解力などを把握し、患者にとって最適な移動・移送方法を事前に考える必要があります。
……あれっ、この患者さんは初めての検査だけど、事前に移動について伝えられていたのかな。移動の危険を感じてしまっているのかな?
7.患者が体温を正常範囲内に保つのを助ける
<IVRにおける体温管理>
IVRを行う検査室は空調を低温に設定していることが多いうえ、患者は検査着1枚で入室し、場合によっては脱衣を強いられる場合もあります。環境条件を患者自ら変えることはできず、見知らぬ医療者に託さなくてはならなりません。また、小児や高齢者、意識障害の患者さんでは、寒さや暑さを自分で認識することができない場合があるため、さらに観察が必要です。
……検査室の設定室温は低かったかな? 患者さんの体温はどうかな?
10.患者が他者に意思を伝達し、自分の欲求や気持ちを表現するのを助ける
<IVRにおける意思伝達と自己表現への援助>
患者が自由に意思を伝達しにくいIVRの環境では、IVR看護師は患者の意思を的確に把握し患者が表現できない思いを代弁できる能力が求められます。IVRを受ける患者は、身体的苦痛の他に、初対面のスタッフや治療効果や被曝などへの不安など多くの心情を抱えています。不安や恐怖心は疼痛の閾値を低下させる因子であり、必要に応じて患者に声をかけ、疼痛や苦痛を表現できる場を提供する必要があります。
……初めての検査に対する不安や思いを表現できていたかな?
今回は入室時に震えていた患者さんに焦点をあてました。
ヘンダーソンの基本的欲求の14項目からIVR看護を考えていくことで、普段、何気なく行っていた看護の根拠を考える手助けとなり、患者さんは今、何を必要としているのか。それを充足していくためには何が重要なのかと、その道標を看護理論は教えてくれました。
この患者さんは震えながらも無事に検査を終えることはできました。検査を終えることだけを考えると、震えていても何も支障はないように思えます。しかし、今回ヘンダーソンを通して、震えの中に隠れていた問題を明確にすることができ、事前に対処できるものばかりでした。次回のPCIを安心して受けることができるように、IVR看護師として取り組むべきことがA看護師は明らかになりました。このように、看護理論は自分の経験した看護を客観的に振り返る1つにもなり、自分自身が気づかないままで行っていた看護を見出すことができます。
IVRには看護がないと思っていたA看護師ですが、検査室の室温を検査準備の間だけ高めに設定することだけでも看護であることに気づく機会になったことでしょう。このささいな1つの看護行為、誰の目にも止まらないことですが、患者さんの治療を成功に導くための小さな看護の1つであることを忘れないでください。そのことを看護理論家たちは教えてくれています。これは看護なのだろうかと迷ったとき、落ち込んだときにはそっと看護理論の扉を開けてみてください。必ず、あなたの行為はすべて看護であることを教えてくれています。
最後に看護の原点であるナイチンゲールの言葉を見てみましょう。
「……その顔つきに現れるあらゆる変化を読み取れること、それこそ看護のABCなのである」2)
とありました。このナイチンゲールの言葉をお借りして、僭越ながらIVR看護の ABCDを贈ります。
A:あなたの気持ちを察します
B:敏感にこの場の空気読み取ります
C:知っている、あらゆる変化
D:ドクターの心を読み取り、先回り
(IVR看護研究会 丸山陽子)
<おわり>
[参考文献]
1)フローレンス・ナイチンゲール:薄井坦子、ほか訳:ナイチンゲール著作集第1巻. 現代社, 365,1987.
2)ヴァージニア・ヘンダーソン:湯槇ます、ほか訳:看護の基本となるもの.日本看護協会出版会,2013.