第7回 国境まで――そしてウルグアイ その3

第7回 国境まで――そしてウルグアイ その3

2015.5.01 update.

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えぼり

日常の看護のこと、学生時代の思い出、中南米のめずらしい食べ物、そして看護をめぐる世界の出来事まで、柔らかな感受性で縦横無尽に書き尽くしたブログ《漂流生活的看護記録》は圧倒的な人気を誇っていました(現在閉鎖中)。
その人気ブログを、なんと我が「かんかん!」で再開してくださるとのことッ! これはこれは大変な漂流物がやってまいりました。どうぞ皆様もお楽しみに!

 

 

いつまでウルグアイにいるの? とワインバー「Museo del Vino」のミゲルが聞くので、今月末まではいるよ、と答えた。

 

「ずいぶん長いね、その間ずっとモンテビデオ?」

「明後日からパイサンドゥに行って、そこからサルトに行ってみる。チュイにも行ってみたいなと思うんだけど」

「全部国境の町じゃないか」

「ほら、わたしたち島国の人間なんで、国境ってあまり縁がないから」

「まあ行ってみたいのはわからなくもないけど。バスのチケットは取った? ホテルは予約してるの?」

「何もしてない。でもなんとか…」

「…ならない。あのね、今はカルナバル休暇の時期で、学校は夏休み(ウルグアイの新学年は3月1日から始まる)でね、みんな旅行に出たり実家に帰ったり、そしてホテルだってこんな小さな国の田舎の町にはそんなにないんだから。泊まれなかったらどうするの? バスターミナルで夜明かし? 10代や20代のバックパッカーならともかく、そんな旅ができる年齢じゃないでしょう?」

 

アホの子に噛んで含めるようにそう説明してくれて、調べてくれました。

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「パイサンドゥへのバスはこの会社とこの会社が出してて、時間はこっち。ホテルはバスターミナルから4ブロック真っ直ぐ行ったところにあるここが空いてるらしいから予約入れて。あとサルトへ行くのはこっち。電話だと面倒だから、これ持って今からトレスクルセス(モンテビデオのバスターミナル)に行ってカウンターで直接チケット取ってきなさい。7月18日通りに出て『CA1』と書いてあるコレクティーボ(路線バス)に乗ったら行けるから」

 

予定を細かく書いたメモを、これまたアホの子のおつかいのように握らせてくれて。わたしも「うんっ!」と素直に予約しにバスターミナルに行ってしまったんですが。

 

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トレスクルセスのバス乗り場、ここから国内各地や近隣国まで行く長距離バスが出ている。

 

 

horse何もない……誰もいない……

 

 

なにぶんにも小さな国で、地形も平坦(いちばん標高の高い山が500m程度)で道がいいので、国内移動はもっぱらバスで事足りる。モンテビデオ市街をあっという間に抜けると、あとはずっと田園風景というか、びっくりするぐらいに何もない風景が広がっている。視界の端から端まで牧草地で、たまに動くものがいるかと思うと牛、もしくは馬、たまに羊、そしてもっとたまに民家があり人間がいるらしいという雰囲気だけ感じる。

 

さすが人口密度が19人/㎢の国である。対向車すら滅多にこない。退屈な、という言葉すら出てこないほどに何もない風景の中を走ること5時間、なんとなく民家が増えてきたなと思っていたら、そこがパイサンドゥだった。そしてパイサンドゥのバスターミナルに降り立ってみると、

 

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ミゲルがあれほど心配してくれたにもかかわらず、見ての通りの静かな夏の夕暮れである。いやそもそもここに来るまでのバス自体、ガラ空きだったではないか。もしかするとウルグアージョはここに来るまでの風景のような環境が当たり前なので、人混み耐性が極端に低くて、ちょっとでも人がいたらもういっぱいだと認識してしまうのではあるまいか。

 

 

horse中学生は世界共通?

 

 

そんなことを考えていると、中学生ぐらいの女の子たちにいきなり英語で声をかけられた。大丈夫よースペイン語話せるよー、と答えると「きゃああああああああ!ステキーーーー!!」と大騒ぎである。単にテレビでしか見たことのないアジア系の外国人が間近にいたので、つい好奇心に負けて声をかけてしまったらわかる言葉で返事をされたので彼女たちも大層驚いたらしいのだが、驚いたのはこちらも同じである。

 

「日本から来たの? どれぐらい時間がかかったの?」

「ブエノスアイレスまで24時間以上かかったよ、そこからモンテビデオまでさらに1時間」

「どうしてパイサンドゥに?」

「どうしてかなー、来てみたかったのよ。ところでいつもこんなに静かなの?」

「いつもこうよ。でも毎年3月末にはSemana de cerveza(ビール週間)があって1週間お祭りがあるのよ。そのときは人がいっぱい来て賑やかなんだけど」

 

まさか中学生に教えられるとは思わなかったが、パイサンドゥには大きなビール醸造所があり、そこで毎年ビール飲み放題のイベントをやっているのだという。大幅に外して非常に悔しいの巻。

 

そしてここまで来たのだから、国境の川まで歩いてみることにした。

 

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ここがブラジル通り、この突き当りにあるウルグアイ川をはさんで対岸がアルゼンチン。

 

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ここが国境、ただの川だった。

 

 

horseラテンはどっち!

 

 

モンテビデオに戻り、ミゲルの店に行き「パイサンドゥとサルトに行ってきた」と報告した。「何かあった?」と聞くので、いや、何もなかったよ、川があって人が少なくて、と言うと「そりゃそうだろう、国境に線が引かれてるわけじゃない。人間が勝手に『線はある』思ってるだけなんだから」と言って笑っていた。

 

そして「チュイ(ウルグアイとブラジル国境の町)にも行きたいと言ってたね? あそこはもっとボーダーレスだよ」と言う。

 

町の中央を貫く道を挟んでブラジルとウルグアイに分かれていて、勝手に行き来ができるのだという。日本人がブラジル入国するにはビザ取得が必要なのだが、それもいらない。言語も通貨もどちらでも使えるし、そのエリアはタックスヘイブンになっていて、高級品を扱う免税店が並んでおり、ブラジルとウルグアイ両国だけでなく、わざわざアルゼンチンからも買い物に来る人が多い。

 

「うわあそれ知らなかった、帰国するまでに行く」

 

と言うと、ミゲルに

 

「ちゃんと計画立てて行くんだよ、エボリはいつも行き当たりばったりで何かしようとする、チケットの手配は……」

 

とまた細かくいろいろ言われそうになったので、あわてて退散した。これじゃどっちがラテン系なのかわかりゃしない。

(えぼり「漂流生活的看護記録」第7回了)

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