かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2012.6.11 update.
カエルの看護師ナンシーのもとに神のつかいである錦鯉のマンジーが現れた。忙しすぎる仕事の中で遭遇する多くの難題を乗り越えて、マンジーとのやりとりからナンシーは大切なものを見つけることができるのか? 「ニジノカナタニ」第3話は、ナンシーが看護研究に挑むお話の続編です。
来週に迫ってきた看護研究の研究計画書発表会の準備を進めるナンシーは、病院でヴィヴィアンが大学病院時代におこなった看護研究を見せられて愕然とした。それは難しい統計手法を用いて、看護技術指導の方法について詳しく分析している研究だった。ナンシーはすっかり自信喪失。やる気もすっかり失せて帰路についた。
家に帰ると、神のつかいを自称するマンジーが出迎えた。やはり夢ではない。看護研究の準備を進めるためにも、今はマンジーの力を借りるしかないか……。
ナンシーはマンジーから熱望されたクリームシチューを作りながら、大学病院で高度な看護研究をバリバリやっていたヴィヴィアンのことを愚痴まじりで説明した。
マンジーは「ふふん」と言いながら、ヴィヴィアンが大学病院時代に行ったという看護研究の論文を眺めている。出来上がったクリームシチューをお皿に入れて出すと、
「これは違うんちゃうかなぁ」
「え? シチューですか?」
「ちゃうちゃう、クリームシチューちゃんはええねん♪ うまいことできてるわぁ」
「だったら何が?」
「いや、そやからな、この研究は違うんちゃうかって、ゆーてんねん」
「え……この看護研究? どこか変なとこでもあるんですか? たくさんの項目の調査を、いろんなアンケートをつかって細かくやってるし、分析もなんだかすごい方法でいっぱいしてるじゃないですか? 新人教育を研究でこんなにやるなんて……大学病院だからできるんですよね。うちなんかじゃ、とてもじゃないけどできませんよ」
「そやったらお聞きします。このシチューのじゃがいもと人参とコーンの平均ってなんぼでしょう?」
「そんなの……平均できませんよ」
「じゃがいもは1点、人参は2点、コーンは3点にしたら、合計6点の平均で2点やわな?」
「いや……そんなことしても意味ないですよ」
「そやろ? そういうことをしてしもてるんよ、この研究」
「えっ?!」
「質問項目のここんとこ見てみ? 【自信を持ってできる】から【一人ではできない】の間にいくつかの表現があんねんけど、それぞれに1から4までの数値をあてはめて、平均点出してるやろ?」
「あ……ホントだ」
「自分ら、なんでもかんでも平均出さんといかんとか思ってるんちゃう? 意味のない数字では、なんぼ高度な統計つこたかて、レベルの高い研究になんかならんで」
「ううう……」
「研究は真実を明らかにする! 何を知りたいか? それはどないしたらわかるんか? ってことを研究のお作法に則って、きちーんと考えるのが研究のキモや」
「そんなこと……分かってますよ!質の高い看護のためには、研究は不可欠なんです!」
「ほんまかいな!? 真面目にそない思とるんか?」
「お言葉を返すようですが、看護研究は質の高い看護に絶対必要です!そんなの常識!当たり前です!」
「まぁ、まずは、おいしいクリームシチューをいただきましょう♪ 話はあとあと!」
「ふーっ!めちゃめちゃおいしかったわあ♪」マンジ―は満足げ。
「あの……さっきの看護研究の話なんですけど……」
「はいはい。私は特に食べ物の御恩は一生忘れへんから、力になるわよ。研究計画書の発表のことやね?」
「研究計画書はもちろんですけど、さっきの話すごく気になります。看護研究の意義のことです! 私は真面目にちゃんとやろうとしているんです。」
「ああ『質の高い看護には看護研究が絶対必要』って話やね」
「そうです。看護研究は質の高い看護に欠かせないから、私たちは忙しくても時間を作って研究に取り組んでいるんです。わかりますか?」
「ふう……なんでそないな話になるんかなぁ」
「どういうことですか?」
「あんた、この前、画期的な術後ケアのやり方が載ってる最新文献を見つけたっちゅーて、大騒ぎしとったなあ? あの話はどないなったん?」
「あれは、ものすごい研究だと思ったんです。術後の足の安静固定の新しい方法を開発して、その効果をバッチリ検証してるんです。患者さんは今までより格段に楽になるし、安全で効果も高いことを明らかにしています。ちょうど病棟で困ってることにもそのまま活用できそうでした。」
「それで、活用してるん?」
「私たちがやるには、あの研究そのままをマネするだけではダメだし、そもそも大規模な研究だから、こんな普通の病院の看護研究ではできないんです。」
「いや、別に看護研究でなくても、そないにええもんやったら普通につこたらええんちゃうん?」
「こんなに忙しい中でそんなの無理ですよ」
「ナンシー……あんた、なんか、おかしいと思わんか? 看護の質を上げるために研究は絶対必要やって、ゆーてるけど、実際に、ものごっつええやり方を見つけても、忙しいからできんって……それ、どうなんかなぁ」
「だって仕方ないじゃないですか。忙しいのは事実なんですから」
「ほんまにしゃーないことかぁ?忙しくても研究はやってるんとちゃうん?」
「だって、研究はやらないといけないから……仕方ないじゃないですか」
「また、仕方ない……ですか。あんた、研究ちゅーのは『やあらなあかん』からやるんと違うやろ? ちゃんと理由があって、自分らで『やると決める』ってとこが肝心なんと違うんちゃうかなぁ……研究計画かて、この研究をどうやるかとことん考えてから決めるもんやろ? つまり『意思決定』っちゅうやつやね。これが大事なんよ。」
「え……」
ナンシーはマンジーの言葉に目から鱗が落ちるようで、反論ができなかった。
すぐ役に立つことができなくて、いつ役に立つかわからない研究はできるって、確かに変だと気づいた。
「忙しいのはわかるわ。でもな、限られた時間で何を大事にしたらええんか自分らで決めんことには、結局どないもならんのちゃうか? しゃーないっちゅーて、そこ、なんかズレてきてへんかなぁ……自分で決めることを放棄してるんやったら、計画なんか立てても意味無いと思うわ。」
確かにそうだ……ホントに仕方ないことなんだろうか?
仕方ないからとなんでもかんでも受け入れるのではなく、
ちゃんと考えて決めてみるっていうのをやらないと……なのかな
研究計画書の発表会まであと一週間。
どうする!?私
次回に続く