かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
2023.6.08 update.
ふじい・てつや
豊橋創造大学 保健医療学部看護学科 教授。
『フィジカルアセスメントに活かす 看護のためのはじめてのエコー』では、編集・執筆を担当。
専門は基礎看護学。主に看護技術、フィジカルアセスメントに焦点をあてた研究を行っている。著書に『看護学生スタートブック』『系統看護学講座 看護情報学』(共に医学書院)などがある。
医学書院で書籍『フィジカルアセスメントに活かす 看護のためのはじめてのエコー』が好評発売中です。
超音波機器(エコー)に苦手意識のある看護師さんたちに、そのハードルを下げてもらいたいとの願いから生まれた書籍です。
「とにかく一度、プローブを持ってみてほしい。アセスメントに活用できる場面はこんなにあるんですよ」――そんな思いをweb連載にも込めました。
今日から3回にわたって、超音波機器の基本と書籍のご紹介をします。
臨床の看護師のみなさんは、身近なデータとして超音波画像を活用されていると思います。でも、それは医師や検査技師が画像や動画を描出・撮影したものが多いのではないでしょうか。
看護職のなかでも助産師の場合は、妊婦健診で自ら機器を操作していることが多いと思いますが、その助産師でさえも2019年実施のアンケートでは、超音波検査の技術・知識の自己評価は100点中26点と、とても低いことが分かりました1)。その理由は、「勉強の機会がない」「技術に自信がない」「高額な機器を故障させるのではないか」など、尻込みしている様子がうかがえます。
でも、心配はいりません。いまはポケットエコーが登場し、スマホを扱う気軽さで(実際にディスプレイ部はスマホです)エコーに触れることができます。10年前と比較するとずいぶん入手しやすい価格にもなりましたし、リースもあります。すでに、訪問看護や自宅出産で、看護師・助産師がポケットエコーを使っています。これからは、病院内でもベッドサイドで看護師自らが当たり前に超音波機器を扱う時代になります。
では、訪問看護や病院のベッドサイドで、看護師自らが超音波機器を使ってできるフィジカルアセスメントの場面を紹介しましょう。初心者でも、意外と簡単に画像を描出できる部位も多いのです(詳しくは書籍の第4章を参照ください)。
例えば、膀胱の観察は比較的難易度が低いです。身体の外側から膀胱内の尿量を把握することができれば、不必要な導尿を行わなくても済みます。直腸内の便の観察は少し難しいですが、超音波検査によって便の有無や、便の硬さなども把握できるため、適切なタイミングで下剤の投与や浣腸の実施ができます。排泄のケアは患者さんの負担も大きいので、負担を軽減するためにも超音波検査の活用は効果的です。
褥瘡は、視診や触診で深達度を判断しますが、表面上では浅い褥瘡のように見えても、深部の組織に損傷がある場合もあります。超音波機器を活用すれば、表面からは分からない内部の状態を観察できるため、正確な評価につながります。
書籍では画像を用いながら、プローブの操作や観察のポイントを第2章で詳しく解説しています。さらに、書籍では触れていませんが、分娩の場面では、胎児の下降を超音波機器で観察することもできます。何度も内診をせず、産婦さんへ負担を強いることも少なくできるのです。
超音波機器を扱う上で難しいと思われているのが、内臓の位置関係でしょう。プローブを動かしていても、何が映っているのか分からないと、正しい観察はできませんよね。超音波画像を読み取るためには、内臓の位置関係を理解していることが必要です。そこで、解剖が苦手な方にも理解しやすいように、書籍の第3章では体内のイラスト(解剖図)を用いて、位置を解説しています。
また、基本的に超音波画像とその横にシェーマ(イラスト)を並べて解説していますので、書籍と照らし合わせることで何が映っているか理解しやすいと思います。実際に超音波機器を操作しながら、書籍の画像と比較しつつ、同じような画像を描出してみてください。同僚と練習し合うのもお勧めです。
web付録として、書籍内に掲載したQRコードから、動画(一部静止画)にアクセスできるようになっています。これらも利用しながら、超音波機器に慣れ親しんでください。
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私は大学の教員ですが、本音を言えば、学生のカリキュラムに超音波検査が組み込まれる必要があると思っています。学生時代から慣れ親しんだツールであれば、臨床に出たときに、すぐにフィジカルアセスメントに応用できるはずです。いま、徐々にそのような流れがきているかな?と感じることもありますし、臨床現場ではすでに活用の場面も広がっていますので、看護師が当たり前のように超音波機器を手にして患者さんのベッドサイドを訪れる日も近いと思っています。
ポケットエコーの登場で、病棟や在宅で看護師の超音波機器(エコー)の活用場面が広がる兆しはありますが、まだ気持ちの上でのハードルがあるようです。それは、触れる機会の少なさや、技術への自信のなさなどが理由のよう。しかし、意外と簡単に画像を描出し、根拠のあるケアが提供できる部位も多く、業務の効率化を図ることができます。そこで本書では、初めて超音波機器に触れる看護師に向けて、分かりやすい表現を心掛けました。本書によって、超音波機器の活用場面と可能性が広がります。