3-1 「好奇心」と「人生ドリル」ー『毎日がアルツハイマー』を観て

3-1 「好奇心」と「人生ドリル」ー『毎日がアルツハイマー』を観て

2013.5.08 update.

なんと! 雑誌での連載をウェブでも読める!

『訪問看護と介護』2013年2月号から、作家の田口ランディさんの連載「地域のなかの看取り図」が始まりました。父母・義父母の死に、それぞれ「病院」「ホスピス」「在宅」で立ち合い看取ってきた田口さんは今、「老い」について、「死」について、そして「看取り」について何を感じているのか? 本誌掲載に1か月遅れて、かんかん!にも特別分載します。毎月第1-3水曜日にUP予定。いちはやく全部読みたい方はゼヒに本誌で!

→田口ランディさんについてはコチラ
→イラストレーターは安藤みちこさんブログも

→『訪問看護と看護』関連記事
懸賞論文募集中!(テーマ:胃ろうをつけた“あの人”のこと。賞金10万円)
【対談】「病院の世紀」から「地域包括ケア」の時代へ(猪飼周平さん×太田秀樹さん)を無料で特別公開中!

最近、『毎日がアルツハイマー』という映画(配給:シグロ社、全国各地で劇場および自主上映中)を観て、関口祐加監督(編集室註:本誌本年1号巻頭参照)の大ファンになりました。YouTubeにアップされているインターネット版の映像も毎日チェックしつつ、関口監督とお母さんのアルツハイマーな日々に癒されています。
 関口監督はオーストラリアに長年住んでいたのですが、お母さんが認知症になったのをきっかけに、日本に戻って来ます。そして、お母さんと娘のドタバタな日々が始まりました。監督のおおらかな人柄が全編に満ちあふれていて、こんなに生活を楽しめる家族って素晴らしいなあ、と思う映画です。
 前回ご紹介した『ペコロスの母に会いに行く』(西日本新聞社)の岡野雄一さんもそうでしたが、関口監督も常にビデオカメラを通してお母さんの行動を観察し、おもしろがっているのです。日々がネタ探し。そうなると、介護生活もまったく違うものになってきます。
 私がアルコール依存症の父親と一緒に暮らして、毎日、書くネタを探していたのと同じことを、2人ともしているのです。それは、表現する人間の強さであると同時に、貪欲さだと思います。お2人を勝手に私と一緒に語ってしまって申し訳ないのですが、私たちに共通しているのは「好奇心」です。
 人間は、この世で最も好奇心の強い動物です。何にでも興味をもってしまいます。好奇心を失ってしまったら、創作活動などできません。どんな仕事にも好奇心が必要です。介護にも看護にも、好奇心が必要です。好奇心は、人間から消えることはありません。
 ただ「好奇心を発動させるスイッチ」を押せなくなってしまうことがあります。そうなると、途端に何もかもが色あせて、つまらなくなってしまい、口を開けば愚痴しか出ないようになります。いかに好奇心をもって生きるか、が在宅介護・看護の質を変えてしまうと思います。

 

 

「心配症」でなくすには

 

