ファッションが足りない!第4回目は趣向を変えて、
国際福祉機器展(HCR)という展示会のレポートをお届けします。
HCRは、毎年秋に全国社会福祉協議会と保健福祉広報協会の主催で開催され、
衣類関連をふくめ、さまざまな分野の福祉製品が紹介される展示会です。
今年は9月25日〜27日に開催され、医療福祉業界関係者に加え、
福祉機器の利用者の方も多く来場されました。
私自身、ここ数回情報収集と勉強のために通っており、
特に今年は、「自分が欲しいと思うか」「お洒落だと思うか」という視点で見てきてみました。
そういった主観的な価値判断ではありますが、印象に残った福祉機器を紹介します。
お洒落製品を「福祉」に寄せた靴
HCRの衣類関連エリアでよく見かけるのは、靴。
ご来場者の関心も高いようでした。
今回目についたのはサロンドグレーさんの「100年シューズ」。
一般的な靴を履きやすいように改良した製品なので、
お洒落着にも合わせやすそうなデザインです。
面ファスナーが少し気になりますが、
パカッと開いて足入れが楽ですし、形もきれいでした。
福祉機器としての靴は、どうしても、
いかにも介護シューズという見た目だったり、
ウォーキングシューズのような印象が強かったりして、
お洒落着に合わせられるものを見つけにくいと個人的に感じていました。
介護シューズをお洒落にしようとしても、
ベースが介護シューズであれば、限界があるのかもしれません。
ならば逆の発想で、お洒落な靴を福祉仕様に寄せてあげる方が近道なのではないでしょうか。
医療福祉でのお洒落について、大事なポイントを見たように思います。
トイレ自立の機能性パンツ
名前からしてインパクトのある、
ご高齢の方が、トイレでボトムの上げ下げを一人でもできるようにと開発されたこのパンツ。
裏地の滑りが良いため、片手でもパンツを上げられますし、
すべり止めも付いているので、脱いだときに下までずり落ちてしまうことも防げる、機能性衣服です。
人の手を借りずに着脱できるということは、
生活の自由度に直結すると思います。
「ファッションで自立度が高まり、QOLが向上すること」
に関心のある私としては、気になるアイテム。
というわけで、一着入手して試してみたところ、
確かに滑りが良くて便利でした。
一見高齢者向けのデザインに感じられますが、
組み合わせ次第では20代の自分でも
着られるのではないかと考え、思い切って会社に穿いて行きました。(冒険)
ブラウスに、幅広のサッシュベルトを合わせてチャレンジ。
結論からいうと、違和感は否めませんでした。
お尻が大きく見えるのと、
ベージュの色合い的に普段着との組み合わせが難しい印象。
着用したのはMサイズだったので、
Sだと違和感を軽減できたかもしれません。
介護衣料をお洒落に着るのは難しい……ですが、可能性は感じました。
「ワイド」や「クロップド」など、さまざまなパターンがあり、
別素材でも発売されているので、オケージョンに合わせて使えそうです。
特に、上肢の動作や握力に不安のある方には
お役立ちのアイテムかもしれません。
着てみたくなるユニフォーム
HCRでは、ケアの担い手のためのアイテムも、数多く展示されています。
ユニフォームがその1つ。
以前、福祉業界の知人との会話で、
「介護の分野には憧れのユニフォームがないのでは」という話が出ました。
私は看護学生時代、学園祭での企画で、
「ナースウェア体験」「白衣体験」のコーナーを作ったことがあります。
看護師や医師は、ユニフォームそのものにアイデンティティがあるようで、
一般の方でも、ユニフォームを体験してみたいという方が多くいらっしゃいました。
一方、介護士は、なんとなく、ポロシャツやジャージのイメージが多いかもしれません。
介護の担い手を増やすうえで、ユニフォームはこの職業に憧れる要素の1つになるのでは。
知人と交わしたそうした会話を思い出しながら
ユニフォームブースを見ていて、「着てみたい」と思ったのが、
コシノジュンコさんのデザインで、スタイリッシュ。
カジュアルな印象の強い介護士ウェアのなかで、
ちょっと目を引くアイテムです。
もちろん、介護士には、優しい雰囲気の服装でいてほしいなど、
