第8回 学び合いの場を創る 〜みずからの「気づき」が生まれる場〜

第8回 学び合いの場を創る 〜みずからの「気づき」が生まれる場〜

2013.9.11 update.

浦山絵里(ナースファシリテーター/ひとづくり工房esuco主宰) イメージ

浦山絵里(ナースファシリテーター/ひとづくり工房esuco主宰)

杏林大学医学部付属病院に長年勤務し、その後、公立病院勤務を経て2007年にひとづくり工房esucoとして起業。現在、ナースファシリテーターとして看護協会、病院での研修セミナー講師、看護部門の業務改善プロジェクトや人材育成についてコンサルティングを実施。生き生きと看護師が語る「語り場づくりファシリテーター」として、看護師への支援活動を行っている。

うらりんより「esuco(ゑすこ)とは,ふるさと出雲弁で「いい感じ」という意味です。医療にかかわる一人ひとりの方が,活き活きワクワク仕事を続けられるような支援をイメージして名づけました」

前回

 

◎「参加」の仕組みを使った学び合いとファシリテーション

 前回は,「ファシリテーションが創り出すもの」,そして「ファシリテーションによって生まれてくる」ファシリタティブな風土についてお伝えしました。
 ファシリテーションはコミュニケーションの一つなのですが,参加者それぞれが自分の立場でファシリテーションを使うとより参加感が増してきます。
 “司会進行役”と訳されている役割ではありますが,ファシリテーターは前に立って進行することでしかできないわけではなく,それぞれの個性や役割を活かしてファシリタティブにかかわることで,全員が場づくりに参加できる自律的なチームづくりも実現できるというわけなのです。
今回は,そんな「参加」の仕組みを使った学び合いとファシリテーションをテーマにお伝えします。

 

◎“学び方”の種類

 みなさんは今までどのような学び方をしてきましたか? どんな学習の情景が思い出されますか?
 小学生の頃,中高生の頃,高校生の頃,受験のための学び,お稽古ごと,何かを知りたいと思って調べたこと……などなど。
いかがでしょうか?

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 私たちは幼い頃から多くの学びを積み重ねてきています。看護職は国家資格取得後も院内の教育プログラムの充実した施設を選んで就職し,その後も“学び好き”ともいわれ,仕事を始めてからも何か学び続けている人たちが多いです。そういう意味では,皆さんは学習体験においては真のプロですね。

 

◎学びには3つの方法がある

・「できる」「わかる」――自分ひとりで習得できる学び方

 ここで図をみていただきたいのですが,学びには3つの方法があることをご存知でしょうか? 皆さんご自身の体験と重ね合わせて考えてみてください。
 まず,「できる」と「わかる」という学び方は,子どもの頃から慣れ親しんだ学び方だと思います。私たちは小学生の頃かけ算を覚え,今でも「さんぱ」といわれると,考えるつもりもないのに反射的に「24」と答えてしまう。このように,繰り返すことで身体が(頭が?)覚え込んでいく,という学び方です。
漢字を何度も書き綴ったり,学生時代には基礎看護技術や救急蘇生法の技術などを,繰り返し練習することで「ここぞ!」と言うときには,無理に考えなくてもできる技を身につけてこられたのだと思います。それがまさに「できる」ようになるための学習法です。
 そして「それがなぜそうなるのか」,その理由を学んでいくのが「わかる」という学び方です。
例えば小学生に3×8の答えが24だと伝えられるだけではなく,それがなぜ24になるのかといったことを皆さんは教えることができます。これは今でも私たちが日常的に使っている「エビデンス(証拠,根拠)」という言葉で表されています。そのエビデンスがしっかりと「わかる」という学びです。
 この二つの学び方の特徴のひとつが,一人でもできる学習法だということです。本を読んだり,何度も練習を重ねたりして,自分一人でも習得することが可能な学び方です。

 

・「学び合う」――他者との交わりで得られる新たな気づき
 最後の「学び合う」という学び方。これがいわゆるグループ学習と言われるものです。私たちの領域で言えば,臨床実習やカンファレンス,事例検討会といったものも,その枠に入ります。
多様な仲間が集まって,互いの経験や思いなどをシェアする場をもち,話すことで分かる自分の気づき,聴き合うことで起こる気づき,そして多様な価値観の中で話すことで生まれる新しいグループにおける気づきといったことが,この学び方で得られる大きな成果になります。
この学び方,学びの場においては,いつも新しい何かが生まれるということではありません。たとえば「何かおかしい」「違和感がある」ということが,シェアされるだけでも十分な学びなのです。答えはひとつしかないのではなく,たくさんの答えが存在していることがわかるということなのです。
 この学び方の大きな特徴は,一人ではできないと言うことです。それは,2人以上の複数の仲間がいて初めて,成立する学び方だからです。相互作用で学び合っていくことがこの学び方の特徴です。

 

・たくさんの正解を生み,個々の体験が大切にされる場に欠かせないスキル「ファシリテーション」
 この3つの学び方の,どれがいいとか悪いとかいうものではありません。
ただ3番目に紹介した「学び合う」という学び方では,体験や思いを持ち合うことで知恵を生むプロセスにもなりうる,これが大きな特徴になります。そうした学習の場ではたくさんの正解が生まれ,そして個々の体験が大切に扱われることでしょう。
 ファシリテーションとは.このような学びの場において必要とされるコミュニケーションスキルで,「参加」の場をつくる要素になります。
 次回は「参加」が何を生むのか,そしてナースファシリテーターの私が,なぜいま,参加の場を創ろうと皆さんに呼びかけているのかについてお伝えします。

ではでは,またね!

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