第3回 地域へ確実にシフトしようとしている(全3回)

第3回 地域へ確実にシフトしようとしている(全3回)

2014.4.29 update.

辻脇邦彦

埼玉医科大学 保健医療学部

前回

 

精神保健医療福祉の制度改革全体の流れから見ると遅々としたものではあるものの、仕組みは確実に地域へとシフトしようとしています。要はその中で人的にも財政的にも何を実質的になしえるかということだと思います。その時私たちが考えなければならないのは、どんなことでしょうか。

 

例えば今回の改訂の説明会では、「自傷他害はないが、入院の必要性があると判断された患者が、説得しても入院に応じず、家族も入院を拒否したり、回答を拒否した場合は、入院が成立しないということになる。特に、診察時に、その家族に何らかの精神的な、または認知機能的な問題があるのではないかと予測されるが確定はできない状況であっては、今までのように市区町村長同意を取っての入院ができないということになる」との意見が出されていました。

 

今までの入院中心の医療の考えでは、このような状況での入院を医療者が良かれとして行っていた現状があります。しかし、入院という形態に頼らない医療、地域中心の医療という考えの下では、いかにそのような当事者を地域で支えることができるのかを精神医療へ投げかけられていると言えます。今回の改正と改訂を、障害者にかかわる一連の制度改革という根本から考えてみると、患者の治療を受けない権利(その決断が障害によったとしても)と適切な治療を受ける権利(強制的な医療)のバランスをどのように考えればよいのでしょう。また家族に何らかの障害があるとしても、社会的に独立して生活している家族の意見を排してまで入院させることが、障害者の権利を守ることに本当になるのでしょうか。良かれと思って行なわれる強制的な医療が障害者の虐待にはならないのでしょうか。それ以前に最も重要なことは、入院という形態に頼らない医療の提供について、「合理的配慮」がどの程度なされたのかが問われることになるだろうということです。

 

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入院という形態に頼らずに地域でどのように支えるのかということについて、どれだけ当事者と話し合われ、医療者として手が尽くされたかが今後問題となるでしょう。国及び地方公共団体にも当然その責務があることになります。

 

さて、精神科病院では平均在院日数が短くなり、在院患者数も減少し、日本の精神科医療は、その軸足を入院治療から地域へ順調に移しつつあるかのように見えますが、まだまだその変化は遅々としたものです。入院中心医療からの脱却がまだ十分になされていませんし、退院後の生活を支援するさまざまなサービスとの連携も不十分です。しかし、着実に進んでいるのもまた事実です。今回の法改正と診療報酬改訂は、退院支援相談員や退院後生活環境相談員を定め、医療保護入院者退院支援委員会を開催し、そこに当事者と家族のみならず地域援助事業者等も参加するというシステムを作ることを盛り込みました。それによって入院時早期からの介入を強化し、入院という形態に頼らずに「地域で生活する」ことを前提とした支援体系、つまりアウトリーチ支援の構築を目指しています。

 

そして、その根底には、障害の社会モデルによる共生社会の構築が見据えられていると感じます。精神障害者が「保護の客体から権利の主体への転換」するとはどのようなことなのか。障害の「医学モデルから社会モデルへの転換」が精神医療における「社会モデルに立脚した医療やリハビリテーションの実践」にもたらすものは何なのか、またどうあるべきなのか。そして精神障害者との共生社会をどのように精神医療者は構築しようとするのか。今回の改訂では、そういった考え方の変化を、私たち精神科医療者が受けとめ、実践できるかどうかが問われているのだと思います。

 

現場では、診療報酬を獲得するために体制を整え、いかに回すかということに目が向きがちだとは思うのですが、こうした社会全体の流れを見すえながら、根本的な精神医療のあるべき姿を模索する時間を持ちたいものです。
 

(終了)

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