かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2014.4.29 update.
埼玉医科大学 保健医療学部
次に「保護者制度の廃止」では、現状に合わせ、まずは保護者に課せられていたさまざまな責務を削除し、民法上の保護者に戻したということだと思います。そしてそれを受け「医療保護入院見直し」では、一般の医療において、同意能力のない者の代諾の役割は家族が担っていることから、その扱いと同様となったと解釈できます。そしてさらに、精神科病院の管理者に、①医療保護入院者の退院後の生活環境に関する相談及び指導を行う者の設置、②地域援助事業者との連携、③退院促進のための体制整備、を義務付けることになり、入院しやすくなると同時に、早期の退院を強化する内容を盛り込み、その活動を診療報酬で保障しています。
さて、これらを関連付けてみると、今まで同様に地域中心の医療へ、そして精神医療を一般の医療同様の扱いとすることに向けての現実を踏まえての着実な一歩という方向性はみえてくると思います。しかし、さらに大きな流れのなかで起きていることを捉えなければ、本質を見失うのではないかと私は考えています。
大きな流れとは、政府は国連の「障害者の権利に関する条約」(略称:障害者権利条約)の締結に必要な障害者にかかわる国内法の整備をはじめとする制度の集中的な改革を行い、障害者施策の推進を図ってきたことです。ここ数年で表1にあるような法律が成立しています。そして平成26年1月20日、国連の「障害者の権利に関する条約」の批准書の寄託(我が国としての最終的な了承)にいたっています。
表1
成立 | 施行 | 法律 |
H23年6月 | H24年10月 |
障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律 |
H23年6月 | H23年8月 |
障害者基本法の一部を改正する法律 |
H24年6月 | H25年4月 |
障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律 (障害者総合支援法) |
H24年6月 | H25年4月 |
国等による障害者就労施設等からの物品等の調達の推進等に関する法律 (障害者優先調達推進法) |
H25年6月 | H26年4月 |
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律 (改正精神保健福祉法) |
H25年6月 | H28年4月 |
障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律案 (改正障害者雇用促進法) |
H25年6月 | H28年4月 |
障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律 (障害者差別解消法) |
そのなかで、重要だと私が考えたのは障害者制度改革の基礎的な課題における「地域生活の実現とインクルーシブな社会の構築」という改革の方向性であり、そのために障害者の「保護の客体から権利の主体への転換」そして、障害の「医学モデルから社会モデルへの転換」が必要であると言われている点です。
「地域生活の実現とインクルーシブな社会の構築」とは、「障害者があらゆる分野において社会から分け隔てられることなく、日常生活や社会生活を営めるよう留意しつつ、障害者が自ら選択する地域への移行支援や移行後の生活支援の充実を図る。かつ平等な社会参加を柱に据えた施策を展開するとともに、そのために必要な財源を確保し、財政上の措置を講ずるよう努める。また、障害者に対する虐待のない社会づくりを目指す。」というものです。
また、障害の「医学モデルから社会モデルへの転換」という点では、表2の「障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)」に示されていた定義を挙げておこうと思います。
表2
つまり、国による障害者との共生社会に向けた基盤整備がなされ、それに合わせた改革が、今回の法と診療報酬の改定で重なりを見せ始めたということだと思います。どの程度の重なりとするかは、考え方によって差があるでしょうし、また厚労省もそこまでははっきりとまだ打ち出してきてはいませんが、私たち精神医療に携わる者としては認識しておかなければならない点だと思います。
精神保健医療福祉の分野では、国は「精神保健医療福祉の改革ビジョン」、「精神保健医療福祉の更なる改革に向けて」を示し、それらの問題認識を踏まえ、精神保健医療福祉体系の再編という課題に対し、①精神疾患に関する理解の深化、②精神保健医療体系の再編、③地域生活支援体制の強化という3点から、改革を進めています。「入院中心から地域生活中心の生活へ」そして「課題の解決を入院という形に頼らない」という精神保健医療福祉のあり方を「社会モデルに立脚した医療やリハビリテーションの実践」として、実効性のあるものとして推し進めようとしていると考えることができます。
保護者制度の廃止は、精神保健福祉法における保護者の責任や強制力と言う範疇から、一般に身体の診療科へ入院するときの保護者の同意と同じように、民法上の保護者の範疇へ単に移行したということ以上に、共生社会へ向けて基準を民法へ統一したということがいえるのではないでしょうか。
つづく(2/3)