【看護管理】新人の離職を防ぐために(1)

【看護管理】新人の離職を防ぐために(1)

2011.6.20 update.

中島美津子 イメージ

中島美津子

「じ」じゃなくて、濁らない「し」の「なかしま」です。夫の転勤により各地の病院に勤務。九州大学医学部保健学科、聖マリア学院大学看護学部、東京警察病院看護部長を経て、2010年5月より東京病院副院長となりました。研究テーマは「働きがいのある組織づくり」で、働き方についての認識のパラダイムシフトを図る啓発活動を全国で展開中。
「すべては幸せにつながっている」「ケア提供者が幸せであることは質の高いケア提供を可能にする」という信念の下、日々仕事を楽しんでいる超positive思考の二児の母。
みっちゃんのブログ(http://ameblo.jp/tokyobyouin-director/)

 

新しい年度が始まりました! 震災の影響で未だに組織のパワー全開というわけにもいかない組織もあるかと思いますが、新人さんを受け入れているところ、受け入れていないところに関わらず、下記の3点について、一緒に考えてもらいたいなーと思います。

1.問題は「他の組織に異動する」離職  
2.新人が求めること、管理者が新人に求めること
3.じゃ、どうする!? 

 

1.問題は「他の組織に異動する」離職

 

新人が辞める理由にはいろいろな状況が複合的に関わっていると考えます。

 

看護師の場合、一口に「新人」といっても、その経歴はさまざまです。わが国ほど、看護師免許取得のシステムが複雑な国はありません。最短で20歳で取得しすぐ臨床に出る新人もいれば、大学院まで修了してくる新人もいます。さらに最近は、社会人経験者もたくさん見受けられます。私の遭遇したこれまでの新人看護師の最高年齢は49歳。46歳で一念発起して看護学校に入りなおしたというのだから素晴らしい! 感心するばかりです。

 

先日、大学生の就職率が91.1%で、統計を取り始めた1997年以降、最低の数値と報道されていましたが、就職難のなか、看護師という職業の注目は高まっています。近年では、普通高校にも「看護コース」というコースができてしまうほど。こうしたことも、看護職を選ぶ人たちを多様化している背景にあります。

 

さて、看護師を職業として選ぶ動機には、概ね、次の3つがあると考えられています。

 

情動タイプ
⇒ドラマや本の影響や幼少時の医療機関での体験などにより看護師に対する憧憬の念がある人


継続タイプ
⇒周囲に医療関係者がいることで、自然と、或いはその姿を見ることで自分もその道に進もうと考えて看護系に進んだ人

 

規範タイプ
⇒人のためになる、人の役に立ちたいという正義感から看護系に進学した人


では、こうした思いをもって就職した人がどうして、仕事を辞めてしまうのでしょうか。これについて考えるためには、「離職」にも、2つの種類があるということを押さえておく必要があります。それは、

one看護師そのものを辞めてしまう離職
two最初に入った組織を辞めて別の組織へ移動してしまう離職

です。

 

おそらく前者は、リアリティショックやバーンアウトという理由が考えられ、これはこれで大きな課題です。一方後者は、現場の管理者としてはどうしても「最近の若者は我慢ができない」と、批判的に捕らえてしまいがちな離職です。しかし、「看護職を辞めるのではなく、他の組織へ移動してしまう離職」については、彼女らの視点に立って、もう少し掘り下げて考えてみる必要があると思います。

 

2.新人が求めること、管理者が新人に求めること

 

■今の20代は何を求めているか

 

公益財団法人日本生産性本部が1969年以来、毎年4月の新入社員を対象とした調査を実施しているなかで、この40年間、大きく変化している項目があります。それは「入職時の組織選択理由」です。以前は「会社の将来性」が1位であったものが、今では「自分の能力・個性を活かせる」に変わってきているとのこと。若者の間で、「自己実現」という観点が、就職において重視されるようになってきた傾向がうかがわれます。

 

さらに同じ調査では「何のために働くか」という質問に対して「エンジョイするために働く」という回答が増えていました。給与に執着すること無く、さらには自己実現や成功をも必ずしも求めず、「身の丈に合った暮らしができればいい」という淡白な希望が、今の若者世代のメンタリティを表しているように見えます。その背景には、初等教育からの教育の影響というものも少なからずあるでしょう。

 

私もわが子から「ねぇ、ママ?、『根性』ってどういうこと?」と聞かれたときには、ドキッとして思わず、「う……」と考え込んでしまいました。そうなんです。今の子どもたちは「根性」や「忍耐」などを経験することも体験することも少ないのです。さすがに見直しの声が上がっていますが、運動会の100メートル走で順位をつけないといった、極端に競争を規制する教育を受けてきた世代においては、逆境を根性・忍耐で乗り切る、という経験が不足している、ということは言ってもいいように思います。

 

少なくとも、「自分も他人も傷つけたくないという理由で他の組織へ異動する」という行動は、以前の新人にはあまり見られなかったものですが、新人の退職・他施設への異動の理由としては、意外なくらい増えています。

 

■私たち管理者は新人をどう見ているか

 

