はじめての褥瘡エコー(前編)

はじめての褥瘡エコー(前編)

2012.9.07 update.

プロフィール

水原章浩(みずはら・あきひろ)

東鷲宮病院副院長、褥瘡・創傷ケアセンター長。1983年、筑波大学医学専門学群卒。筑波大学附属病院外科、東京女子医科大学第二病院心臓血管外科、北茨城市立総合病院外科、自治医大附属さいたま医療センター心臓血管外科、蓮田病院循環器科部長を経て現職。日本外科学会認定医、日本循環器学会、日本褥瘡学会評議員、日本熱傷学会、日本静脈経腸栄養学会、埼玉PDN理事。

東鷲宮病院における2500例以上の褥瘡治療の経験を元に、さまざまなアイデアや工夫を臨床にいかしています。よりよい治療を実現できるように当院スタッフと連携して治療にあたり、さらに創傷・褥瘡治療や高齢者医療を通じて地域医療に貢献したいと思っています。『見てできる 褥瘡のラップ療法』(医学書院、2011)など著書多数。


富田則明(とみた・のりあき)

東葛クリニック病院検査部超音波室担当主任。1976年、東葛クリニック病院入職。臨床工学技士、透析技術認定士、超音波検査士(消化器領域、体表臓器領域)。日本超音波検査学会(評議員)、バスキュラーアクセス管理における超音波診断、透析例におけるアミロイド骨関節症とともに、近年、褥瘡管理における超音波の必要性について研究しています。


浦田克美(うらた・かつみ)

東葛クリニック病院看護部、皮膚・排泄ケア認定看護師。1996年、東京警察病院看護専門学校卒業後、同施設の外科病棟に勤務。2007年、日本赤十字看護大学看護実践・教育・研究フロンティアセンター認定看護師教育課程を卒業、皮膚・排泄ケア認定看護師を取得。現在、外来勤務とともに、WOCナースとして活動中。

「いつの日か、看護師が聴診器のように自由にエコーを使いこなす時代が来る」と信じて褥瘡エコーの実践に取り組んでいます。一方、大人用おむつの社会的イメージアップのためオムツフィッターとして「おむつファッションショー」などの地域でのイベント、勉強会を開催しています。

エコーで褥瘡の何を見るの?

 

エコー(超音波検査)といえば心エコーや腹部エコーを思い浮かべる方が多いと思います。「褥瘡エコー」といっても聞きなれないし、「いったいエコーで褥瘡の何を見るの?」と思われる方も少なくないでしょう。

 

近年、小型・軽量化したポータブルタイプのエコー機器の性能は向上しています。解像度が高く、検査室に行かなくてもベッドサイドで手軽に本格的な画像診断を行うことが可能となってきました。東葛クリニック病院では以前から中心静脈カテーテル(CV)挿入時や透析時の血管穿刺支援のためにポータブルエコーを導入していました。このポータブルエコーを、褥瘡回診の際に、DTI(後述)の早期発見など、ベッドサイドでの褥瘡予防ケアに活用できないかと考えたのが褥瘡エコーに取り組むきっかけでした。

ここでは、筆者らの経験した症例にもとづいて、褥瘡ケアにエコー検査がどのように役立つのかを解説したいと思います。

 

※本記事は水原章浩・富田則明・浦田克美著『アセスメントとケアが変わる 褥瘡エコー診断入門』からの抜粋です。

 

エコー検査が褥瘡ケアに貢献できること

 

❶ DTIの鑑別

褥瘡ケアでは近年、DTI(deep tissue injury:深部組織損傷)という概念が注目を浴びています。そして、褥瘡エコーがもっとも力を発揮するのが、DTIの早期発見の場面です。

 

人間の皮膚は、表皮・真皮と皮下組織(筋肉組織、脂肪組織)で構成されていますが、DTIとは、肉眼的に表皮や真皮に大きなダメージが見られないにもかかわらず、皮下組織、つまり脂肪組織や筋肉組織に損傷が生じている状態をいいます(図1-1)。DTIは時間経過とともに、急速に深い褥瘡に進行するリスクがあると考えられています。

 

DTIは肉眼では鑑別が難しいため、エコーを用いることによって正確な鑑別ができるようになることが期待されます。

 

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❷ 発赤を評価する

皮膚の色調変化について、皮膚がピンク~うす紫色の色調変化をすべて「発赤」と表現することが多いと思います。しかし一口に発赤といっても短期間で治癒するものから、DTIのように重症化するものまで、さまざまな転帰があります。こうした発赤の評価は、従来であれば肉眼所見や触診のみで行っていましたが、エコー検査を導入することによって、より正確な評価が可能となります。

 

図1-2は仙骨付近の骨突出部に生じた発赤とそのエコーです。指で押しても消褪しない発赤で、皮下の毛細血管は破たんしていますが、皮下組織の損傷のないステージⅠの褥瘡ですので、エコー所見上、変化は見られません。

 

一方、図1-3は皮膚表面に発赤がありますが、一見したところさほど大きな皮膚損傷はありません。しかしエコーで見ると、皮下約1cmのところに、軟部組織の損傷が疑われる所見が認められました(図1-3 矢印部)。DTIと考えられ、その後の悪化に備えて予防ケアを行いました。
 

 

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❸ 褥瘡の深達度を評価する

褥瘡の深達度はこれまで、皮膚表層からの肉眼による観察にもとづいて評価されてきましたが、エコーを使用すると、実際の深達度や損傷されている部位を視覚的に評価することができます。

図1-4は黒色壊死組織のある褥瘡です。エコーで見たところ、筋肉組織浅層までの比較的浅い部位の損傷と判断されました。表面から見た印象よりも、浅いところで損傷が止まっていることがわかります。
 

 

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❹ ポケットを評価する

褥瘡のポケットの評価は、綿棒やPライトを使用する方法が一般的です(図1-5)。しかしエコーでポケットを見ると、実際にはPライトを挿入することができる部分以上に広く、びまん性にポケットが形成されていることがわかるときがあります(図1-6)。

ポケット周囲にエコーをあてることによってポケット周囲の中でも、皮下の組織結合が弱く、今後ポケットが拡大していく可能性が高い範囲を可視化することができ、治療・予防ケアにつなげることができるようになります。
 

 

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続く

褥瘡エコー診断入門 イメージ

褥瘡エコー診断入門

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