かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2012.9.13 update.
水原章浩(みずはら・あきひろ)
東鷲宮病院副院長、褥瘡・創傷ケアセンター長。1983年、筑波大学医学専門学群卒。筑波大学附属病院外科、東京女子医科大学第二病院心臓血管外科、北茨城市立総合病院外科、自治医大附属さいたま医療センター心臓血管外科、蓮田病院循環器科部長を経て現職。日本外科学会認定医、日本循環器学会、日本褥瘡学会評議員、日本熱傷学会、日本静脈経腸栄養学会、埼玉PDN理事。
東鷲宮病院における2500例以上の褥瘡治療の経験を元に、さまざまなアイデアや工夫を臨床にいかしています。よりよい治療を実現できるように当院スタッフと連携して治療にあたり、さらに創傷・褥瘡治療や高齢者医療を通じて地域医療に貢献したいと思っています。『見てできる 褥瘡のラップ療法』(医学書院、2011)など著書多数。
富田則明(とみた・のりあき)
東葛クリニック病院検査部超音波室担当主任。1976年、東葛クリニック病院入職。臨床工学技士、透析技術認定士、超音波検査士(消化器領域、体表臓器領域)。日本超音波検査学会(評議員)、バスキュラーアクセス管理における超音波診断、透析例におけるアミロイド骨関節症とともに、近年、褥瘡管理における超音波の必要性について研究しています。
浦田克美(うらた・かつみ)
東葛クリニック病院看護部、皮膚・排泄ケア認定看護師。1996年、東京警察病院看護専門学校卒業後、同施設の外科病棟に勤務。2007年、日本赤十字看護大学看護実践・教育・研究フロンティアセンター認定看護師教育課程を卒業、皮膚・排泄ケア認定看護師を取得。現在、外来勤務とともに、WOCナースとして活動中。
「いつの日か、看護師が聴診器のように自由にエコーを使いこなす時代が来る」と信じて褥瘡エコーの実践に取り組んでいます。一方、大人用おむつの社会的イメージアップのためオムツフィッターとして「おむつファッションショー」などの地域でのイベント、勉強会を開催しています。
※本記事は水原章浩・富田則明・浦田克美著『アセスメントとケアが変わる 褥瘡エコー診断入門』からの抜粋です。
前回は、褥瘡エコー診断によって、DTIの鑑別やポケットの深さを判定できることを解説しました。
今回は、褥瘡エコーを自施設に導入するときに考えるべきメリットやコストなどについて、解説します。
❶ 皮下の観察情報を「見える化」するツールとして
褥瘡ケアにおける看護師の役割として大切なものに「異常の早期発見」がありますが、そのために必要なのが「いまの状態」を観察し、「今後起こりうる状態」を予測することです。これをもとに、治療、予防ケアをどのように行うのかを判断します。
褥瘡の観察においてもっとも大切なのは五感というツールです。視覚、聴覚、触覚、嗅覚(正確には五感ではなく「味覚以外のすべて」ですね)を駆使して、褥瘡の状態や変化の過程を観察します。しかし、これらの感覚には個人差があるため、得られた情報を共有する際に、どうしてもあいまいさが生じてしまいます。
このことから、より客観的な情報共有ツールとして、デジタルカメラの画像を活用している病院が多いと思います。しかし当然ながら、デジタルカメラの写真では皮下の状態はわかりません。そこで、CTやX線検査で皮下組織を見るという方法が考えられますが、患者を検査室へ移動する手間がかかるうえ、コストや被曝の問題があります。
その点、エコーは非常に簡便に皮下の状態を立体的に可視化することが可能です。また、エコー機器は年々コンパクトになっており(16ページ)、ベッドサイドにポータブルエコーを携帯することによって、観察した画像をリアルタイムに見ることが可能となりました。
エコーによって皮下の情報を画像化(見える化)することには、客観性があり説得力のある情報をスタッフ間で共有し、さらには経時的な変化を的確に追うことでケア方法にフィードバックできるという大きなメリットがあります。これらのことから、今後、褥瘡エコーは褥瘡ケアにおける観察ツールのひとつとして、ますます重視されていくものと考えられます。
❷ 予防ケアのモチベーション維持
褥瘡の予防ケアでもっとも大切なのは、現在の状況から起こりうる変化を予測し、褥瘡が発生したり悪化したりするのを未然に防ぐことです。しかし、実際に「予防ケア」に取り組んでいくにあたって、スタッフのモチベーションを維持することが困難であるという問題があります。
