かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2012.9.19 update.
東京警察病院看護専門学校卒業後、臨床看護、フリーナース、看護系人材紹介所勤務を経て、フリーライターに。医療・看護系雑誌を中心に執筆活動を行う。現在の関心事は、介護職の専門性と看護と介護の連携について。「看護と介護の強い連携で、日本の医療も社会も、きっと、ずっと良くなる!」と思っている。
先ごろ、平成23年度の児童生徒の自殺者数が200人で、前年度より44人増加したという文部科学省(以後、文科省)の調査結果が発表されました。その中で、いじめが原因とみられるのは前年同様で4人。いじめの認知件数は約7万件で、前年度より7千件減少しているということでした。自殺した児童生徒が置かれていた状況は、「不明」(58%)が最も多く、「父母の叱責」(12%)、「進路問題」(10%)などでした。
一方、今年の6月に発表された内閣府の調査では、15~39歳の死因の第1位(表1)に自殺が上がっており、この数は先進7か国中で1位(表2)です。
こうした背景があってか、最近、身近な人たちから異口同音にこうした言葉を聞きました。一人は小学生の子をもつ親、一人は福祉関係のボランティアをしているご高齢者、一人は教師をしていてご自身も二人の子をもつ方。
「とにかく今の時代“生きていてくれればそれでいい” ってそう思う」と。
きっとこの人たちも件の関連ニュースを耳にするたび私と同じような、いえ、それ以上の悲しさ、むなしさ、切なさを感じているのかもしれません。その感情がこうした言葉となっているのでしょう。さらに、その言葉が最悪の行動への抑止力となることを願っているのかもしれません。
でも、文字通り“生きているだけ”の人生は味気ないものです。つらいことや大変なことはあるけれど、それを覆す喜びや達成感、楽しさがあるから生きていられるのではないでしょうか。しかし、暗闇のような絶望の中で、達成感や喜びをほんの少しも感じられない、そんなつらい環境に置かれた児童生徒がたくさんいる現実を、この数字は示しているのかもしれません。
文科省の調査では200人という数が出ましたが、警察庁の統計では23年に自殺した児童生徒は353人でした。文科省による子どもの自殺統計は、全国の小中高校を対象に「問題行動調査」として毎年行われていますが、遺族の意向などで報告されないケースがあって必ずしも実態を反映しているといえません。そのため文科省のこの調査は2013年度から中止が決定しました。しかし、学校や児童生徒と確実なルートをもつ関係省庁として、是非、何らかの形で不明となっている58%の自殺した児童生徒が置かれていた状況を究明してほしい。そこから、実態に即した環境改善が進んでいくと思います。
では、看護者としては何ができるでしょうか。この結論は簡単には見つかりません。ただ、一つのよりどころとして<看護者は人間の生命、人間としての尊厳、および権利を尊重する>という看護倫理綱領の一文がよぎります。いかなる場面においても看護者は、生命・人格・尊厳が守られることを判断と行動の基本とすること、そして温かな人間的配慮をもって対応すること。これを心において彼らに寄り添うことで、何かが見えてくるかもしれません。
表1 死因順位別に見た年齢階級・性別死死亡数・死亡率・構成割合
表2 先進7か国の年齢階級別人口10万人対死亡者数