かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2012.6.12 update.
東京警察病院看護専門学校卒業後、臨床看護、フリーナース、看護系人材紹介所勤務を経て、フリーライターに。医療・看護系雑誌を中心に執筆活動を行う。現在の関心事は、介護職の専門性と看護と介護の連携について。「看護と介護の強い連携で、日本の医療も社会も、きっと、ずっと良くなる!」と思っている。
貧困政策の効果は何で見る?
今回のテーマは、前回に続いて子ども貧困についてです。
キーワードは<政府の再分配機能>。
政府は国民から税金や社会保険料などを受け取り、さまざまな社会保障給付として国民に還元しています。これを「再分配機能」と呼び、貧困に対する政策の効果を読み解くには、「再分配前」と「再分配後」の貧困率の比較が重要です。
「再分配前の貧困率」とは社会保険料や税金を引かれる前の所得で計算した貧困率で、「再分配後の貧困率」とは税金や社会保険料を引かれてあらゆる給付金が支給された後の所得で計算した貧困率です。この差が、政府の「貧困削減」の効果を表します。「再分配後」の貧困率が「再分配前」より減少していればいるほど政府の貧困削減効果が上がっているといえるのです。
ギリシャ、イタリア、日本、再分配後の子どもの貧困率ワースト3
2008年OECDの調査(表)では、日本は先進諸国において再分配後の貧困率が再分配前の12.4%から13.7%と高くなっている唯一の国でした。このように日本の子どもの貧困率が高いのは、政府の再分配機能が働いていないからといえます。
もともと再分配機能は、税金や社会保険料などとして富裕者層から徴収したものを貧困者層にさまざまな形で給付する貧困削減の機能です。でも、この結果からは当初の主旨は見受けられません。なけなしのお金で税金を納めても、自分たちのメリットはほとんどなく、税金や社会保障費を納めた分、収入は減って暮らしが苦しくなっています。
実際のところ、貧困者が支払う所得税はさほど高くはないものの、かなりの額の社会保険料を支払い、受ける給付が非常に少ないのです。先日発表されたユニセフの調査報告では、ようやく再分配後の貧困率がわずかに再分配前を下回りましたが、それでも連日財政赤字に関するニースが流れるギリシャ、イタリアに続いて下から3番目というのは、日本国民として複雑な心境です。
現金給付、現物給付、そして教育支援
「再分配前」と「再分配後」の貧困率の逆転を修正し、再分配後の貧困率を減少させるにはどうしたらいいのでしょうか。給付を増やせば問題は解決するのでしょうか。
2006年OECDの報告では、「貧困が起こってしまってからの制度は対処的なものにしかならず、どんなに効果的な制度・プログラムであっても、子ども期の貧困の影響を100%なしにすることはできない」とあります。そして、貧困を上流で防止するため現物給付よりも現金給付が効果的と強調しているそうです。“現物給付より現金給付”という点には単純には同意しかねますが、「上流で貧困を防止する」という点には共感します。
お金もモノも大事、でもそれらを活かしながら生きていく力を育んでいくのは教育ではないでしょうか。私たちの税金が、未来の社会を担う子どもを貧困の連鎖から断ち切れるように、正しく使われることを願っています。
【参考HP】
●「子どもの貧困対策としての教育」
www.jec.or.jp/soudan/images/kikanshi/66-2-7.pdf
●NHK解説委員室 解説アーカイブス