代官山 蔦屋書店イベント「対話について対話する一日」参加レポート [会場参加編]

代官山 蔦屋書店イベント「対話について対話する一日」参加レポート [会場参加編]

2025.12.26 update.

対談者プロフィール

小川公代(おがわ・きみよ)
上智大学外国語学部教授。著書に、『ケアの倫理とエンパワメント』『ケアする惑星』『翔ぶ女たち』(以上講談社)、『世界文学をケアで読み解く』(朝日新聞出版)、『ケアの物語 フランケンシュタインからはじめる』(岩波新書)、『100分de名著 ブラム・ストーカー「ドラキュラ」』(NHK出版)など多数。最新刊に『ゆっくり歩く』(シリーズ ケアをひらく、医学書院)。

斎藤 環(さいとう・たまき)
精神科医。筑波大学名誉教授。つくばダイアローグハウス。主な著書に『社会的ひきこもり』(PHP新書)、『オープンダイアローグとは何か』(著訳、医学書院)、『心を病んだらいけないの?』(與那覇潤氏との共著、新潮選書、第19回小林秀雄賞)、『100分de名著 中井久夫スペシャル』(NHK出版)、『イルカと否定神学』(シリーズ ケアをひらく、医学書院)など多数。

向坂くじら(さきさか・くじら)
詩人、小説家。「国語教室ことぱ舎」(埼玉県桶川市)代表。著書に詩集『とても小さな理解のための』(百万年書房)、小説『いなくなくならなくならないで』(河出書房新社)、『踊れ、愛より痛いほうへ』(河出書房新社)、エッセイ集『ことぱの観察』(NHK出版)など。Gt.クマガイユウヤとのユニット「Anti-Trench」朗読担当。

永井玲衣(ながい・れい)
問いを深める哲学対話や、政治や社会について語り出してみる「おずおずダイアログ」、写真家・八木咲とのユニット「せんそうってプロジェクト」などでも活動。第17回「わたくし、つまり Nobody 賞」受賞。著書に『水中の哲学者たち』(晶文社)、『世界の適切な保存』(講談社)、『さみしくてごめん』(大和書房)、『これがそうなのか』(集英社、11月発行予定)。

星野概念(ほしの・がいねん)
精神科医として働くかたわら、執筆や音楽活動も行う。著書に、『ラブという薬』『自由というサプリ』(ともに、いとうせいこう氏との共著、リトルモア)、『ないようである、かもしれない』(ミシマ社)、『こころをそのまま感じられたら』(講談社)がある。対話や養生、人がのびのびとできることについて考えている。

牟田都子(むた・さとこ)
校正者。図書館員を経て出版社の校閲部に勤務、2018年より個人で書籍・雑誌の校正を行う。著書に『文にあたる』(亜紀書房)、『校正・校閲11の現場 こんなふうに読んでいる』(アノニマ・スタジオ)、共著に『本を贈る』(三輪舎)、『あんぱん ジャムパン クリームパン 女三人モヤモヤ日記』(亜紀書房)ほか。

白石正明(しらいし・まさあき)
編集者。中央法規出版を経て医学書院入社。雑誌『精神看護』や「シリーズ ケアをひらく」を創刊。同シリーズは現在50冊を数え、大宅壮一ノンフィクション賞、新潮ドキュメント賞、小林秀雄賞、大佛次郎論壇賞などの受賞作がある。シリーズ自体も毎日出版文化賞を受賞。2025年4月に『ケアと編集』(岩波新書)を上梓。

BaseCamp(ベースキャンプ)
東京都豊島区千川駅のすぐそばにある就労継続支援B型事業所。精神疾患などを抱えるメンバーが集い、自分たちの生活について語り合うことから創作や発信を行っている。通称べーきゃん。「誰かの苦労をみんなで劇や即興パフォーマンスに」「モヤモヤは儀式にして置いて帰ろう」「経験をダンスに」などを合い言葉に活動中。

[会場参加編]対話とエンタメ

それでは、[対談編]に続き、[会場参加編]のレポートのほう、やっていきたいと思います。おさらいしておくと、会場参加型のプログラムは以下の3つになります。

  • 就労継続支援B型事業所BaseCamp「ラップやら寸劇やら」
  • オープンダイアローグ・シナリオ朗読会
  • フィッシュボール大会

タイトルだけでは、いったい何だろう??? という感じですよね。お任せください、そのためにこのレポートが存在しています。

それでは、就労継続支援B型事業所BaseCamp、通称べーきゃんの「ラップやら寸劇やら」から、ヒア・ウィ・ゴー。

■ べーきゃんがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!

