坂口恭平×末井昭×向谷地宣明トークイベント「スプリング・躁鬱・スーサイド!」レポ

坂口恭平×末井昭×向谷地宣明トークイベント「スプリング・躁鬱・スーサイド!」レポ

2014.4.22 update.

 2014年4月12日、アップリンク(東京都渋谷区)にて、『坂口恭平 躁鬱日記』(医学書院)著者の坂口恭平さん、『自殺』(朝日出版社)著者の末井昭さん、「べてるの家」の向谷地宣明さんによるトークイベントが開催された。その名も「スプリング・躁鬱・スーサイド!」。東京では桜もすっかり散る季節、「自殺」をテーマに繰り広げられた3人のトークに、満員の会場が湧きたった。

 

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◆『自殺』を読んで何を思うか?
 
 白夜書房で幾多の名雑誌、書籍を生み出してきた編集者の末井さんが、東日本大震災の後に「何か人の心に届くことがしたい」と感じ、編集者鈴木さんの依頼をもとに書き始めた『自殺』。母親のダイナマイト心中、自身の波乱の半生、そして自殺者に抱く想いを軽妙に綴った1冊である。
 お薬アラーム(このアラームに合わせて坂口さんはデパケンを飲む)が鳴り響く中始まったトークイベント。坂口さんは「いのちの電話」もとい「くさもちの電話」で自殺志願者たちからの電話相談を受け続けていた。向谷地さんは精神疾患を持つ人々と日々共に過ごしてきた。2人は『自殺』を読んで何を思ったのだろうか。

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 「『自殺するな』と訴えかける本は数多くあれど、『自殺』の興味深いところは、何のメッセージも発してないところ」と坂口さん。それは「世界一の妻」フーさんと共通していると言う。フーさんは「死にたい」と言う鬱の坂口さんに対して「死ぬな」とは言わず、「あなたが死んだら悲しいような気がする」と言うのみである。坂口さんが鬱のとき、フーさんは「ほうじ茶タイム」を設ける。家族でほうじ茶を飲む、少しだけ落ち着いた時間の中には、メッセージはないが対話がある。

 また、向谷地さんは「自殺、精神疾患など、社会で見て見ないふりをしているものについて、もっとオープンに語っていいんじゃないか?」と感じたと言う。「自殺」と大きく書かれたムンクの表紙を丸出しにして、笑いながら読んでいたら怪しまれてしまったという向谷地さんに対して、「ぜひ笑っていただきたい」と末井さん。一方的なメッセージを送るのではなく、自殺について語る場の提供ができれば嬉しいとのこと。ピリピリした世の中、深刻な内容を笑いながら語れることに大きな意味があるのかもしれない。

 
◆躁も鬱も脳の誤作動!
 
 坂口さん曰く、操・鬱の時は感情記憶も飛んでしまうし、世界の色も変わって見えてしまう。「自分だけを疑う」ことを肝に銘じながら過ごすという。
 「鬱は脳の誤作動なので、そこで言ってることは嘘である。操もまた同じ」。これは坂口家の家訓である。「自殺願望を持つ人を減らすことは出来ないが、最後の一押しは誤作動。誤作動に気づかせることで自殺は止められる」と坂口さん。

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 末井さんは約10年前、人間関係、ギャンブルなど、何もかもがうまくいかずとても鬱々としていた。その時期に記していた日記が「躁鬱日記の鬱記に似てる」とのこと。経済状況、人間関係など原因はいろいろあっても、鬱々とした気持ちは人間の脳の誤作動であり、生物学的な現象であることを示しているのかもしれない。

 「精神疾患は五感の変調で、誤作動だらけ。死にたいというのも誤作動で、空腹なだけでも『空腹誤作動』を起こして自殺を企図することがある」と向谷地さん。この誤作動にいかに気づき、その原因を解決するかがポイントである。向谷地さんからは「当事者の経験を活かしながら各地域で誤作動チェック機能を働かせよう」とのアドバイス。ここでも「問題をオープンにした対話」の必要性が示唆された。
 