 「好奇心」と言えば……、おもしろいことがありました。
 私の義母は、とても「心配性」だったんです。私たちと同居する前、義母は岡山に住んでいました。あるとき、私たち家族が一泊二日の家族旅行で留守にした間、義母が岡山から電話をかけてきたのです。いっこうに電話のつながらない息子夫婦のことが、義母は急に心配になったらしく、一晩中、電話をかけ続け、ついに翌朝、警察に通報してしまいました。私たちが帰宅すると、家の前にお巡りさんがいるのでビックリ。
 同居してからも、義母の心配性には驚かされました。あるとき、小学生だった娘が学校から帰って、ランドセルを玄関に置いたまま遊びに行ってしまったのです。義母は玄関に置かれたランドセルを見たとたん、娘がさらわれたんじゃないか……という不安に取り憑かれてしまい、ご近所に駆け込んで娘を捜索してくれと頼んだのです。友だちと遊んでいた娘は、そんな大事になっているとは露知らず戻って来て、家の前にたむろしているご近所の人たちに一斉に「よかった!」と抱きつかれ、あっけにとられたそうです。
 そういう義母の心配性を、私は、行きつけの気功の先生に相談しました。すると、先生はこう言うのです。
 「心配性でけっこう。心配性の人は好奇心が旺盛なんです」
 「え? 好奇心?」
 「好奇心があるから、心配するんですよ。ですから、それはいいことなんです」
 そ、そうなのかな……? 半信半疑で帰って来ました。
 それから義母が何かを心配し始めると「好奇心が旺盛なんだな」と思ってみることにしました。それが正しいか悪いかではなく、そういう考え方をしてみたらどうなるだろうか、という興味をもったのです。私も好奇心が旺盛ですからね。
 「また、おばあちゃんが心配しているよ」娘がと言うので、
 「それは好奇心が旺盛だからよ」と答えました。「えー? なんで?」と首をひねっていましたが、わが家ではだんだんそういうことになっていきました。
 夫も洗脳しました。
 「おばあちゃんの心配性は困ったものだな」
 「それは、好奇心が旺盛だからよ」
 「はあ?」
 そしてついには、おばあちゃんが「あれは、大丈夫なんだろうか……」と心配していると、「おばあちゃんは好奇心が旺盛だから」とみんなが言うようになりました。
 おばあちゃんも最初は「???」という感じだったのですが、「本当におばあちゃんは好奇心が旺盛だねえ」と言われ続けるとだんだんその気になってきて、しかも話に尾ひれがついていき、「好奇心が旺盛だとボケないんだって」「じゃあ、おばあちゃんはボケないね。いつも好奇心旺盛だものね」ということになって、いつのまにかおばあちゃんの心配性は消えていったのでした。
 なぜ、おばあちゃんの心配性はなくなったのか? いいえ、おばあちゃんの心配性は変わらないのです。ただ、「心配性は迷惑だ……」というこちらの認識が変化して、気にならなくなったのです。こちらが気にならなくなったら、おばあちゃんもあまり大げさに心配を口にしなくなったのです。
 それまでは、「そんなに心配しなくていいんだよ」「本当に心配性なんだから」「心配しすぎだよ」と、おばあちゃんの心配性は家族全員に否定されてきました。否定されればされるほど、心配になってくるのが心配性らしいです。
 私たちは、一度「こうだ」と思い込むと、なかなかその思い込みから抜けられなくなります。「心配性は迷惑だ」と思ってしまうと、それ以外のものの見かたができなくなってしまいます。
 「心配性は好奇心旺盛な証拠、よいこと」という視点を与えられても、「本当かな?」と疑ったり、「それは本当に正しいのか間違っているのか?」と真偽を問うたりするのは、案外と自分の考えに固執しようとしているということなのです。
 日常的なことは、どうでもいいことのほうが多かったりしますから、あまりこだわらず「へー!」と感心しつつ試してみることが、思わぬ現状打破につながることはよくあります。もし、それでもうまくいかなかったら、潔くあきらめて別の試みをすればいいのです。人は日々変化していきますから、これがダメならあれ、あれがダメならそれ、と次から次へと手を変え品を変え、好奇心をもってチャレンジしていくことでしか対応できません。
 そういう精神の柔軟さを養ううえで、「介護」は本当に役に立ちました。私にとっての〝人生道場〟だったと思っています。

 

3−2へつづく

訪問看護と介護 イメージ

訪問看護と介護

いよいよ高まる在宅医療・地域ケアのニーズに応える、訪問看護・介護の質・量ともの向上を目指す月刊誌です。「特集」は現場のニーズが高いテーマを、日々の実践に役立つモノから経営的な視点まで。「巻頭インタビュー」「特別記事」では、広い視野・新たな視点を提供。「研究・調査/実践・事例報告」の他、現場発の声を多く掲載。職種の壁を越えた執筆陣で、“他職種連携”を育みます。楽しく役立つ「連載」も充実。

4月号の特集は「ご家族もご一緒に!フィジカルアセスメント」。在宅療養の長い利用者さんでは、アセスメントもどこかマンネリ化しがちに。「はい大丈夫、いつもどおり」と異変のサインを見逃していませんか?「いつもどおり(変化なし)」に根拠を与え、「いつもと違う(変化あり)」に具体性を与える"攻めのフィジカルアセスメント"のポイントを現場から開陳。それぞれに山内豊明医師からのアドバイスも!

詳細はこちら

トラックバック

http://igs-kankan.com/mt/mt-tb.cgi/751

コメント

このページのトップへ