被災地で行った

被災地で行った"地域医療" 第2回

2011.7.12 update.

小野雄司 イメージ

小野雄司

SF作家になることを夢見ている消化器科医。困難な状況に立ち向かう人間の精神のすばらしさを書いてみたい。実際の臨床の場でも患者さんはみな困難な状況にあり、それを克服するためにどのようにお手伝いできるかを考えている。
写真は支援先の南三陸町で、米の運搬をお手伝いしている筆者。
日本医科大学1999年卒業、北海道大学大学院医学研究科2007年修了、医学博士。稚内市立病院などを経て、現職。

被災地で行った“地域医療” 第2回 

小野雄司

医師 札幌社会保険総合病院 内科・消化器科 

 

地域医療の破綻を防ぐために

慢性疾患のコントロールをはじめとする

地域医療の再構築が急務

 

こうして振り返ってみると、被災地で特別なことを行ったわけではない。活動した時期の南三陸町は、一時的な被災地医療から継続可能な地域医療への転換点であったので、(僕らにとっては)初診である患者のデータをまとめ、それを再び立ち上がろうとしている地域医療機関へ橋渡しする、という活動が主となったが、その根底に流れる思想としては慢性期の患者をできるだけ増悪させない、というどこにでもある地域医療と同じものである。

 

近年、日本の急性期医療が崩壊しかかっているという指摘がある。それがまさにさし迫っていた地域のひとつが今回の被災地だ。地震によって地域医療を支えていた診療所の大多数が壊滅し、わずかに残存した拠点病院に患者が殺到し、地域医療全体が破綻することを防いでいかなければならない。

 

復興にはまだ遠い被災地でこれから必要とされるのは、慢性疾患をコントロールするような地域医療の再構築である。特別に災害医療の訓練が必要と言うわけではなく、訪問看護や介護を含めた、“日常の地域医療”を被災地で行うことが十分医療支援になるのである。

 

漠然とした焦燥感や無力感を感じている人に伝えたいこと

 

僕と同じような漠然とした焦燥感や無力感を感じている医療者がいらっしゃれば、その人たちに伝えたい。自分は普段、地域医療しかしておらず、被災地にいってなにかできるような特別な力はない、でもなにかしたい、とおもっているなら、その地域医療を行う力こそ必要とされる場面があり、あなたの存在はとても重要なのです。

 

また、今回は無理だとしても、災害は将来必ず起こる。その時に僕のこの駄文を思い出して、支援活動をおこなう原動力の一部になればとおもう。

 

もちろん、僕も今回の活動で満足しているわけではなく、機会を見つけてまた参加したい。人間の記憶はだんだんと薄れていくものだが、震災の被害が時間とともに軽減することはない。記憶が風化してしまうことは復興に向けての大きな障害であり、支援を継続することが重要だと思う。

 

最後に、今回の大震災の被害にあわれた方々に哀悼の意を示すとともに、被災地の復興を心より願っています。

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