かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2013.4.18 update.
東京警察病院看護専門学校卒業後、臨床看護、フリーナース、看護系人材紹介所勤務を経て、フリーライターに。医療・看護系雑誌を中心に執筆活動を行う。現在の関心事は、介護職の専門性と看護と介護の連携について。「看護と介護の強い連携で、日本の医療も社会も、きっと、ずっと良くなる!」と思っている。
2013年5月より、金沢大学附属病院内にがん患者と家族の悩みなどを聞き精神的なサポートを行う専門外来として「がん哲学外来」が開設されます。精神療法の知識をもつ医師が、週1回、「生と死」に向き合う患者らを支援していきます。
「がん哲学外来」とは「がん患者とその家族に安心を与える医療者との対話の場所」(「がん哲学外来」HPより引用)として、がん患者やその家族の不安や悩みなどを聞き、相談に対応します。完全予約制で、まるでカフェにいるかのようにお茶を飲みながらリラックスした中で対話を重ねながら精神的にサポートしていきます。
これは特定非営利活動法人がん哲学外来による活動の一つで、何らかの治療を行ったり、セカンドオピニオンを行ったりするわけではありません。同法人の理事長を務める樋野興夫氏(医学博士/順天堂大学医学部病理・腫瘍学教授)は診療活動で治療困難な患者と関わるなか、「何のために生まれてきたのだろう」という問いに自身も患者も直面したそうです。しかし、そうした悩みに向き合う場が医療現場になく、始めた取り組みが「がん哲学外来」でした。<医療者も患者もお互いによくわからない「哲学」という言葉を用いることで同じ目線に立って語り合えるのではないか>、という考えからこの外来名にしたそうです。フラットな目線で語り合う、それががん哲学外来のポリシーであることを感じます。
「がん哲学外来」は全国に22か所(2013年4月現在)あり、金沢大学附属病院が加わると23か所になります。なお、特定非営利活動法人がん哲学外来は、がん哲学外来のほかに表のような活動を展開しています。
表 特定非営利活動法人がん哲学外来の活動事例
我が国のがん対策は、「がん対策推進基本法」に基づいて進められています。「がん患者を含む国民が、がんを知り、がんと向き合い、がんに負けることのない社会」を目指し、2012(平成24)年度から2016(平成28)年度までを対象に見直しが行われました。
重点的課題の一つに、「がんと診断されたときからの緩和ケアの推進」を挙げ、精神心理的苦痛に対する心のケアを含めた全人的な緩和ケアを受けられるように提供体制の充実を図る、としています。その背景には、がん性疼痛などの肉体的な苦痛とともに不安や抑うつなどの精神心理的苦痛、就業や経済負担などの社会的苦痛などに迅速かつ適切な緩和ケアが十分に提供できていない現状があるようです。がん診療連携拠点病院でも相談活動は行っていますが、「情報提供にとどまっている」との声も聞かれます。
樋野氏はマスコミの取材時、「病院は忙しそうで、患者が聞きたいことを聞けるかどうか…。院外で自由な立場で話せる場が必要です」と話していました。がん哲学外来は、医療現場で手を付けられず、満たされないままできた患者と家族のニーズを埋めるものとなっています。
国は、がん対策推進基本計画で緩和ケアに関して、緩和ケアを組み入れた診療体制の整備とともに、個人・集団カウンセリングなど、患者とその家族や遺族などがいつでも適切に緩和ケアに関する相談や支援を受けられる体制を強化する、としています。
こうした流れからも、がん哲学外来のような活動はますます広まっていくと思われます。
樋野氏はがん哲学外来での対話を「偉大なるおせっかい」と表現しています。「余計なおせっかい」は相手のことを聞いて、自分の気持ちで行うことですが、「偉大なるおせっかい」は患者と対話して共感して行う。そうして患者と向き合っていくことで患者の心の尊厳にまで触れることができ、「なぜ生きているのか」、この大きな命題に患者が何らかの答えを見つけ出し、人生を全うするための行動を起こすことができるのではないかと言います。この「偉大なおせっかい」、普段の臨床看護のなかでも、何かアレンジできそうではありませんか?
参考HP
●NPO法人「がん哲学外来」
http://www.gantetsugaku.org/gantetsugaku_info.htm
●金沢大学付属病院がん哲学外来
http://web.hosp.kanazawa-u.ac.jp/topics/gantetugakugairai_annai.pdf
●厚生労働省 がん対策推進基本計画の概要
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/gan_keikaku01.pdf