なぜなら、現在ある褥瘡の「治療」とその成果は、医療側、患者側双方にとって共通の成功体験として感じられるのに対し、「予防」は、行ったケアが本当に褥瘡の悪化を防ぐのに効果があったという確信をもちにくいからです。「もともと発生していなかった褥瘡」について「医療スタッフの力で予防できた」という実感は医療者・患者とも強くないため、予防ケアのモチベーションを維持することには難しい側面があるのです。
東葛クリニック病院では、褥瘡回診の際に必ず、エコーによる深達度と低エコー所見の有無を評価しています。低エコー所見を発見した場合には、その部位が的確に除圧され、ズレが軽減されるようなポジショニングを徹底します。毎週、低エコー所見のあった部位をエコーで確認し、低エコー所見が縮小して改善していく様子をスタッフと患者の間で共有することで、正しいケアを提供できているという成功体験をシェアすることができます。
褥瘡ケアは、患者にかかわるスタッフ全員が共通認識を持ち、全スタッフが統一したケア提供をすることで成果が表れてきます。自分たちの行ったケアの成果をエコー画像によって可視化することは、予防ケアのモチベーション維持につながると考えています。
臨床検査技師は普通、褥瘡のことはわかりませんので、「褥瘡エコーをやりましょう」と提案されることはほとんど考えられません。よって、褥瘡エコーを導入するには、日常的に褥瘡を評価し、ケアする立場にある看護師ないしは医師からの提案が必要です。
最初から褥瘡エコーのためにポータブルエコー機器を導入することは難しいと思いますので、はじめは臨床検査技師にオーダーを出し、検査室にある超音波装置で検査してもらうことになります。その際、必ず臨床検査技師と一緒に画像を確認してください。
エコーで見ると同時に、五感を使って評価します。エコー所見についても、臨床検査技師とその場でディスカッションして評価しましょう。週1回程度、エコー室で検査を行い経過を追えば、褥瘡エコーによって得られた情報によって早期に改善する症例が出てきます。こうした成果を、きちんと臨床検査技師にフィードバックしましょう。そうやって巻き込むことで、しだいに臨床検査技師も褥瘡エコーに興味を持つようになるでしょう。
病棟のスタッフには褥瘡エコーの画像を見せ、「創が悪化する危険が高いことが褥瘡エコーでわかりましたので、このようにケアしてください」といった指示を出すことで、褥瘡エコーの意義を理解してもらうことができます。ポータブルエコーが導入できれば、日々の褥瘡回診時にその場で検査し、保険請求することもできます(図1-7)。
褥瘡エコーは、医師の指示があれば看護師でも実施することが可能で、350点の診療報酬を取得することができます(図1-7)。もちろん、検査室にすでにあるエコー機器を使用してもかまいませんが、ポータブルエコー機器を使用することができれば、より簡便に、リアルタイムに褥瘡エコー診断を行うことが可能となります。
近年、ポータブルエコー機器は安価になり、導入のハードルも下がっています(16ページ)。医療安全としての「中心静脈カテーテルの穿刺支援」、褥瘡管理としての「褥瘡エコー診断」という2つの目的から検討すれば、病院経営の観点からみても導入は可能と考えます。
エコー画像の読影については、日本超音波医学会認定の超音波検査士という資格があります。看護師、准看護師、臨床検査技師、診療放射線技師の資格があれば受験可能です
日本超音波医学会ホームページ:
http://www.jsum.or.jp/capacity/rms/qualifications.html
現在、ナースプラクティショナーや、特定看護師(仮称)の養成コースの教育内容にエコーの実技演習を組み込むことが検討されていることからも、今後、看護師がエコーを使用する場面は増えてくると思われます。
本書ではPart 2でエコー機器の基本的な使い方を、Part 3では褥瘡エコー診断の診断方法を解説しています。
看護師がベッドサイドで褥瘡の観察目的として使用するエコー機器の選択要件を以下に示します。
看護師が褥瘡管理に使用しやすいエコー機器
❶ Bモード・リニア型プローブ
❷ 10 MHz前後の周波数
❸ コンパクトで軽い
❹ ベッドサイドへ移動しやすいコンパクトなキャスター付きのスタンドがある
❺ コンセントがなくても使用できる長時間充電タイプ
❻ 自動で画像調整できる
❼ 電源の立ち上がりが早く、設定操作が少ない
❽ データ管理がしやすい
❾ 安価
図1-8にあげたポータブルエコー機器は、いずれも臨床で活用しやすい条件を備えています。
褥瘡のエコー診断についてまとめた、本邦初の本格的な実践書。エコー機器が小型化・高性能化するなか、DTI、ポケットの正確な評価など、褥瘡診療の分野でのエコーの活用に注目が集まっている。本書では、先進的に褥瘡エコー診断を行なっている著者らの実践事例とノウハウを紹介する。