考え方はさまざまなので、絶対的にこれが良い、というものではありませんが、
自分が着てみたいと思ったユニフォームに巡り会うことが
珍しかったので、印象に残りました。
憧れの対象になりそうなユニフォームが、介護の分野でも増えてほしいです。
あらゆる腰痛持ちさんのためのパンツ
ケアの担い手向けのファッションで印象に残ったもう1つのアイテムが、
腰の保護のためのベルトが一体化しているだけでなく、
適切な位置にベルトがくるように設計されており、
ずれないというパンツです。
私は試してはいないのですが、私の周りに腰痛持ちは多いので、
いろいろな人が普段使いできればいいなと思いました。
汎用性が高そうです。
ベルトは内側につけて隠すこともできるそうで、
周囲から「腰が痛いのね、たいへん」という気遣いをされないように、
という開発者の配慮とのこと。
とはいえ個人的には、積極的に見せても良いかもしれないと思いました。
むしろ、「腰ベルトつけているから大丈夫」
というアピールをしてしまうくらいの勢いで。
ペイントしてオリジナルデザインにするなども試してみたいです。
ヘルパー向けはみんなも欲しい
汎用性が高そうな、ケアの担い手向けアイテムとして、もう1つ。
こちらの展示ブースには人だかりができていました。
人気の秘密は、「ヘルパーさんにとって使いやすいんだから、
きっとみんなにとって使いやすいに違いない」
ということでしょう。お洒落の視点からは外れますが、興味が湧いたアイテムです。
ものを作るとき、ユーザーの使用イメージを
できるだけ具体的に想定できているほうが、機能性も高まると考えられます。
「ユーザーは必ずタオルを入れるから、小さいポケットが要る」といったイメージです。
さらに、そうして作られたものは、想定したユーザーだけに便利なものではなく、
多くの人に便利なものにもなりえます。
こうしたアイテムに出会うと、
福祉機器の可能性の広がりを感じます。
福祉という分野にとらわれず、広く発信していけると良いかもしれません。
品の良さが漂う器
最後に紹介するのは、衣類ではありませんが、
実は個人的に一番欲しいと思ったもの。
一般的に、福祉的な配慮のされた食器は、
プラスチックでつるっとしていて、どこか「おもちゃっぽさ」を
感じるものが多い印象をもっています。
一方、MOASの器は磁器や漆で製作されており、見た目も上品で、
持ちやすい形で軽く、機能性もありました。
あくまで個人的な好みなのですが、
福祉機器の展覧会で、素直に「ああ、良いなあ」
と思えるものに出会えると嬉しいです。
福祉機器とはこういうものだ、という観念を越えて、
純粋にそれを自分も使いたいかどうかの視点で考えてみることも、
ケアや福祉を考えるうえで大切なのではないかと考えています。
主観とはいえ、介護や看護を受ける人の立場に立つことにも繋がると思います。
外からの視点で見つかる新たな価値
今回「自分が欲しいと思うか」「お洒落だと思うか」という視点で
福祉機器展に参加して感じたのは、
自分が使いたいと思うものは案外少ないということです。
会場内を歩いていると、どの製品も便利そうで目移りするのですが、
「自分が」「お洒落」ということになると、
琴線に触れるもののはなかなか出会えませんでした。
もちろん、私自身、現在ADLが高くて福祉機器の実需要がなく、
福祉の担い手の仕事でもないので、
欲しいものが少ないのは当然だとは思います。
とはいえ、上記のように、印象に残ったものはあったわけで、
むしろ、私のようなある意味部外者的な立場で見ても魅力的なものがあるということ自体が、
福祉機器を考えるうえで、面白いのかもしれません。
私以上に福祉分野に縁の無い人が見たらどうなのか、
ということも気になります。
より新鮮な視点で、福祉機器の良いところを見つけてもらえそうです。
先に述べたように、福祉機器には、
福祉の枠を越えた汎用性のあるものもあります。
あえて極めて主観的に見てみることで、
新たな可能性を見つけられるかもしれません。
福祉機器は、大きな可能性を秘めた、
研究しがいのあるものだとあらためて気づく機会となりました。