朝のイントロダクションで、白石さんがこんなことをおっしゃっていました。

べーきゃんですが、非常に力が抜けた面白さがあるんですが、ただ、当たり外れがあって、スベることがままあるんですね。まあ、スベっちゃったときはスベりを楽しむということで。

むむ、そうなのか。とすると、今日は当たりなのか外れなのか? 力が抜けたべーきゃんとは裏腹に、見るほうは力が入ります。

あ、べーきゃん入ってきました。

対話とエンタメ_1

いきなり出ました! これは、スティーブン・マーチン脚本・主演の映画『サボテン・ブラザース』に登場する3人組のお得意ポーズ(5人いるけど)。いやはや、これからいったい何が起こるのか、想像もつきません! 以降、紙芝居風に写真メインで届けします。

対話とエンタメ_2 会場から相談者が壇上へ。ようこそ、べーきゃんクリニックに。お悩みを聞いていきます。
対話とエンタメ_3 べーきゃんクリニックですが、どうやら壇上にいる待合室メンバーが、相談者のお悩みについてリフレクティングをするということのようです。

待合室メンバーヨシダさんの口上からクリニックは始まります。

ここはべーきゃんクリニック、とびらも壁もございません。おはなしすべて筒抜けです。
解決なんぞ、いたしません。それでも何かが少しだけ、動き出すかも、、、出さないかも。
もしよかったら少しだけ、あなたのおはなしきかせてね。もしよかったら、どうぞどうぞ。
あなたも私もありゃしない~~

対話とエンタメ_4 待合室メンバー、アリスさんの自己紹介。
対話とエンタメ_5 同じく待合室メンバーのタンバさん。
対話とエンタメ_6 ヨシダさんは、ラップで自己紹介。
対話とエンタメ_7 クリニックの院長はぴよちゃん先生です。寝てるので、起こしていきます。
対話とエンタメ_8 起きました! どうやら最後に処方箋が先生から出されるようです。
対話とエンタメ_9 待合室メンバーとぴよちゃん先生とでぐだぐだ(?)のリフレクティング。
対話とエンタメ_10 でもって、最後はラップにて大団円!

いかがでしょうか。伝わりましたでしょうか。

個人的な評価を申すと、ネタの当たり外れは、当たり7、スベり3といった感じですかね。ですが、当たりの部分がめっちゃいい当たりだったので(ぴよちゃん先生を起こす場面、めちゃめちゃ笑えます)、全体として、べーきゃんクリニックは10点満点の大・成・功!

メンバーの皆さん、スタッフの中島さん、木村さんおつかれさまでした!

それでは、おあとがよろしいで。

■ オープンダイアローグ・シナリオ朗読会

さて場面かわりまして、こちらは、お客さん含めた全員参加のプログラムになります。

シナリオの朗読は、斎藤環さんや大井雄一さんが、オープンダイアローグの体験や、トレーニングの一環として行っている方法とのことです。

今回使用するシナリオは、星野さんが胃腸炎を患いながら書き上げたという渾身の作品。登場人物は、相談者のミカ、母の由美子、ソーシャルワーカーの資格を持つ春畑、看護師の資格を持つ吉田、経験専門家でオープンダイアローグを学んでいる道場の5人で、ある町の保健室で開かれる「お茶会」が舞台。保健室が主宰するオープンチャットにミカが「お茶会希望」と書き込んだことから開催が決まった。

参加者はそれぞれ登場人物の誰かになり、各役の代表者1人が、壇上で実際に朗読を行います。他の参加者は、自分と同じ役の人のセリフを注意して聞き、朗読が終わったあと、役ごとのチームに分かれて感想を出し合います。

対話とエンタメ_11 1チームが、壇上で朗読を行う。
対話とエンタメ_12 役ごとのチームに分かれてミーティング。

各チームとも、ミーティングは盛り上がり、全体への報告のときも、次々と手が挙がりました。出された感想を以下に掲載します。

シナリオへの感想、登場人物がそれぞれどういう役割を担っていたか、需要だと思ったシーン、実際の臨床と比べてどうか等々、いろいろですね。

(相談者のミカチーム)

