かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2012.11.13 update.
杏林大学医学部付属病院に長年勤務し、その後、公立病院勤務を経て2007年にひとづくり工房esucoとして起業。現在、ナースファシリテーターとして看護協会、病院での研修セミナー講師、看護部門の業務改善プロジェクトや人材育成についてコンサルティングを実施。生き生きと看護師が語る「語り場づくりファシリテーター」として、看護師への支援活動を行っている。
○あらためて,ファシリテーションって何?
ファシリテーション=Facilitationという言葉は英語なので,いろいろに訳す方がいらっしゃいますが,ファシリテーションとは何か? ファシリテーターとはどんな人なのかについて考えてみたいと思います。
私の所属する特定非営利活動法人日本ファシリテーション協会のHPには,「人々の活動が容易にできるように支援し,うまく事が運ぶように舵取りする事。集団による問題解決,アイデア創造,教育,学習など,あらゆる知識創造活動を支援し,促進していく働きを意味します」と表されています。
ファシリテートという言葉には,「容易にする」「促進する」という意味があります。つまり,ファシリテーターとはコミュニケーションを容易にしたり,促進したり,という状況を創る人です。ファシリテーションとは状態を表し,ファシリテーターとはその状態を創る役割を表しているのです。
ファシリテーターとしての私の師匠は,今年の春から同志社大学大学院で教えている中野民夫さん(註1)ですが,彼は「話し合いの場のお産婆さん」がファシリテーターの役割。「産むのは母親,生まれてくるのは子ども,その妊娠から出産,産褥までのさまざまなプロセスを支援するのがお産婆さん」だと言っています。
まさにいろいろな話し合いにおいて,助産師と同じような立ち位置にいるのがファシリテーターだというわけです。
偶然にも彼は助産師を例に挙げてくれたのですが,看護師や保健師も同じではないでしょうか? 自分の価値観や生活,看護観も大切にしながら,相手の価値観や生活もリスペクトし,専門職としての知識の提供も交えながら,その人がその人らしい生活,人生を送っていくことを支援するのが,私たちナースの仕事です。
またこれは自分たちの仲間,同僚に対しても大切なコミュニケーションツールになるのです。
私たちはスタッフの育成や病棟カンファレンスで,ついつい経験の長い人や職場で役割を担っている人が引っ張らなくてはならない,あるいは正解を教えなくてはならないと思ってがんばり過ぎたりしてはいないでしょうか? あるいは自分たち自身のことを後回しにして患者や家族を守ることを優先したりしてはいないでしょうか。
それらがすべてよくないというつもりはありませんが,もっと仲間の力を信じ合いながらフラットに物事を進めたり,ときに患者や家族もチームメンバーとしてかかわってもらいながら,ケアを進めていくことが望ましい場合もあるのではないでしょうか。
一方的に何かを伝えるのではなく,双方向に意見を交換することで,互いの力を引き出しあい,これまでの体験すべてから知恵を出し合うというプロセスが重要なのに,最近の医療や看護では,これが希薄になってしまったと感じます。
私はこのような場に,ファシリテーションという,「集団の力を最大限に伸ばせる方法」が有効だと考えています。
医療にかかわるさまざまな人々が,自分自身の価値観や専門知識を刷り合わせることができる,双方向のコミュニケーションの場を創ること,それこそがよりよいケアや業務進行につながるのではないかと,これまでの体験から感じているからです。
○さまざまなナースたちとの出会い→ナースファシリテーター・うら凛の誕生
コーチングやファシリテーションと出合った前後に,私はファーストレベルとセカンドレベルという2つの認定看護管理者研修に参加しました。
ここでは,いろいろな規模の病院で働く,同じような中間管理職の看護師が集まっていました。自分の身の回りに起こる課題を話すうちに,「それは大学病院だからできるのよ」という話を耳にするようになりました。「大学だからできる……」この言葉は私の胸に刺さりました。
当時,私は夫の両親と同居していたのですが,そのころから高齢化していた二人が徐々に体調を崩すようになりました。病院や老人保健施設,地域のさまざまな医療福祉のリソースのお世話になるうちに,いろいろな領域の看護師たちと出会うようになり,大学の環境はかなり恵まれている……と看護師としても家族としても実感する機会になりました。
そのような時期に,義母がお世話になった療養型病院から,「看護師チームと介護福祉士チームの仲が悪くて,それぞれの職業意識は高いのに,現場でやり合ってしまう,双方の関係性をよくするために何かできないか?」という悩みを聞いたり,「地域の中にある同じような小規模病院のマネジャーは相談する場がなくて困っている。もっと連携をとっていくためにできることはないだろうか?」という相談を受けたのです。
そのころちょうどBe-Nature School(註2)で民ちゃん(前述の中野民夫さん)からファシリテーションを学んでいた私は,この病院で「対話の場」をつくることを提案したのでした。ベッド数250前後の病院は,職員どうしが顔の見える関係をもてる規模であり,それぞれが感情ではなく,考えを伝え合い共有し合えたら,何かが変わると確信したからです。
そこで,まずは看護師長さんたちとファシリテーションを学び,その後,さまざまな形で語り合いの場を創っていきました。この出会いをきっかけに私はナースファシリテーターとしての活動を始めたのです。
次回からはこの病院での活動のプロセスを交えて,ファシリテーションのスキルについて伝えていきたいと思います。
お付き合いいただき,ありがとうございました。 ではまたね!
【うら凛のおすすめ】ファシリテーションを学びたいあなたへ
中野民夫氏著書
註1 中野民夫(なかの たみお,1957年- )は,同志社大学大学院総合政策科学研究科ソーシャル・イノベーション・コースおよび政策学部の教授。ワークショップ企画プロデューサー。元博報堂社員。カリフォルニア統合学研究所(CIIS)組織変革学修士。Be-Nature School「ファシリテーション講座」監修。ワークショップの企画実施や,ファシリテーションの実践や普及活動によって知られる(ウイキペディアより引用)
註2 Be-Nature School(有限会社ビーネイチャー)
食,暮らし,海,水辺,森,里山から身体まで,自然・人・社会と関わる幅広い分野での自然体験/環境教育プログラムの企画運営,および参加型の場作りの技法(ワークショップ,ファシリテーション)を扱う。