◆関わりを持つことへの躊躇のなさ

 

 自殺志願者たちからの1度に100件を超す留守番電話に1件1件対応していた坂口さんは、「話を聴いてくれる人がいれば自殺は止められる。人を助けるつもりの作業ではなかったけど、躊躇はなかった」と言う。

 また、「無一文の人に弱い」末井さんは、15年間毎週、あるホームレスの方にお金を振り込んでいた。「困っている人が目の前に現れた時に後に引けないだけ」と言うは易しだが、やはり普通は躊躇してしまう。見知らぬ自殺志願者たちからの電話に対応し続け、福島にも送金を行っていた坂口さんと、末井さんの共通点は、その躊躇のなさにあるのかもしれない。日本では年間3万人の自殺者がいるが、その死に触れることは滅多にない。「コンクリートの向こうで死なれるより、目の前で死なれた方がいい。僕の仕事は人と関わろうとすること」と言う坂口さんのように、問題を抱えた人のSOSに気づいた時に、躊躇なく関わることができる人が増えれば、自殺しなくてすむ人も増えるのではないか。

 トークは多岐に及び、他にも坂口さんからは「共感が不可能なことから生まれる価値がある」「やりたいことがやれないときは自分にしかできないことしろ」「現実さんが一番信用ならない」、末井さんからは「自殺する人は命がけ」「お金のことで死ぬな!逃げろ!」などのキーワードが出た。

 

◆「どうせ明日は笑えないから今を生きよう」

 

 末井さんの「坂口さんと初めてお会いして、凄いテンション高かったらどうしようって思ってたけど楽しかった!」という発言で締まった第一部。
 第二部は、坂口さんのアコースティックライブと、末井さんがサックスを務める“おやぢバンド”ペーソスのライブの二本立て。
坂口さんはギター&歌で「魔子よ魔子」「TRAIN-TRAIN」など4曲を披露した後、石川啄木の「飛行機」に曲を付け、ピアノで弾き語り。
 続くペーソスのライブは「ひとつ人より背が低い……ふたつ不整脈」で始まる「疲れる数え歌」を皮切りに、ユーモラスながら哀愁漂う5曲を披露。トークイベントの終わりを締めくくった「今を生きよう」(究極の刹那主義の歌!)では、「どうせ明日は笑えないから今を生きよう」の歌詞に、ふと、この決して生きやすくはない世の中での生き延び方を考えさせられた。
IMG_2533.JPG 「躁鬱」「自殺」、どちらも、この世界に存在する厳然たる事実である。しかし、日常生活ではなかなか「さぁ自分の鬱の話をしよう」「自殺の話をしよう」とはならない。「対話によって誤作動をチェックすることで自殺は止められる」ことが今回のトークイベントで挙げられたが、対話が生まれるためには最初の一言が発生する必要がある。その一言が難しい。『坂口恭平躁鬱日記』『自殺』は、その一言を掬い上げ、語り出すことができる場を作る2冊である。まだ未読の方はぜひご一読いただきたい。
 「自殺」という重いテーマだったが、3人のテンポのよい掛け合いに会場からは終始笑いが絶えなかった。このような素敵な場を提供してくださったアップリンクさん、そして場を盛り上げてくださった観客の皆さん、本当にありがとうございました!
 
このトークイベントの模様は、後日SYNODOS(http://synodos.jp/)さんで詳しく紹介されます。楽しみにお待ちください。
 
(医学書院看護出版部・笹山)

坂口恭平 躁鬱日記 イメージ

坂口恭平 躁鬱日記

僕は治ることを諦めて、「坂口恭平」を操縦することにした。家族とともに。
ベストセラー『独立国家のつくりかた』などで注目を浴びる坂口恭平。しかしそのきらびやかな才能の奔出は、「躁のなせる業」でもある。鬱期には強固な自殺願望に苛まれ外出もおぼつかない。試行錯誤の末、彼は「意のままにならない《坂口恭平》をみんなで操縦する」という方針に転換した。その成果やいかに!

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