  • ミカがこの「お茶会」に来てみようと思ったことがまずすごい。
  • リフレクティングと思われる場面のあと、ミカが口を開くようになるところが興味深かった。
  • ここで出されたのはそれぞれの感想なのに、その感想がつながっていくのが面白かった。2周回った。
  • シナリオ、パーフェクトだった。

(母親の由美子チーム)

  • 役割を捨てるというところがすごい。例えば由美子はミカのお母さんではなく、由美子さんとして話しているという点。
  • 家族だと、察し合う、話さなくてもわかるという前提ができてしまっているので、第三者の存在は重要。
  • ミカが話しているところに由美子が割って入る場面があった。話を奪わずに「話す」と「聴く」を分けることが重要。
  • 割って入りたくなったときどうすればよいかについて。話す順番が必ず回ってくることを共有すればいい。

(ソーシャルワーカーの春畑チーム)

  • 春畑は全体を見る人だったので、出た感想は春畑個人より全体に対する感想が多かった。
  • ミカや由美子が「~で」「~じゃん」のように言いっぱなしが多いのに対し、春畑は「~ます」「~しました」のように、語尾をしっかり付けている。なので、春畑が話すことにより区切りが生まれ、次の話に行きやすくなっているように感じた。
  • うつが原因だという観点が、次第に工務店に冷たくあしらわれたというところに変わっていくのが面白かった。
  • シナリオだからいいなと思った。シナリオだから、安心して聞くことができた。

(看護師の吉田チーム)

  • ミカと同じ看護師でありながら看護師の専門性は放棄し、ミカや由美子の感情をていねいに拾って、言葉を置いていく役割だったように思う。それにより、ややこしくなった状況がほぐれていったのではないか。
  • このシナリオは、臨床で実際に行うミーティングとくらべて、会話量は多いか少ないか? また、1回のミーティングに、何回くらいリフレクティングが入るのか? →1人1人の発話量は実際の臨床を思い浮かべながら書いてみました。リフレクティングの回数については決まっていることはなくて、その時々の流れで決まると思います。リフレクティングなしで1回のミーティングが終わることもあります(星野)

(経験専門家の道場チーム)

  • 語らず、静観している人だが、要所要所で重要な言葉を置いていた。ミカの感情にも影響を与えていた。
  • 沈黙をシナリオ上で表現するとき、「......」ではなく「10秒沈黙」のようにト書きにするとよいのではないかと思った。 →この発想はなかったので、聞けてよかったです。ありがとうございました。(星野)
  • 高校で教育相談やっているが、家族ぐるみで行う問題解決法として、オープンダイアローグは有効だと感じた。

イベント開始から5時間が経過していますが、皆さん大変熱心に参加されていました。

ここで、おやつ休憩。本イベントのために焼かれた Anjin オリジナルのガレットブルボンヌが振舞われました。

対話とエンタメ_13

時刻は16時30分、やや陽が傾いてきました。

■ フィッシュボール大会

シナリオ朗読会のあと、向坂さんと星野さんの対談を挟み、いよいよ最後のプログラム、フィッシュボール大会です。イベント開始から8時間強、陽はすっかり落ち、ここからは夜の対話の時間です。

対話とエンタメ_14

フィッシュボールは英語で書くとfish bowlですね。そのままの意味だと金魚鉢ですが、金魚鉢は丸くて透明であることから、輪になって座る閉鎖的でない空間という意味で、フィッシュボールが使われているのだろうと想像します。

舞台に5脚いすを置き、話したいことがある人はいすに座って話をして、もういいかなと思ったら抜けていきます。

1人が抜けたら1人が入るを繰り返し、そろそろ終わりにしますかねというとこまで語りのリレーを続けていきます。

対話とエンタメ_15

ちなみに、語りの一番手は、べてるの家の向谷地生良さんでした!

対話とエンタメ_16

何だか、林間学校でやるキャンプファイヤーみたいですね。火を見ながら話をしたり聞いたりしているうちに、火の粉を上げバチバチと燃えていた火が、徐々に弱くなり、少しずつイベントが終わっていくという。火が消えたら今日はおしまい......

それでは、このレポートもこのあたりで終えていきたいと思います。

そして、またどこかでお会いしましょう。だって、対話の目的は対話を続けることだけですから。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

レポート:金子力丸(医学書院)

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