第3回 頼るのではなく、頼られたい

第3回 頼るのではなく、頼られたい

2022.5.26 update.

さとうみき イメージ

さとうみき

2019年に、43歳で若年性認知症の診断を受ける。自閉スペクトラム症のある長男と、夫との3人暮らし。自身が診断された当時に強く感じた「当事者に会いたい」という思いは、ほかの認知症当事者も共通して持つものだと知ったことから、認知症当事者としての発信活動とピアサポート活動に力を入れている。活動を通して、自身もまたほかの当事者から「チカラ」をもらっている。
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「おれんじドア」は、認知症当事者による、認知症当事者とご家族のための相談窓口です。
JR八王子駅近にある市の施設で月1回開催される「おれんじドアはちおうじ」。そこで起こるエピソードや運営のあれこれを、若年性認知症当事者相談員であるわたし、さとうみきの目線でお届けします。なお、本連載に登場するスタッフ以外の方々は、個人が特定されないようにお名前やご年齢等を改変しています。

おれんじドアにはさまざまな年代の方がみえます。

 

若年性認知症のご本人とご家族の年代は、50代から80代と幅があります。

それぞれが抱えている問題や不安、ご家族の背景などはさまざまで、そのためご本人のお気持ちもおひとりおひとり異なってくるのです。

 

 

配慮されても「迷惑をかける」と感じてしまう

 

今回のエピソードは、若年性認知症のある50代の方。

おひとり暮らしをしています。

 

若年性認知症という診断を受けた後も、職場や仲間の理解を得て、今もご本人が納得いく形で仕事の継続ができているそうです。体調の変化によっては急に出勤ができなくなるかもしれないと、職場に近い社宅に暮らしています。

 

そのお話を伺ったとき、私にはとても恵まれた環境に感じられました。おひとりで生活をする際に起こる難しい場面や、体調の変化があってもSOSが出せる、その配慮に安心を感じました。

しかしご本人の口からは、こんな不安が語られました。

 

「わたしは、いつまでも働き続けたい。しかし、職場の仲間に迷惑はかけたくない」

 

やはり当事者は、周囲のひとに協力を得ることへの申し訳なさを感じてしまうのです。

 

「頼れるひとに頼っていい」と言うことは簡単でも、実際にそうすることの難しさ。

相手がご本人を思って、何かあったときに気づけるようにと配慮してくれたとしても、ご本人は「迷惑をかけてしまう」と申し訳なく思う。それが現実なのだと思い知らされました。

 

わたしは「それでも、職場が、今ご自身が納得できる環境を用意してくれており、『頼ってもいい』という状況を作ってくださっているのならば、今からでも甘え上手になっていただきたいのです」と伝えました。

 

でも、認知症と診断されたとき、わたしも「家族に迷惑をかけたくない」という思いがありました。

仕事を続けながら、認知症と共に生活する人の思い。

どんなに職場が配慮してくれていても、ご本人が甘えることのむずかしさ。

ご本人の考え方次第と思われるかもしれませんが、そこは診断を受けた当事者にしかわからない、認知症と診断を受けたひとと診断を受けていないひととの間にある、見えない壁なのかもしれません。

その壁は、社会や環境の影響を受けて、本人が作り出してしまっているのかもしれません。

 

 

自分の経験が誰かのためになるのなら

 

この日の後半になってその方から出てきたのは、「自分の経験を活かし、わたしも誰かのためのサポート活動をしたい」。そんなうれしい言葉でした。

 

わたしは、その方の生活の背景を思いました。

そして責任感があり、ひとに頼ることは難しいけれど、きっとひとからは頼られる存在でいたい方なのではないかと推測しました。

 

この日の「おれんじドアはちおうじ」はご本人ご家族のご来場が多く、おひとりおひとりとゆっくり時間をかけてお話しすることができませんでした。

 

そこで、最後にその方とわたしの2人の時間を作っていただき、別室「みきの部屋」へご案内。

 

わたしから、その方の思いをしっかりと聞き、「無理なく参加できるときにご来場いただき、わたしと一緒にご本人さんの言葉を聞いてみませんか?」とお伝えしました。

 

すると、キラキラとした素敵な表情で「はい。やりたいと思います」そんな言葉が返ってきたのです。

自分にも「役割」がある!

そんな声が聞こえてくるようでした。

 

その後、お仕事が忙しくなったとのことで、まだこの方との再会には至っていません。

周囲の方から、「○○さん、次は参加されるようですよ」と、情報だけはいただけます。

ひとに頼ることの難しさを感じながらも、きっとご本人なりの工夫をされていることと思い、再会の日を楽しみにしています。

認知症になったからこそできる活動も、ご一緒にスタートできたら、きっとこの方にとってエネルギーの源になるはずです。

 

 

認知症と診断を受けると、すぐに、「介護してあげなければいけないひと」、もしくは、「何かしてあげなくてはいけないひと」になってしまうケースが多いかもしれません。

しかし診断を受けたその日と、次の日は何も変わらないのです。

職場の環境であったり、ご近所付き合いであったり、家族や知人との関係が、認知症と診断を受けたというただそれだけのことによって、全く違うものになってしまうことを危惧しています。

 

残念なことに、現在のところ認知症は進行性の病気です。

でも、どんな病気にも初期の頃があり、役割を持って楽しく前へ進むことができるのならば、きっと楽しく、認知症と共に過ごす時間を続けることができるのです。

 

「おれんじドアはちおうじ」の扉は毎月第三土曜日に開いてます。

 

何気ない日常の話題。

何気ない夫婦の話題。

いまの世界情勢などの話題。

 

そんな話で盛り上がり、ふとした瞬間にご本人から語られる不安、そして孤独な気持ち。

そしてそんなご本人の表情が、明るく変化するとき語られる言葉。そんなひとことひとことを大切にしています。

 

その方に合った言葉を選択しながら、短い時間ではありますが、大切に寄り添い、最後はまた再会できることを願っています。

 

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