看護管理なんてこわくない!(2)師長は看護部の要

看護管理なんてこわくない!(2)師長は看護部の要

2010.11.29 update.

中島美津子 イメージ

中島美津子

「じ」じゃなくて、濁らない「し」の「なかしま」です。夫の転勤により各地の病院に勤務。九州大学医学部保健学科、聖マリア学院大学看護学部、東京警察病院看護部長を経て、2010年5月より東京病院副院長となりました。研究テーマは「働きがいのある組織づくり」で、働き方についての認識のパラダイムシフトを図る啓発活動を全国で展開中。
「すべては幸せにつながっている」「ケア提供者が幸せであることは質の高いケア提供を可能にする」という信念の下、日々仕事を楽しんでいる超positive思考の二児の母。
みっちゃんのブログ(http://ameblo.jp/tokyobyouin-director/

第2回  師長は看護部の要(かなめ)

 

前回は、相手が患者という生き物であるか、組織という生き物であるかの違いだけで
物事を進めるプロセスは看護過程も看護管理も同じなんですよ〜ということをお伝えしました。
どちらも対象が違うだけで、マネジメント(=やりくり)は同じ。

 

ただ、別の見方をすれば、対象が異なるわけですから、
臨床現場のスタッフと看護管理者は、異なる次元で仕事をしなくちゃいけない、
ということも同時に言えるんです。

 

 

マネジャーは縁の下の力持ち

 

臨床における実際的な看護ケア、すなわちクリニカルケアは、対患者に対するマネジメントです。これがスタッフナースの仕事。

 

これに対して読者のみなさん、特に師長以上の役職についたみなさんは、自分が担当している部署(組織)に対するマネジメントがお仕事です。すなわち、皆さんは「マネジャー」なのです。

 

マネジャーというと、アタマに浮かぶのは、中学や高校の部活のマネジャー。

 

『もしも高校野球のマネージャーがドラッカーのマネジメントを読んだら』、通称「もしどら」という本がヒットしましたが、部活動のマネージャーだって、マネジメントという点では同じです。

 

例えば、サッカー部のマネージャーの役割は、大会での優勝といった目標に向って、部員であるサッカー選手がその力を最大限発揮できるよう直接的、間接的、さまざまな環境づくりを行うことです。

 

師長も同じです。部署の目標に向って、スタッフたちが自分たちの持つ専門性を十分に発揮できるよう、業務環境、労務環境を整え、スタッフの能力開発、人財育成を行います。そういう地道な、縁の下の力持ち的立場が、師長本来のマネジャーとしての立ち位置です。

 

師長の仕事は現場の下準備

 

でも、実際の看護部の組織って、なかなかそういうふうにはなっていません。
よく見るのは、看護部長が頂点で、スタッフが底辺のピラミッド型看護組織です。
でも、よく考えてみてください。

 

看護部という組織の目標は「質の高いケアを提供すること」ですよね。そして「質の高いケア」を提供するのは誰か、といえば師長でも、看護部長でもなく、スタッフです。だとすれば、クリニカルケアのプロであるスタッフが、余すところなく専門性を発揮できるような組織作りが必要です。しかし、底辺にスタッフが位置するピラミッド型の組織では、どうしてもスタッフの力を十分に発揮することはできません。

 

では、スタッフが質の高いケアを提供できるような組織とは、どのような形がよいのでしょうか。

 

まず、看護部長は、組織全体を俯瞰しつつ、方向性を決めていくポジションにいなければいけません。つまり、ディレクションのプロとしての役割、Director of Nursingでなければならないのです。

 

これに対して、師長の役割は、看護部長からのディレクションに耳を傾けつつ、直接的に患者と関わる最前線にいるスタッフの仕事を陰ながら支えること、です。

 

冬季オリンピックのカーリングにたとえるなら、ストーンを投げるのは看護部長、ストーンが目標にとどくように一生懸命ブラシでこすっているのが師長です。ストーン同士があたるサークルのなかはいわば「現場」ですが、看護部長や師長はそこに直接介入しません。その下準備をするだけです。

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「ピラミッド型のヒエラルキーをつくらない」「マネジャーは現場に直接介入しない」。これが、スタッフの力をいかす組織作りのポイントです。

 

でも、世の中には、「あたしが師長よ! スタッフよりもあたしのほうが力量が上なんだから!」という思いが、言葉には出なくても行動に出るタイプの師長さんが少なくありません。

 

読者の皆さんには、そんな師長さんになってほしくありません。師長さんの役割は、スタッフが気持ちよく仕事ができるようにする環境づくり。威圧感を与えたり、職場を牛耳っても、何もいいことはないのです。

 

師長が離職率を左右する

 

威圧感を与えていては、スタッフは萎縮してしまい、人財育成に逆効果。実は、これにはデータもあるんです。ある病院の離職率を調べたところ、師長によって、離職率に違いがあることがわかりました。さらに追跡調査をすると、離職率の高い師長が異動すると、異動先の部署の離職率が上がることもわかったのです。もちろん、その逆に、離職率の低い部署の師長は、異動先でも離職率が下がる傾向が見られました。

 

つまり、病院全体の離職率といっても、実は部署の雰囲気、師長の力量によって左右されている、ということです。職員は病院というより、ある部署で毎日の仕事をしているわけです。離職するかどうかは実は、その部署の雰囲気や労務環境によって大きく左右されるわけですね。

 

「病院の要は師長」ということを裏付けるようなデータだと思いました。師長さんたち、スタッフが忙しいからって、現場の仕事を手伝っている暇はありません。その場ではスタッフから感謝されるかもしれないけれど、小手先だけの対策では職場環境の改善はありませんよ!  

 

次回は12月13日(月)アップ予定です。

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