「社会人基礎力」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。2006年に経済産業省が「職場や社会の中で多様な人々と共に仕事をしていくために必要な基礎的な力」と報告したものです。3つの能力とそれぞれに12の能力要素があります。

 

「前に踏み出す力」(アクション)」

一歩前に踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力。


実社会の仕事において、答えは一つに決まっておらず、試行錯誤しながら、失敗を恐れず、自ら、一歩前に踏み出す行動が求められる。失敗しても、他者と協力しながら、粘り強く取り組むことが求められる。

<能力要素>
主体性:物事に進んで取り組む力
例)指示を待つのではなく、自らやるべきことを見つけ積極的に取り込む
働きかけ力:他人に働きかけ巻き込む力
例)「やろうじゃないか」と呼びかけ目的に向かって周囲の人を動かしていく
実行力:目的を設定し確実に行動する力
例)言われたことをやるだけでなく自ら目標を設定し、失敗を恐れず行動に移し、粘り強く取り組む。


「考え抜く力」(シンキング)」

疑問を持ち、考え抜く力。


物事を改善していくためには、常に問題意識を持ち課題を発見することが求められる。その上で、その課題を解決するための方法やプロセスについて十分に納得いくまで考え抜くことが必要である。

<能力要素>
課題発見力:現状を分析し目的や課題を明らかにする力
例)目標に向かって、自ら「ここに問題があり、解決が必要だ」と提案する。
計画力:課題の解決に向けたプロセスを明らかにし準備する力
例)課題の解決に向けた複数のプロセスを明確にし、「その中で最善のもの何か」を検討し、それに向けた準備をする。
創造力:新しい価値を生み出す力
例)既存の発送にとらわれず、課題に対して新しい解決方法を考える。


「チームで働く力」(チームワーク)


多様な人とともに、目標に向けて協力する力。


職場や地域社会等では、仕事の専門化や細分化が進展しており、個人として、また組織としての付加価値を創り出すためには、多様な人との協働が求められる。自分の意見を的確に伝え、意見や立場の異なるメンバーも尊重した上で、目標に向けともに協力することが必要である。

<能力要素>
発信力:自分の意見をわかりやすく伝える力
例)自分の意見を分かりやすく整理した上で、相手に理解してもらうように的確に伝える。
傾聴力:相手の意見を丁寧に聴く力
例)相手の話しやすい環境をつくり、適切なタイミングで質問するなど相手の意見を引き出す。
柔軟性:意見の違いや立場の違いを理解する力
例)自分のルールややり方に固執するのではなく、相手の意見や立場を尊重し理解する。
情況把握力:自分と周囲の人々や物事との関係性を理解する力
例)チームで仕事をするとき、自分がどのような役割を果たすべきかを理解する。
規律性:社会のルールや人との約束を守る力
例)状況に応じて、社会のルールに則って自らの発言や行動を適切に律する。
ストレスコントロール力:ストレスの発生源に対応する力
例)ストレスを感じることがあっても成長の機会だとポジティブに捉えて肩の力を抜いて対応する。

 


いかがでしょうか。こういう能力を兼ね備えている新人がほしいなあ、と思った方もおられるでしょう。こうした「社会人基礎力」ということが言われるようになったということは、「これらの能力がいまの若者に欠けているのではないか」と考えられているからだと思います。皆さんも、心当たりはあるのではないでしょうか。

 

しかし、この捉え方はもしかするとステレオタイプではないか? という疑念を私は抱いています。今時の20代は社会人基礎力が「ない」「低い」という評価は本当に正しいのか。皆さんも、自分の胸に手をあてて、自分たちの若かりし頃(いえ、決してそう遠くないことだとは思います)を思い出してみてください。先輩たちに「いまどきの若い看護師は……」といわれていませんでしたか? その先輩たちも、若かりし頃は「いまどきの看護師は……」と言われ続けてきたはずです。

 

「いまどきの」というのは、かなり主観的な評価です。それは「看護師」という専門職としての客観的な評価に値するものではありません。だって、そもそも「看護師に求められていること」だって、10年も経てば変化しているわけですから、自分たちが新人だった頃の価値観ではかることそのものが、無意味になっていることだって少なくないわけです。

 

水は流れが止まり、ずっと、止まったままだと腐ります。常に流れているから、或いは時々入れ替えてあげるから、腐らないのです。逆にいえば「自分たちと同じような看護師」がもし新人として入ってきたら、おそらく環境の変化についていけなくて淘汰されてしまうでしょう。

 

彼らは社会人基礎力が「ない」「低い」のではありません。もしも彼女らにそれが欠けていたり、あるいは、彼女らが生き生きと仕事ができていないとしたら、それはその力を開花させることができていないだけです。別の見方をすれば、「いまどきの20代」といっても、彼女らが育った環境そのものは、先輩世代である私たちが作った環境です。

 

すぐには難しいかもしれませんが、「社会人基礎力のないやつらかれら」という色眼鏡を取り合えず外したうえで、彼女らの世代の価値観を理解することに勤めることが求められます。

 

次回は、これらの洞察を踏まえた上で、「3.じゃあその仕掛け、どうする?」ということを考えてみたいと思います。
 

(次回に続く)

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