(6)ナースが見たドロシーハウス・3――地域包括的緩和ケアをつなぐ訪問看護師の視点から

(6)ナースが見たドロシーハウス・3――地域包括的緩和ケアをつなぐ訪問看護師の視点から

2015.9.10 update.

一般社団法人 東広島地区医師会地域連携室 あざれあ

訪問看護認定看護師

杉本 由起子

 

住み慣れた自宅で暮らすことができる地域づくりが急務

 

 わが国のがん患者数は年々増加傾向にあり,2人に1人ががんに罹患し,3人に1人ががんで死亡している1)。また,末期がんであるが,症状が健康なときと同様に保たれている場合では希望する療養場所としては自宅を希望する割合が高い2)との報告や,がん患者のうち6割以上の人が自宅での療養を希望し,最期まで自宅を希望する人はそのうち11%である3)との報告がある。これらの事より国民の多くは,がんになっても苦痛の緩和が図れていればできる限り住み慣れた自宅での療養を希望しているといえる。しかし自宅死亡割合は全国平均で12.6%であり,がんの在宅死亡率を見ると7.4%と低下する。これらの現状を踏まえ,がん対策推進協議会では,地域における緩和ケアの提供体制の確立が課題である3と報告している。

 こうした背景や急速な高齢化に対し国は,団塊の世代が後期高齢期を迎える2025年に向け「高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもと,可能な限り住み慣れた地域で,自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができることを目標に「地域包括ケアシステムの構築」を進めており4,できる限り住み慣れた自宅で暮らすことができる地域づくりが急務となっている。

 

英国ドロシーハウスでの学び

 

 テーマに魅かれたことや広島県緩和ケア支援センター立ち上げ時に広島県のために尽力された阿部まゆみ先生のエネルギーを吸収したいとの思いから,2013年11月「包括的緩和ケアシステムを学ぶ」をテーマとした,阿部まゆみ先生コーディネートの研修に参加した。訪問看護師として従事してきた私にとって,ドロシーハウスでの学びは大きな「看護の糧」となったので報告する。

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 ①国民は誰でもその必要に応じて適切な緩和ケアの恩恵を受ける権利を有する,②国民は誰でも自らの終末期ケアの選択を検討する権利を有する,③国民は誰もが「より良く死ぬ」権利を有する,という英国の社会保障政策における1つの理念である「緩和ケア3か条」を知ることができた。

 ドロシーハウスは,1976年から「終末期医療は病院だけでなく生活するコミュニティーでのケアが必要」との考えを基に設立されている。ドロシーハウスでは人口50万人に対し,緩和ケアの専門看護師(マクミランナース)が26人で担当している。地域には国の制度であるNHSの在宅緩和ケアチームとして,地域の医師や看護師,介護士などが存在し24時間ケアにあたっている。ドロシーハウスの専門看護師たちは,地域の訪問看護師たちのロールモデルとしてまた,福祉職の指導者として在宅緩和ケアの重要な役割を果たしている。わが国の課題である医療介護連携の課題は英国では見られなかった。

 制度の大きな違いとしては,NHSにより全ての情報が共有されていることや,生まれてから看取りまで地域のかかりつけ医による医療面のサポートを受ける事,予後2週間の終末期になれば24時間医療・福祉のサービスが利用できることなどの違いには驚いた。英国に於いては地域包括的緩和ケアとして,在宅チームと緩和ケア外来・緩和ケア病棟・デイホスピスが有機的に機能しがん患者の支援をしていた。また,死亡診断書は医師にしか作成できないが,死亡診断は医師によるトレーニングを受けた看護師ができるという日本との違いに驚いた。

 

訪問看護師が,各政策を統合する「アドバンスケアプランニング」の推進を担う

 

 ドロシーハウス研修の質疑で,「本人・家族に最後を迎える場所について聞く時期」に対し,専門看護師の回答は「本人・家族にその準備ができた時です,そして何度でも聴くのです」であった。「それは,アドバンスケアプランニングでもあるのです」という言葉が印象に残っている。

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 しかし,日本の現状はがん患者や高齢者に限らず,「アドバンスケアプランニング」という,自分の人生を考えるように,自分が受けたい医療やケアを自分で考え,家族や医師と話し合い決めるということがまだまだ浸透していない状況にある。一方,広島県では,昨年度より「広島県版ACP(アドバンスケアプランニング)私の心づもり」として,県民や医療従事者への普及啓発活動を行っている。

 これらの普及活動を含め,日々の実践活動を通して感じている地域包括的緩和ケアのありようについて若干の考察を述べたい。団塊の世代が後期高齢期を迎える対策として地域包括ケアシステムの構築が進められており,またがん対策として地域における緩和ケアの提供体制の確立が課題として挙げられて,地域支援事業では在宅・医療・介護の連携推進事業を行っている。

 このように各対策が並行しており英国の対策とは異なっているように思える。地域包括ケアシステムの土台にある「本人家族の心構え」は「アドバンスケアプランニング」に通じるところがありそれはまた「自分らしく生きる」という緩和ケアの概念であると言い換えることができる。国が目指す「地域包括ケアシステム」を概念ではなく地域で実際に進めていくためには,英国の地域包括的緩和ケアの実践を参考にすることもシステム構築への手掛かりとなりうるのではないだろうか。

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 また,在宅緩和ケア=「自分らしく生きる」ことを支える訪問看護師には,本人・家族の自己決定支援(アドバンスケアプランニング)を活動の基本とし,医療と生活の架け橋として,また地域包括的緩和ケアの担い手としてのアクションを期待する。

 

引用・参考文献

1)阿部まゆみ:地域包括的緩和ケア「英国ホスピスドロシーハウスのケアに学ぶ」.かんかん!,2015

http://igs-kankan.com/

2)厚生労働省終末期医療に関する意識調査等検討会:人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書2014年3月

3)中央社会保険医療協議会:がん対策評価・分析事業,2010.

4)厚生労働省:地域包括ケアシステム.

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/

 

【関連セミナー情報】

イギリスの地域包括緩和ケア/ドロシーハウス ホスピスのセミナーが開催されます。

http://iiet.co.jp/sys/seminar.cgi?f=10050 (←お申込み先)

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第153回国治研セミナー  【逐次通訳つき】
「地域包括緩和ケアを成功させるエッセンスを学ぶ」

わが国では2人に1人ががんに罹患し、3人に1人ががんで死亡しています。がんサバイバーが辿る病の軌跡のなかで、いかに生きるかに加え、いかに生を終えるかが課題となっています。今回、英国バース郊外で “医療・看護・介護をシームレスにつなぐ”地域包括緩和ケアを展開している実践者をお招きしました。シンポジウムでは、ホスピスと在宅ケアの架け橋“緩和デイケア”について議論します!多くの皆さまのご参加をお待ちしております。なお、1日での参加も可能になりました。

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【場所】 東京 日本教育会館(地図)
【日時】 2015年9月19日(土)20日(日)
【費用】 21,000円(2日間)
※2名以上でのお申込みはお一人20,000円
※5名以上でのお申込みはお一人19,000円
※大学生・大学院生はお一人19,000円
 (但し、当日は会場受付にて「学生証」のご提示が必要となります)

【講師】
Tricia Needham (トリシア ニードハム)先生 (ドロシーハウス ホスピス 医師)
Wayne de Leeuw (ウェイン デュ リュウ)先生 (ドロシーハウス ホスピス 看護師)

【コーディネーター】
阿部まゆみ 先生(名古屋大学大学院医学系研究科看護学専攻・がんプロフェッショナル養成基盤推進プラン特任准教授/看護師)

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