看護管理なんてこわくない!(3)

看護管理なんてこわくない!(3)

2010.12.14 update.

中島美津子 イメージ

中島美津子

「じ」じゃなくて、濁らない「し」の「なかしま」です。夫の転勤により各地の病院に勤務。九州大学医学部保健学科、聖マリア学院大学看護学部、東京警察病院看護部長を経て、2010年5月より東京病院副院長となりました。研究テーマは「働きがいのある組織づくり」で、働き方についての認識のパラダイムシフトを図る啓発活動を全国で展開中。
「すべては幸せにつながっている」「ケア提供者が幸せであることは質の高いケア提供を可能にする」という信念の下、日々仕事を楽しんでいる超positive思考の二児の母。
みっちゃんのブログ(http://ameblo.jp/tokyobyouin-director/

 

「夜勤の見直し」で時間を生み出せ

 

前回、師長が現場の仕事ばかりで管理をやらないでいると、現場の根本的な問題は何も解決しませんよ?というお話をしました。スタッフの仕事と管理者の仕事は違う。師長はマネジメントをしなきゃいけないんだ、ということです。

 

しかし、この話は建前としては正しいのですが、現実にはすべての施設にそのままあてはめることはできません。

 

野菜売り場と施設規模

 

同じ看護師、同じ師長という役職でも、現場の状況が違えば、その仕事は違います。たとえば同じ野菜を売る仕事でも、町の八百屋さんと、大型スーパーマーケットの野菜売り場では、求められるものが異なります。

 

もちろん、野菜のことをよく知っていて、お客様によい野菜を買っていただく、という目的は同じ。でも、八百屋さんのような小売商では、野菜を売るのと同じ人が、仕入れにもかかわらなければいけません。市場から「これだ!」という野菜を買い付けるのも大事なら、お客様との会話のなかで「旬の野菜の料理方法」なんかも話題にすることで、お客様に「これも買っちゃおうかな?」と思わせるのも仕事です。

 

また、八百屋さんでは野菜だけでなく、果物や、生活雑貨を置いてあることがあります。最近では、魚屋さんが魚を三枚におろしてくれるように、ちょっとした下ごしらえまでする八百屋さんもあるようです。

 

一方、大型スーパーの野菜売り場はそうではありません。もちろん、お料理方法の説明などもできたほうがいいですが、そもそもお客さんは、店員にそれほど話しかけないかもしれません。お客さんが店員に求めること(ニーズ)が違うわけです。

 

八百屋さんでは現場の仕事と管理の仕事にあまり境界線がなく、マルチな仕事が求められるのに対し、大型スーパーマーケットでは、現場の仕事と管理の仕事の間にある程度明確な線引きがあり、分業体制をつくりやすいということがいえるでしょう。

 

 

施設規模200人が境界線

 

病院でもこれと似た状況があります。つまり、施設規模によって、師長の役割に違いが見られるのです。有床診療所や小規模病院では、人員的な余裕がないこともあり、師長という肩書きでも、患者への直接的なケアや、ときには大病院なら明らかに薬剤部の仕事と思われる業務までこなしているケースが見られます。一方、地域中核病院など、ある程度以上の大きさの組織では、師長は管理(マネジメント)業を中心に業務展開できるのです。

 

私自身もまだまだ数少ない経験ではありますが、全国のいろいろな病院を拝見したなかでもった印象としては、200床くらいが、師長がマネジメントに専念できるか否かの分かれ目ではないかと思います。

 

ちなみに、わが国の医療施設に占める200床未満の施設の割合は約8割といわれています。管理業務に専念できるかどうかの境界線である200床前後の病院で、多くの師長が管理を行っていると思われます。

 

 

ポイントは夜勤人員のカウント

 

200床クラスの病院になると、それぞれの部署に師長がおり、そうした師長とは一線を画して看護部長、総看護師長といったトップマネジメントが配置されているのが普通です。つまり、第2回で示したような、トップマネジメント、中間管理者(師長)、スタッフという組織的な役割分担のベースはある。でも、だからといって師長がマネジメントに専念できる環境にあるかというと、必ずしもそうではありません。

 

原因の1つは、夜勤に対する施設基準の縛りです。診療報酬では、入院基本料の算定要件として夜勤に従事する看護職員の月平均夜勤時間数が72時間以下であることが求められています。月平均夜勤時間数は「月または4週間の夜勤時間帯に従事する看護職員ののべ夜勤時間数」を「夜勤時間帯に従事した実人員数」で割った数です。

 

このとき、人員不足の病院では、「分母」を増やすことで、「72時間以下」をクリアしようとします。しかし、子育て中であるなど、夜勤を頼みにくいスタッフが多いと、「分母」稼ぎのために師長が夜勤に入ることになりがちです。その結果、日勤帯に不在がちとなり、師長本来のマネジメント業務に集中できなくなってしまう、ということが起きてしまいます。

 

 

夜勤の見直しでマネジメントのための時間をつくる

 

「分母」稼ぎの夜勤から解放されることは、本来の師長業務であるマネジメントに専念するための第一歩といえます。しかし、「夜勤はできません」という人に夜勤をお願いするのは、師長としては心苦しいものがあるでしょう。そうした交渉をするより、自分がやってしまったほうが楽、という発想になるのもいたしかたないところです。しかし、師長がマネジメントに専念できる環境をつくることは、長い目でみればスタッフ全員にとって働きやすい環境づくりにつながるのですから、理解を求めていく価値は十分にあります。

 

では、具体的にはどうすればいいでしょうか。もう一度算定基準を見直してみると、「分母」である「夜勤時間帯に従事した実人員数」に入るためには、月あたりの夜勤時間が16時間以上なければいけない、とあります。三交代制の夜勤や、遅出、準夜などでは、月に数回夜勤に入らなければ基準に達することはできませんが、二交代制の場合、実は月に1度の夜勤で基準に達することができるのです(※)。

 

「夜勤人員」というと、「一律に月3回」などと決め付けてしまうのは「悪しき平等」の発想です。夜勤を拒否している人でも案外、「土曜日に1回夜勤するだけなら」と引き受けてくれるケースもあります。また、子育て中のナースを一律に夜勤から外している病棟もあるようですが、こちらも月1回の夜勤であれば、家庭状況によっては交渉可能ではないでしょうか。スタッフ一人ひとりの勤務可能な時間帯をもう一度チェックし、交渉してみることをお勧めします。「月1回夜勤」のスタッフを1人でも2人でも確保することができれば、「師長がマネジメントに専念できる環境」に一歩近づくことができるでしょう。

 

ただしこのとき、「看護師なら夜勤するのが当たり前でしょう?」というオーラを出しては絶対にいけません。師長の仕事はあくまでも働きやすい環境づくりです。無理に、威圧的に交渉するのは本末転倒です。あくまで「オタガイサマ」精神でお願いする姿勢が大切です。

 

もうひとつの考え方は、そもそもの人員配置をもう一度見直し、看護部に交渉してみることです。「必要人員の計算は看護部長にお任せ」「自分の病棟に人員がどれくらい不足しているのか、具体的に計算したことがない」という師長が少なくありませんが、それでは人員増を求めるときも「人が足りないので増やしてください!」としか言えません。「常勤換算で2.6人不足しているので、3人ほしい」と、具体的な数値で要求できないと、なかなか人員増は望めません。

 


※夜勤が18時から9時、日勤が8時半から18時の場合、日勤の8時半から9時の30分は、夜勤時間としてカウントされるため、月1回の夜勤でも、算定時間としては16時間以上にカウントされます。   

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